演習
「剛力天山! 速流大河!」
ハガネは術式、絡繰五仙を出す。
「急ぐよ」
私達は呪霊をハガネと私、ニコラが祓いつつ、魔物はアレクとレオンが倒しつつ、先を急いだ。
「もうすぐ着くぞ」
「嫌な気配で震えちゃいそう」
少し広がった場所で、大きな呪物が埋まっていたのを見つける。
「リン」
「はい!」
リンは呪物に聖水を掛けて、舞を舞って歌う。儀式である。
それを邪魔しないように、寄ってきた呪霊を退治し、アレク達は魔物を倒したりその死体をどかしたりする。邪魔になるからね。
「何をしている!」
「魔物の召喚装置を解除しようとしてます」
数人の教官が来て、声を掛けられたので素直に答えたら、剣をスラリと取り出した。
「それは困るな。お前達には死んでもらう」
「えっ やっぱり一週間後の国立竜玉学院の研修の王子殿下暗殺狙いとかですか?」
「何故それを! やはり生かしておけん!」
「マジかー。レオン、アレク。牽制をお願い。ニコラはあれ使って」
流石に子供達だけで教官を相手にしろっていうのは無理がある。
最年長のレオンだって15歳。体が出来上がりきっていない。
「ハガネ。あれしかないね」
「仕方ないな。あれ魔力使うんだけど」
ハガネは印を結んで、魔力と霊力を練っていく。
大柄の騎士のような絡繰人形、剛力天山と、サメのような絡繰人形、速流大河が実体化した。
「な、なんだこれは!?」
「ご同輩か? 仲間になるなら命だけは助けてやろう」
「それはこっちの……。うーん。王子殿下暗殺なんて一族郎党処刑に決まってるから、巻き込まれが怖いわね。仲間にはならなくていいわ。この場で処理します」
「では死ね」
以前、文明進んでないな? って思ったけど、どうやら秘匿されていただけで、技術はあるようだった。そりゃそうか。
私とハガネはクナイを使い、二仙の援護のもと、戦闘を開始する。
この間もリンは歌って踊っている。儀式の中断は許されない。
カオスである。
なんと言っても相手は教官。手練れだ。
ギリギリ、かな。
ニコラが空中にハガネ作の発信弾を撃った。
何事かと人が来ることを祈る。
レオンの魔法援護は中々に的確で、助かった。
アレクは早々にレオンとリン、ニコラの護衛に切り替えたようだ。それも助かる。
私もハガネも子供だけど、プロの意地がある。
荒事と共に生きてきたのだ。
未開の地の蛮族なんかに負けてられない。
追い詰められた教官のリーダーっぽい奴が叫んだ。
「かくなる上は!」
呪物を飲み込もうとした瞬間!
「はぁー!」
リンが儀式を終えて、一般人には見えない光が当たりを覆った。
「な、なんだ……!?」
教官の手の中の真っ黒だった呪物は白く輝いていた。
地面に埋まった呪物もである。
「神の威光にひれ伏しなさい。何か理由があるのなら、聞きましょう」
「神官……!」
たじろいだ隙に、剛力天山が槍を突きつける。
「観念するんだな」
教官は、ガクッと肩を落とした。
そうこうしている間に、別の教官が近づいてきていた。
「魔物を作り出す呪物? が用意されてたぁ? なんだその呪物というのは」
「とりあえず、犯人を連行した後、証拠にご案内します。これはもう浄化してしまいましたし」
レオンはそれを聞いて、頰を引き攣らせる。
「まさか……」
「ええ、この森、いっぱい呪物が埋めてあるみたいだから、証拠には困らないわ」
「リン。行けるか」
「お任せください!」
そういうわけで、私達は呪物を浄化して回った。
最後、納得してもらった後は王子殿下が研修でいらっしゃるからとこっちがうんざりするほど念入りに呪物の捜索をやらされた。
教官達に着いては、呪物捜索の間に逃げられてしまったのが残念だが……。
とにかく、そういう団体がいる事がわかった。
それに、得たものはある。
もと呪物の巨大アミュレットの山である。
これは神殿に納入される事となった。
それに私達は、表彰と金一封をもらえる事となったのだ。これは嬉しい。
ニコラのお父さんは呪物を仕入れてたという事で、捜査協力がちょっと大変そうだったが、なんと国立竜玉学園の生徒からもらったという事で、大変そうだった。
どうも殿下のライバルの生徒が、焚き付けられてアクセサリーを渡されたものの、怪しいと思って売り飛ばしたらしい。賢い。
呪物を利用した団体が、王子殿下を狙っている事が明らかとなった。学校に通っているのは第二王子殿下で、殿下方の仲もよく、第一王子殿下は極めて優秀で第二王子殿下は若干マイペースでのんびりさん。第三王子は呪われているとのもっぱらの噂で、周囲としては有難い事に人望も適正もそのまま王位継承者順位準。下剋上の可能性はなし。どうして第二王子に襲撃が、と王宮は困惑。
リンは王子殿下の護衛を兼ねて学校を移動するという話も出た。大神官への道に大幅躍進である。
しかし、リンは見えない。
呪物を浄化できても、呪物の場所がわからない。当然、リンは見える人の助力を願い出た。
母と私、ハガネは身分が低すぎて国立竜玉学院に行くのはお互いに危険すぎる。ニコラもスーパー成り上がり組だそうで、礼儀作法に不安がある。
アレクも平民で、レオンはそもそも見えない。
そんなわけで困っていると、なんと王子殿下がこちらの学院に来るという事になった。王子殿下いわく、向こうがこちらに適応できなくとも、こちらは向こうに適応できる自信があるということで。本当だろうか。
第三王子も念の為こっちに来るとか。
平民中心の国立鴉玉学院の生徒はガクブルであり、今年卒業できる生徒はしてしまおうと俄かに活発になり出した。
物的証拠があるという事で、そこそこ信じてくれた王宮側は、私達に王宮で働ける見える人を探すことを要請。
見える人を探すのは私たちにもメリットがあるので、喜んでそれを承諾したのだった。
窓の外からハガネが絡繰五仙を出し、対象の貴族が窓を見て絵を描くという不敬罪が起こりようもない親切設計である。
庶民にも王宮にも適応できる見える人が現れる事を祈る。