表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/27

9話 血の棺 1

モータンに戻った私達は、またモータン支部のギルドマスターに呼ばれて執務室に向かった。


「カロアン、ムムシャ。吸血鬼化で力が増しても、行動原理と思考が魔物となってしまってはな」


ギルドマスターは結構年輩だから世代は違うだろうけど、無念そう。


気まずい~・・


「だが! ミリミリ隊は想定以上の活躍だ。この件に関する諸待遇は改めるっ。各地の他の隊や調査部、聖教会や結果的に対処することになった衛兵方面からも色々情報が上がってきてる。『ゼマン』、資料を」


「かしこまりました。こちらです」


ゼマンという名前だった体格のいい角のある『オーガ族』のセクシー秘書さんはどっさり資料を渡してきた。


「上位の吸血鬼は組織を束ね、ある種の『結社』を形成する物だ。ケリがつくまでは単独行動は控えるといい」


「うっ・・了解です」


「必ず祓ってみせます!」


「後の世の戯曲のネタにしてあげるわっ」


「それC級の範囲な。『助演』でいい」


「『馴染みの酒場に帰るまでがクエスト』。あたしん家の家訓」


温度差ありつつも私達は気持ちを新たに、まだまだ『バンパイアクエストラッシュ』挑んでゆくぞっ!



ギルドのオータン本部の、魔除けと防音効果の付いた小会議室が簡単な申請で使えるようになったから、そこで資料の確認をすることになった。


席に着いてバサバサ資料を広げていると、


「は~い、こちらギルドマスターからお茶とお菓子で~す!」


受付のワーラビット族『イナバ』がワゴンで赤発酵茶(あかはっこうちゃ)と焼き菓子をどっさり持ってきた! 高そうなヤツ!!


「「「お~っ!」」」


特に甘党でもないガンモン以外はテンション上がった!


「じゃ、方針固まったら『予約』を入れて、私の窓口まで来て下さいね~」


イナバは愛想よく退室していった。何気に専業クエストだから? 窓口指名制になったね・・


ガンモンは「これ、昼飯じゃないよな?」とか言いながら皿に程々に取っただけだけだったけど、他の4人は爆盛りぃ!!


ムシャムシャ食べながら資料の読み込み開始っ。


「むぅ~~。・・ブローカーは今んとこ『3体』が特定!『行き倒れを偽装する女』『強引に石を押し付けてくる大男』『双子の霊石商人』。エーサンの件とバズ・レンザの件はこの生き倒れ女ね」


石押し付けてくるヤツって、こっわ!


「メインターゲットです!」


うん、私ら的には生き倒れ女だね。生き倒れ女って呼ぶのもなんだけどっ。


「領内、及び国内の『穏健派の吸血鬼グループ』関与を否定。か・・穏健派って言われてもな」


わかる。


「ダンジョン以外にいる『攻撃的な吸血鬼グループ』は1ヶ所に長く留まれないから流浪してると思う」


代々冒険者やってる家系だから『野生動物の習性』みたいなノリで話しがちなテオ。


「なんにしても眷属を増やすにしては手間を掛け、確実性にも欠けてるわ。人目についてしまってるのもどうなのかしら?」


最近わりとちゃんとしてるソラユキ。ソラユキを真面目にしてしまうなんてっ、ゆるさん! バンパイア達っ!


「・・その辺が『ほんの余興』なんじゃないの?」


これ私。カロアンの言葉ね。


私達はそれなりにうんざりした。


高そうな赤発酵茶と焼き菓子を平らげながら、そっから装備の刷新の必要や、モータンの聖教会や衛兵本部に行ってみようという話にもなった。



その日の夕方。買い出しも済んだ後、レンタルしたギルドの鍛冶場で、東洋風の鍛冶装束のガンモンが『作業用ミスリルトンカチ』で、私のウォーハンマーを鍛え直してる。


私は見学してる。ソラユキ達は『暑いし危ないし、ガチガチうるさい』と、さっさと関係者用の歓談室に引っ込んじゃった。


「久々に見たけど、やっぱ元本職っ!」


「よせよせ。ハーフエルフは無駄に寿命が長いから、成り行きで食い扶持にしてた時期があっただけだ。それよか火花があぶねーし、暑いから、ミリミリも鍛冶場から出た方がいい」


「わかったけど、他の皆の分もよろしくだよ?」


「金属製の武器防具だけだぜ? ・・それから、ソラユキやポポヒコなんかはだいぶ頭にキてるようだが、間合いの取り方は気を付けようぜ? ミリミリリーダー!」


「私がギルドにリーダー登録それたのは未だに納得いってないけど、落ち着いて当たろうとは思ってるよ。ガンモン」


「おう」


私は焼け付くような鍛冶場から退散することにした。


ガンモンのお陰で、


私のウォーハンマーは、アンデッドに効果大な『シルバーハンマー』に強化! 近接予備武器の重い小剣『グラディウス』と『ポールアクス』も取り敢えず+1評価の魔力の籠った物には改良してもらった。


他のメンバーの強化の甘かった金属装備も一通り最低限度は強化できた。しゃっ。



聖教会は夜は対応してくれなかったから、先にモータンの衛兵本部に向かう。


「ミリミリ!」


ロビーに入るなり、聞き間違えのある声。


「おー」


エーサンの町の坊っちゃん衛兵小隊長だ。名前は確か・・


「ザリデ・ヒルベリー!」


そう鎧じゃなく衛兵の制服のヒルベリー坊っちゃんが親しげにこっちに来る。


「なにしてんの? あ、間違えた。なにしてるんですか?」


「ははっ、公じゃなきゃ敬語はいいよ。地方衛兵で階級低いしな」


「随分慣れてくるじゃない」


翼で私を押し退けて前に出てくるソラユキ。


「そんなことないけど? 俺は領衛兵も一連の初期対応で絡んで者から選抜で『吸血鬼討伐団』を作ることになってさ。上に押し付けられたんだ。実家は陽の目をみる機会だ! なんて言ってくるけど、参ったよ」


「吸い殺されておしまいなさいなっ!」


「えー?!」


「いやいやっ、ソラユキ! 凄いツンケンするじゃん??」


ソラユキを宥め、ヒルベリー坊っちゃんと別れた私達は取り次いでもらい、件の吸血鬼討伐団の団長と面会することになった。


「何年か前に『ハイバンパイア』を仕止めたことがあるのだが、あれは偶発的な状況で『その筋の玄人』と誤認されているのは甚だ遺憾だ」


爬虫類種族ワーリザードの女性だった。ギルドなら絶対B級前衛職のフィジカルの圧っ!


「討伐団団長の『モロゴン・アテカ』だ。普段は領内の各所のダンジョン周りの仕事をしている」


「そう、ですか。へへへ」


どっちかというとダンジョンの『階層守護者』っぽいアテカさんっ。


「我々は正直動き難いところだ。どうも『組織的な愉快犯』のように振る舞っているが、魔物であるしな。当面は公権が有効な場面での『配慮』と、冒険者ギルドか聖教会で人手が必要な際に人をいくらか融通する程度だな」


「助かります!」


「あの、あたし達の火縄の使用許可。下りないですか?」


テオが申し出た。鍵師クラスと暗殺者クラスはどちらも火器使える。が、国法でも領法でも火縄はフリーで携帯できない。


短筒(たんづつ)の貸与くらいはするよ? 一筆書いてもらうが、火薬と弾丸もここの備品課で買った方が安い。他には?」


私達は顔を見合わせた。あとなんかあったっけ? あれ? なんか忘れてるような・・


「バズ・レンザは他のブローカーに騙された逮捕者共々王都に送った。忘れてたろ?」


「いやぁっ、デヘヘ」


そういえば! エーサンの採取業者の人もあれきりになってたしっ。


「全員、事態収拾後に別の領に放免だ。ただし事態が悪化した場合、それなりのことになるだろうな」


アテカさんは岩のような顔の表情を崩さずそう言った。

冒険者って通常は気楽な商売だと思うんだけど、胃、痛くなってきたよ・・


この後、テオは『2連短筒』と整備具を衛兵本部で借り、『小火器純正火薬』と『銀の弾丸×20』と『汎用弾丸×50』を購入。

短筒使いテオ! 爆誕っ!!



・・・モータン聖教会の聖堂(本部)の西館地下へと続く螺旋階段を僕は延々と降りていた。

犬型獣人『ワードッグ族』の助祭の方が1人カンテラを持って案内してくれていた。


モータン司教様は厳格な方だと聞いていたけど慈悲深い方だった。

親族でもない僕にも最後の面会を許してくれた。


不完全でも、やはり吸血鬼化していたヒロシは近々浄化される。


僕はヒロシの友達だったのだろうか?


今朝は通風口の吹き込みが強いらしく、下方から風が吹き上げていて、ワープラント族がよく被る穴空き帽子から飛び出てる今の季節の花々が揺れてる。


「マナが少し強くていくらか光って見えるが、白くて薄い花ばかりだな」


ヤンター郷内への正式な居住許可と、戸籍がほしくて、蘇生所(そせいじょ)と役場の探索課に雇われて苦界迷宮で遺体回収や設備補修の仕事をしていた頃に僕はヒロシに出会っていた。

トロル・マスカレードに襲われた僕は当時の同僚達に見棄てられ、ヤツらの『食糧庫』からヒロシとその時のパーティーメンバーに救出されていた。


『御馳走』だったらしき僕は生きたまま保存液の中に漬けられていたお陰で、傷は無くても意識朦朧としていて地上で解毒処置が必要だった。


脱出の鏡が使用可能なポイントまで、取り敢えず防寒マントにくるめられた僕は作業用小型ゴーレム2体に担架で運ばれていた。


ちょうど目が合い易い位置に花が咲いてるワープラント特有の頭が出ているから、何気にヒロシがそう話したことはよく覚えている。


「・・・」


クエストに必要なことの聞き出しはミリミリ達に任せて問題無いだろう。同じC級でも僕はヤンター郷と苦界迷宮のことしかよくわからない。


地下から吹く風は少し黴臭くはあってもそこまで不衛生な感じではなかった。


せめてもだと、僕は思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ