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第七話:呉越同舟、反撃の狼煙

空賊団のおばちゃんからもたらされた情報と、AIカレンが血の滲むような解析の末に手に入れた「プロジェクト・アーク」の断片的なデータ。


それらを突き合わせた健一の顔色は、地下シェルターの冷たい照明の下で一層青ざめて見えた。


人類の精神を統合し、特定の意志の元に書き換える――その壮大かつ恐ろしい計画の中心に、ルナがいる。


健一は改めて、この小さな少女を守り抜くことの重責を痛感し、固く拳を握りしめた。


数日後、約束通り空賊団のリーダーであるおばちゃんが、痩身で神経質そうなメカニック兼ハッカーの男「スパイダー」と、寡黙だが頼りになりそうな筋肉質の戦闘担当「タンク」を伴って、健一たちのシェルターを訪れた。


互いの顔にはまだ拭いきれない不信感が浮かんでいたが、「プロジェクト・アークを阻止し、ルナを奴らの手から守る」という一点において、彼らの目的は奇妙な一致を見ていた。


「さて、まずは状況整理と行こうじゃないか」おばちゃんはテーブルに古びたデータパッドを叩きつけるように置いた。


「奴ら…『アーク推進派』とでも呼んでおくか。奴らが近々、ルナを確実に捕獲するために、大規模な作戦を展開する兆候がある。新東京湾岸エリアの第7セクターにある旧政府系研究施設。あそこが奴らの重要拠点の一つで、そこにルナを『最適化』するための特殊な装置があるらしい」


スパイダーが神経質そうに指を鳴らしながら補足する。


「その施設のセキュリティは鬼レベルだ。だが、一箇所だけ、物理的に古いインフラ網と繋がっているポイントがある。そこからなら、俺の『蜘蛛の糸』で侵入できるかもしれねえ」


タンクは黙って頷き、その巨大な腕を組んだ。彼の存在自体が、あらゆる物理的障害を突破できる可能性を示唆していた。


作戦会議は熱を帯びた。


健一は施設のシステム構造を分析し、カレンはリアルタイムで外部ネットワークから関連情報を収集してサポートする。


ルナは、大人たちの緊迫したやり取りを静かに見守っていたが、その瞳には以前のような怯えだけではなく、何か強い意志の光が宿り始めていた。


その時、シェルターの入り口が静かに開き、二人の招かれざる客が現れた。


神代玲と橘翔だった。


「やれやれ、素人ばかりで話し合っても時間の無駄だと思ったが、少しはマシな顔ぶれもいるようだね」


玲は相変わらずの傲岸不遜な態度で一同を見回し、特にルナに視線を注いだ。


「『プロジェクト・アーク』をこのまま進めさせるのは、私の美学に反する。何より、最高の研究素材が汚されるのは見過ごせないからね。手伝ってやってもいい」


一方、橘翔は真っ直ぐな瞳で健一たちを見据えた。


「ルナちゃんを危険な目に遭わせる奴らは許さない。僕にできることがあるなら、何でもする。僕のファンや、僕を信じてくれる人たちのためにも、間違ったことは見過ごせないんだ」


彼の背後に控えるマネージャーは頭を抱えていたが、翔の決意は固いようだった。


こうして、40代の平凡なエンジニア、謎の美少女、裏社会の空賊団、天才プログラマー、そして国民的アイドルという、ありえないほどちぐはぐなチームが即席で結成された。


それぞれの特技と情報を持ち寄り、作戦はより緻密なものへと練り上げられていく。


ルナの特殊な能力は、まだ未知数な部分が多いため、基本的には保護対象としつつも、いざという時の「切り札」として温存する方針となった。


決行は三日後の深夜。


スパイダーのハッキングでセキュリティの一部を無力化し、タンクとおばちゃんが先陣を切って潜入。


健一と玲は後方からシステム支援と情報分析を行い、翔は彼の持つコネクションを使い、外部からの陽動や脱出ルートの確保を担当する。


ルナは健一と共に、比較的安全な司令ポイントに待機することになった。


作戦当日。


第7セクターの旧研究施設は、漆黒の闇と不気味な静寂に包まれていた。


潜入は予想以上にスムーズに進んだかに見えた。しかし、施設の中枢部に近づくにつれ、彼らは巧妙に仕掛けられた罠と、想定を超える数の警備アンドロイド、そして武装した兵士たちの抵抗に遭遇する。



「ちくしょう、数が多すぎる!」


タンクが重機関銃を乱射しながら叫ぶ。


スパイダーも次々とファイアウォールを突破していくが、敵の反撃は熾烈を極めた。


健一たちがいる司令ポイントにも、敵の増援部隊が迫りつつあった。


絶体絶命かと思われたその時、健一のヘッドセットにカレンの冷静な声が響いた。


「健一さん、敵の警備システムにバックドアを発見。一時的ですが、広範囲の機能を麻痺させます!」


直後、施設内の照明が明滅し、警備アンドロイドの動きが一斉に停止した。


さらに、混乱の中、健一の脳裏に懐かしい声が囁いた。


「健一…右だ…その先の通気ダクトが…制御室に繋がっている…急げ…」高橋の声だった。健一は迷わずその声に従い、隠されたルートを発見する。


一時的に敵の追撃をかわし、深手を負いながらも、彼らは施設の深部にある「最適化装置」の破壊と、重要データの奪取に成功した。


しかし、これはあくまで一時的な勝利に過ぎない。


「プロジェクト・アーク」の全貌は依然として謎に包まれ、黒幕はさらに強力な手段で彼らを排除しようと動き出すだろう。


施設から脱出した彼らの顔には疲労の色が濃かったが、その目には確かな絆の萌芽が見て取れた。


そしてルナは、炎上する施設を背に、何かを決意したように、夜空の彼方を見つめていた。



登場人物紹介(第七話時点):


* 佐伯健一さえき けんいち: 作戦の中心となり、仲間たちをまとめる。


* ルナ: 守られるだけでなく、強い意志を見せ始める。


* カレン: AIとしての能力を駆使し、仲間を救う。


* 空賊団のおばちゃん、スパイダー、タンク: それぞれの特技を活かし、作戦に貢献する。


* 神代玲かみしろ れい: 知的好奇心とルナへの関心から協力。


* 橘翔たちばな しょう: 正義感とルナへの想いから協力。


* 高橋たかはし: 幽霊として健一を導く。




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