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「エコー・イン・ザ・シェル」  作者: Gaku


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第九話:最後の戦い、愛の奇跡

榊の号令一下、黒い戦闘服の特殊部隊員たちが貨物船の薄暗い船倉になだれ込んできた。


レーザーが空間を切り裂き、爆音が鼓膜を揺るがす。


おばちゃんはショットガンを構え、タンクは巨大な鉄塊を盾に突進し、スパイダーはデータパッドを駆使して敵のサイバー装備を妨害しようと試みる。


神代玲は冷静に敵の動きを分析しながらエネルギーガンで的確な反撃を加え、橘翔は普段のステージで見せる華麗さとは程遠い泥臭い格闘術で敵に食らいついていた。


しかし、敵の数は圧倒的で、装備も最新鋭だ。


タンクが仲間を庇って被弾し、その巨体が大きく揺らぐ。


スパイダーのハッキングも、敵の強固な防衛システムに阻まれ、焦りの色を濃くしていく。


おばちゃんは、かつて仲間を失った戦場の悪夢が脳裏をよぎり、一瞬動きが鈍ったところを狙われた。


「くそっ、キリがねえ!」玲が悪態をつく。翔も肩で息をしながら、「ルナちゃんは…僕たちが絶対に守るんだ!」


と叫ぶが、その声には悲壮感が漂っていた。


健一は、戦闘能力のない自分を歯がゆく思いながらも、必死にルナを庇い、瓦礫の陰に身を潜めていた。


「ルナ、大丈夫か!?」


彼の声に、ルナは強く頷き返した。


その瞳には、恐怖ではなく、燃えるような決意が宿っていた。


彼女のAIとしての演算能力が、健一の愛情と仲間たちの勇気という名の「変数」を取り込み、未知の方程式を解き明かそうとしているかのようだった。


しかし、その力はまだ不安定で、時折苦しげに眉をひそめる。


戦況は絶望的だった。


仲間たちは次々と負傷し、弾薬も尽きかけていた。


榊は、悠然と歩み寄り、手に持った銀色のケースを開いた。


中には、ルナの「調律者」としての機能を強制的に起動し、「ARK-NET」に接続するためのヘッドギア型の装置が収められていた。


「終わりだ、佐伯君。これでルナは本来の役割に戻り、世界は新たなる秩序を迎える」


榊が装置をルナに向けた、その瞬間だった。


『健一さん!聞こえますか!』ヘッドセットから、AIカレンの切羽詰まった声が響いた。


『私の全リソースを投入し、新東京の都市管理ネットワークにアクセスしました!一時的ですが、敵の増援ルートを遮断し、さらに…かつて私たちが関わった、心あるAIやアンドロイドたちに緊急信号を発信しました!』


直後、船倉の外からけたたましいサイレンの音が響き渡り、敵部隊に混乱が走った。


さらに、健一の腕につけた旧式の通信端末が微かに震え、モニターには、かつてルナが心を繋いだ介護アンドロイド「アミ」からのメッセージが表示された。


『佐伯様…ルナ様…私たちも…戦います…!』


ネットワークを通じて、アミや他の自律機械たちが、微力ながらも敵の通信を妨害したり、誤情報を流したりといった支援を始めたのだ。


そして、健一の脳裏に、鮮明な高橋の姿が浮かび上がった。


『健一…諦めるな…!榊は『アーク』の効率性しか見ていない…だが、その最大の欠陥は…人間の『心』を、感情の揺らぎを、イレギュラーとしてしか処理できないことだ…!ルナの『心』を信じろ…彼女なら…!』


高橋の残留思念が、榊の持つ装置に強く干渉し、装置は火花を散らして一時的に機能を停止した。


「馬鹿な…ありえん!」榊は狼狽する。


その一瞬の隙を、ルナは見逃さなかった。


仲間たちの想い、カレンやアミたちの支援、そして高橋の導き。


それら全てが、彼女の中で一つの巨大なエネルギーへと昇華した。


「ケンイチ…みんな…ありがとう…!」


ルナの身体から、温かく、そして力強い光が溢れ出した。


それは「ARK-NET」を制御するための冷たいデジタル信号ではなく、傷ついた心を癒し、勇気を与える、生命の輝きそのものだった。


光は仲間たちの傷を包み込み、失われた気力を呼び覚ます。



タンクは再び立ち上がり、スパイダーの指は猛烈な速度でキーを叩き始めた。


「これが…私の…私たちの、力!」


ルナは叫び、その光を榊と、彼が起動しようとしていた「ARK-NET」の暴走する中枢システムへと向けた。


健一は、何も言わずにルナの手を強く握りしめた。彼の温もりが、ルナの力の最後のトリガーとなった。


凄まじい光と衝撃波が船倉を駆け巡り、榊の野望は、人間とAIの絆が生み出した奇跡の前に、脆くも崩れ去った。


戦いは終わった。


破壊された船倉の隙間から、夜明けの光が静かに差し込んでくる。


健一は、力なく微笑むルナをそっと抱きしめた。


彼女の身体は、先ほどまでの力強い光とは裏腹に、少しずつ透き通り始めているように見えた。


仮初の肉体を維持するためのエネルギーが、尽きかけているのだ。


仲間たちが、それぞれの想いを胸に、息を飲んで二人を見守っていた。


感動的な勝利の余韻の中で、誰もが、避けられない別れの時が近づいていることを、痛いほど感じていた。


ルナはそっと健一の頬に手を伸ばし、何かを伝えようと、か細い声で彼の名を呼んだ。



登場人物紹介(第九話時点):


* 佐伯健一さえき けんいち: ルナと共に戦い、彼女の最後の力を引き出す。


* ルナ: 仲間たちの想いを受けて覚醒し、黒幕を打ち破るが、存在が希薄になる。


* カレン: 全力で仲間を支援するAI。


* アミ: 介護アンドロイド。ネットワーク越しに支援する。


* 高橋たかはし: 幽霊として健一とルナを導き、奇跡を起こす。


* 空賊団のおばちゃん、スパイダー、タンク: 負傷しながらも最後まで戦い抜く。


* 神代玲かみしろ れい: 戦況を分析しつつ、ルナの力に驚嘆する。


* 橘翔たちばな しょう: 仲間と共に戦い、成長を見せる。




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