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第三話:空からの襲撃者

ルナとの奇妙な同居生活が始まって一週間が過ぎた。


相変わらず彼女は言葉少なで、食事も健一が心配するほど少量しか摂らない。


夜も眠っているのかいないのか、静かに客間のベッドで過ごしているようだった。


それでも、健一が帰宅すると玄関まで迎えに来たり、彼が仕事で使うデータパッドの扱い方をいつの間にか覚えて手伝おうとしたりと、少しずつ健一に心を開いている様子がうかがえた。


AIコンシェルジュのカレンは、「ルナ様の生態データ、依然として特異点多数。


しかし、健一さんとのコミュニケーションにおいて、感情パラメータに微弱ながら正の相関を確認」などと、相変わらず分析的な報告を繰り返すが、その声にはどこか人間的な興味が混じっているようにも聞こえた。


平穏な日常が続くかと思われた矢先、異変は突然訪れた。


その日は珍しく晴れた週末で、健一は気分転換にルナを連れて都市中心部の空中庭園へ散歩に出かけていた。


色とりどりの植物がホログラムの蝶と戯れる未来的な庭園で、ルナは初めて微かな微笑みを見せた。その瞬間、健一の胸に温かいものが込み上げてきた。


だが、その直後だった。


健一は背後に突き刺さるような複数の視線を感じた。


振り返っても、周囲には他の散歩客しかいない。気のせいかと思ったが、言い知れぬ胸騒ぎが彼を襲う。


そして、その予感は最悪の形で的中した。


「見つけたぜ、お嬢ちゃん!」


けたたましいエンジン音と共に、空中庭園の上空に3機の旧式ながらも重武装を施されたエアスクーターが乱暴にホバリングした。


中央の機体には、真っ赤な髪を逆立て、ゴーグルを額に上げた恰幅の良い中年女性が跨っている。


その口元には獰猛な笑みが浮かんでいた。


彼女の両脇には、痩身で神経質そうな男と、筋肉質で寡黙そうな男がそれぞれ機体を操っている。


「ターゲット補足!『運び屋』のおばちゃんだ!」地上で警備ドローンが警告を発し、周囲の市民が悲鳴を上げて逃げ惑う。


「さあ、大人しくこっちへ来な。乱暴はしたくないんだけどねえ、仕事なんでね!」


おばちゃんと名乗った女は、手に持ったスタンロッドを振り回しながら叫んだ。


その目は明らかにルナを捉えている。


健一は瞬時にルナの手を掴み、走り出した。


「こっちだ、ルナ!」


「逃がさねえよ!」


おばちゃんの号令一下、エアスクーターが二人を追う。


空中庭園の構造物を巧みに利用し、健一はルナを庇いながら逃げるが、相手は空からの攻撃だ。


レーザー弾が足元を掠め、熱波が頬を撫でる。


都市の低層部へ続く緊急避難用スロープを駆け下り、二人は雑踏に紛れ込もうとする。


しかし、空賊たちは執拗だった。


痩身の男が操るエアスクーターが先回りし、退路を塞ぐ。


「おっと、そこまでだぜ、坊や」


男はニヤリと笑い、エネルギー銃を向けた。


絶体絶命かと思われたその時、ルナが健一の前に飛び出した。


「危ない!」


健一が叫ぶより早く、ルナは小さな手を男のエアスクーターに向けた。


その瞬間、エアスクーターのエンジンが不自然な音を立てて停止し、計器類のランプが一斉に明滅を始めた。


コントロールを失った機体はバランスを崩し、近くのビル壁に軽微な接触を起こして煙を噴き始める。


「な、何だこりゃあ!? EMP攻撃か!?」痩身の男は混乱し、機体から慌てて脱出した。


その隙に、健一は近くに停車していた無人の公共エアカーにルナを押し込み、マニュアル操縦で強引に発進させた。


「しっかり捕まってろ!」


「ちぃっ!あの小娘、何かやりやがったな!追え、追えーっ!」


おばちゃんの怒声が背後から迫る。


新東京の摩天楼を縫うように、激しいカーチェイスが始まった。


健一の巧みな操縦と、時折ルナが発揮する不可解な力――追いすがる空賊の武器システムを一時的にダウンさせるなど――によって、なんとか追撃を振り切り、古びた地下駐車場へと逃げ込むことができた。



エンジンを切り、荒い息をつく健一の隣で、ルナは小さな肩を震わせていた。


彼女の顔は青ざめ、大きな瞳には怯えの色が浮かんでいる。


「大丈夫か、ルナ?」健一が尋ねると、彼女は小さく頷いた。


「一体、何なんだ…どうして俺たちが…いや、君が狙われるんだ?」


ルナは首を横に振るだけだった。


彼女にも分からないのか、それとも語ることができないのか。


健一は、目の前の少女がただ者ではないことを改めて痛感すると同時に、彼女を巡る巨大な何かの存在を肌で感じていた。


あの「運び屋」と名乗った空賊団。


彼女たちは一体何者で、ルナに何を求めているのだろうか。


静まり返った地下駐車場に、二人の荒い息遣いと、遠くでサイレンの音が微かに響いていた。



* 佐伯健一さえき けんいち: 42歳、独身。システムエンジニア。ルナを守るために奮闘する。

* ルナ: 透明感のある美少女。空賊に狙われ、謎の能力の一端を見せる。

* カレン: 健一の家のAIコンシェルジュ。

* 空賊団のおばちゃん: 「運び屋」と呼ばれる空賊団のリーダー。真っ赤な髪の中年女性。

* 空賊団のメンバー: 痩身で神経質そうな男と、筋肉質で寡黙そうな男。


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