表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第六話:黒幕の影、繋がる点と線

高橋の幽霊が残した「プロジェクト・アーク」という言葉は、健一の頭の中で不気味な反響を続けていた。


彼はあらゆるコネクションを使い、サイバーブレイン社のデータベースや旧友のネットワークを駆使して調査を試みたが、その情報は鉄壁のファイアウォールに守られているかのように、一切の糸口を掴めなかった。


まるで、国家レベル、あるいはそれ以上の何かが意図的に情報を遮断しているかのようだった。


AIのカレンもまた、その全処理能力を情報収集に注ぎ込んでいたが、得られるのは暗号化されたデータの断片ばかりで、核心には至れない。


ルナは、そんな健一の焦燥を感じ取るかのように、ただ静かに彼のそばに座り、時折、彼の手に自分の小さな手を重ねるのだった。


その温もりが、健一の荒みかけた心をかろうじて繋ぎ止めていた。


そんな膠着状態を破ったのは、意外な人物からの接触だった。


ある日の深夜、シェルターの旧式通信端末に、暗号化された短いメッセージが届いたのだ。


「例の小娘と『アーク』のことで話がある。指定の場所に一人で来い。罠じゃない。信じるかどうかはアンタ次第だ。――運び屋のおばちゃんより」


健一は逡巡した。


危険な罠である可能性は高い。


しかし、このままでは何も進展しない。


彼はカレンにバックアップを指示し、ルナには「必ず戻る」とだけ告げ、指定された廃墟ビルへと向かった。


そこで待っていたのは、やはりあの空賊団のおばちゃんだった。


しかし、以前の好戦的な雰囲気はなく、その表情には疲労と焦りの色が浮かんでいた。


「アンタの連れてる小娘…ルナとか言ったか。あの子、ただの人間じゃねえな。私らが追ってた『お宝』ってのは、実は『プロジェクト・アーク』の制御コアの一部でね。どうやら、あの子がその『起動キー』みてえなんだ」


おばちゃんは苦々しげに語った。


彼女たちは、ある巨大組織から高額な報酬で「制御コア」の奪取を依頼されたが、その過程で依頼主の真の目的が、単なる金儲けではなく、もっと危険で壮大な何かであることに気づき始めたという。


「私らはただの盗っ人稼業だ。世界の運命なんぞ背負う気はねえ。だが、あの子をあんな連中に渡しちまったら、とんでもねえことになる。それだけは分かる」


同じ頃、天才プログラマー神代玲もまた、「プロジェクト・アーク」の深淵に迫っていた。


彼は空賊襲撃時に観測された特異なエネルギーパターンと、ルナの持つ未知の干渉能力を結びつけ、それが過去に封印されたはずの巨大プロジェクトの再起動を示唆していると看破した。


彼がハッキングで入手した断片的な情報によれば、「プロジェクト・アーク」とは、全人類の意識を統合し、新たな進化段階へと導くという、壮大かつ危険極まりない計画だった。


そして、ルナのような特異な生体エネルギーを持つ存在が、その計画の触媒として不可欠であることも。


玲は、その技術的挑戦に興奮を覚える一方で、それがもたらすであろう破滅的な未来を予感し、複雑な表情を浮かべていた。


一方、人気アイドルの橘翔は、ルナとの出会いの後、彼女のことが頭から離れなかった。


そんな中、彼が所属する大手エンターテイメント企業「ギャラクシー・エンタプライズ」が、秘密裏に「プロジェクト・アーク」への資金提供を行っているという噂を耳にする。


彼は、自らの影響力を使い、信頼できるスタッフと共に内偵を開始した。


華やかなショービジネスの裏側で蠢く巨大な陰謀の影。


翔は、ルナを守りたいという一心と、持ち前の正義感から、危険を承知でその闇に足を踏み入れていく。


健一、空賊、天才プログラマー、アイドル。


それぞれの思惑と立場は異なれど、彼らが見つめる先には、「プロジェクト・アーク」という共通のキーワードと、その中心にいるルナの姿があった。


バラバラだった点が、徐々に線として繋がり始め、巨大な黒幕の輪郭がぼんやりと浮かび上がってくる。


シェルターに戻った健一を待っていたのは、カレンからの緊急報告だった。


「健一さん、発見しました。『プロジェクト・アーク』に関する機密ファイルの断片です。暗号レベルが高く、完全な解読には至りませんが…これは、人類の精神構造を根本から書き換え、特定の意志の元に統一しようとする計画のようです。そして、その最終フェーズには、『調律者』と呼ばれる特異個体の存在が不可欠であると…」


モニターに映し出された資料には、ルナの身体的特徴と酷似した『調律者』の概念図が示されていた。


健一は息を呑んだ。ルナは、ただの謎の少女ではなかった。


彼女は、世界の運命を左右するかもしれない、とてつもない存在だったのだ。


そして、その力を欲する強大な「何か」が、すぐそこまで迫っている。


登場人物紹介(第六話時点):


* 佐伯健一さえき けんいち: 42歳、独身。システムエンジニア。ルナの背負う運命の重さを知る。


* ルナ: 透明感のある美少女。「プロジェクト・アーク」の「起動キー」あるいは「調律者」とされる。


* カレン: 健一の家のAIコンシェルジュ。「プロジェクト・アーク」の情報を一部入手する。


* 空賊団のおばちゃん: 「運び屋」のリーダー。健一に「プロジェクト・アーク」とルナの関係を伝える。


* 神代玲かみしろ れい: 天才プログラマー。「プロジェクト・アーク」の危険性を察知する。


* 橘翔たちばな しょう: 国民的人気アイドル。所属企業と「プロジェクト・アーク」の繋がりを探る。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ