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短編『出会い』

作者: 神崎さくら
掲載日:2025/08/04

寒い。


暗い。


お腹が空いた。


……何で神様なんかになってしまったのか。


こんなものになってしまったから、

もう、ただの虫ではいられなくなってしまった。


わけのわからない理屈が、頭の中に勝手に流れ込む。


『信仰心』?

『神通力』?

『維持』?

『調和』?


わからない。わからない。わからない。


わからないから、気が逸れて――獲物を取り逃がす。


たまに捕れても、腹が満たされない。

……こんなわけのわからない存在になってしまったからだ。


だから自分は、実際には――もう、飲まず食わずだ。


 


「やぁやぁ、善き脚の多さですねぇ。素晴らしい虫っぷりです」


声が、聴こえた。


闇が裂け、何かが、食い破るように現れる。



白い蜘蛛だ。


でも、とてつもなく大きい。


すぐに分かった。


神だ。


自分のような昨日今日なった存在ではない、真に力ある神。


「……誰?」


「えっ、知らないんですか? これでも有名神のはずなんですけどぉ?」


闖入者の八つの目が、くるりと回転した。

ぞっとするような気配。だが、どこか親しげでもある。


「まあ、いいです。私ってば、身内には寛大な神様なので」


「……身内?」


何を言っているのか、分からない。


遥かに格上の存在が――

自分のような、昨日今日神になった存在を「身内」と呼ぶなど。


「そう、身内です。あなた、脚が六本ありますね?

頭部・胸部・腹部で構成されてますね?

つまり――昆虫の神ですね?」


「……」


「私はね、他の昆虫の神を勧誘してるんです。

お友達というか、仕事の同僚というか、仲間というか――

うん、家族になってくれそうな者を。


いずれは天照姉様……もとい、天照大御神様すら一目置く、最強神様団を作るつもりなんですよ。まああなたが最初ですけど」


「……」


「どうせあなた、誰にも祀られてなくて、このままだと消滅しちゃう感じでしょう?

『信仰されなくなった神は消える』。それが、日本神界(ここ)の摂理ですからねえ」


闖入者は、にやりと笑った。


「単刀直入に言います。私と来ません?」


「……まあ、いいですけど」


――怪しい。

けれど、このわけのわからないモノを説明してくれそうだ。


説明されれば、腹を満たすことだって、できるかもしれない。


 


「やったぜ! じゃあ、名前を教えてくださいよ、蟷螂ちゃん」


「……名前?」


さっそくまた、わけのわからない理屈が入力されてくる。


名前とは――

人や物を特定するために使用される名称のこと。

個人の身分や出自を示すものであり、他と区別するための概念。


……らしい。


 


「そんなもの、ない」



「ない? じゃあ、かわいい名前をつけてあげましょう!

そうですねぇ……既に超絶かわいい私の名前を、ちょっとだけもじって……んん~~~……」


八つの目が、喜びに細まり、神は高らかに叫ぶ。


「『吹流(ふる)』!!」


それが――すべての始まりだった。


遥か昔。数億年前の、出会い。


 



---


 


「……ところで、蜘蛛って昆虫じゃないですよね?」


 


「う、ううううるさいっ!! それは禁句ですっ!!

私が昆虫神って言ったら、昆虫神なんですよ!!」


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