8話 夜に惑う 4
2発の銃声! 火縄使い2人の銀の弾丸の銃撃で、的が大きくなっていた両腕の二の腕に風穴を空けられて浄化の火で燃される行商バンパイアっ!
私は馬で擦れ違い様に左腕を殴って千切ってやり、ソラユキもバインドリングを捻って右腕を千切った!
「あ痛たたっ、でも! よいしょおっっ」
腕を失った行商バンパイアは、回り込んできて追い打ちを狙ったさっきの衛兵2人に向かって燃えて苦しむ吸血驢馬の頭部を『蹴り千切って』吹っ飛ばして当て、落馬させた。
さらに派手に出血する吸血驢馬の首の傷口に『絞った雑巾のようになって』身体ごと潜り込み、中から蝙蝠じみた翼を伸ばして鉄の荷車との拘束具を弾き飛ばし、傷口から一体化した頭部を出して宙に飛び上がった!
「馬の脚もいいですねっ!」
四肢を巨大化させて衛兵4騎に襲い掛かる!
後ろ肢2本は馬で駆け込んだガンモンと坊っちゃん隊長が切断し、前肢1本はテオが投げ付けた鎖鎌で斬れたけど、もう1本が衛兵1人と馬をぺしゃんこにしちゃったよ・・
「おっと、1人だけですか。でもよい心地!」
嗤って飛び上がったけどさっ。
「どぉりゃっ!」
「ファイアショット!」
不完全な溜めのギガントスローとソラユキの火炎弾で左右の翼を失い、落下したところをガンモン、坊っちゃん隊長、テオの連続攻撃でズタズタにされ、トドメに火縄で銀の弾丸を眉間と驢馬の胸部に撃ち込まれ、騾馬合体行商バンパイアは倒れた。
「あー、ははは。ま、こんなもんか・・それでは、また、地獄で御贔屓に・・ははははは」
行商バンパイアは燃え尽きていった。
レッサーバンパイア達も掃討できていた。
「蘇生は無理そうですが、吸血や血の感染な無いようなので遺体は呪われてはいません」
「このような場には放置できませんが」
助祭2人は衛兵の遺体を検分して言った。
坊っちゃん隊長はため息をついて、
「・・連絡も必要だ。銀毛種以外の馬と遺体を馬番役のE級3人に頼もう。使い魔は一応霧を出てから使え。聖水は惜しまず被ってゆけ。経費はアレするんだろ?」
嫌そうなE級の3人に大まかに命じた。
私達は馬から降りた残りの衛兵6人と助祭2人と先へ進むことにした。
ウィスプの緑の炎だけを頼りに深くなる霧の中を進むと『家』はあった。
元はしっかりした造りだったらしい屋根裏部屋付きの平屋は、奇怪な植物に覆われ歪んでいた。
「いますね。2体! 行商や評論家より手強い気配ですっ」
「あたしも感じる。1体は生きてるの、かな?」
ポポヒコとテオははっきり探知してるけど、ヤバい気配はこの距離なら私にもわかる。
「ミリミリ・シルバーポット。ここはなにか呼び掛けるべきじゃないか?」
不意に聞いてくる坊っちゃん隊長。
「え? そういうのは衛兵がするんじゃ?」
「大声を出したら狙われそうだ!」
「なにそれっ?!」
「ちょっと、ちょいちょい2人でじゃれるのなんなのかしら?」
「は? じゃれてないっ!」
変なこと言ってくるソラユキ。私はもう面倒になって、大声で呼び掛けようとしたその時っ、バタン! と家の玄関が独りでに開き、中から車椅子を押して女が現れた。
「カロアン!!」
資料の何年も前の健康な時の光画と変わってないっ。車椅子に座ってるのは包帯でくるまれたワーキャットの女性・・
「おお、美人だ。いてっ」
余計なこと言ってテオに肘鉄されるガンモン。
「あと少し。あと少しでムムシャの怪我がよくなるから・・邪魔をしないでっ!!」
急激ち吸血鬼の本性を表し、影から多数の『血の犬』を噴出させ、虚空から氷の剣を2本出して二刀流の構えを取るカロアン!
「構え!」
「ムムシャさんは衛兵さん達で!」
『ただ座ってるだけ』なワケないしっ。
助祭さん2人がまたブレッシングを衛兵と自分達に掛け、ポポヒコが私とテオの武器にホーリーエンチャントを掛けるまではさっきと同じ!
「『ディフェンド』!」
即、捌ききれないとみたソラユキは防御魔法をパーティー5人全員と馬に掛けた。
テオは血の犬の始末に専念しだし、私とガンモンはカロアンに馬を突進させた。
「凍てつけ!」
カロアンは犬の一部にムムシャを護らせ、駆けながら凍り付く衝撃を連発してくるっ。
私とガンモンは馬で避けながら回り込みに掛かるっ。
一瞬ガンモンと目が合う。確認した。
『このままだと馬、死ぬから降りんぞ?』
程好いタイミングで飛び降りるっ。カロアンは走り去る馬はスルーした。たぶん生前いい人!
左右からガンモンは居合い・イズナ巻きで、私は盾系スキル『鉄亀』でソラユキの護りにスキルの魔力障壁を足して展開して、挟み撃ちに掛かるっ!
ガキィッッ!!
実践で使う人、初めて見る凍結系双剣スキル『二弧凍み月』で2人纏めて突進をディフェンドごと打ち消された! 地力の差、相当あるねっっ。
でも、悪いけど生前のスキルは資料で把握済み!『吸血鬼化で全盛期以上の力になってる前提』で対策立ててたっ。
心眼の見切りで私より動作復旧の速いガンモンは火の属性触媒『ファイアジェム』に魔力を込めて投げ付けて飛び退き、炸裂させるっ。
私はその爆風を怪力アビリティーと素の+1盾の防御力で耐え、耐え切ったその時にはもう『力の溜め』は済んでる!
「(いきなり)3っ!!」
ファイアジェムでヒビの入った氷の双剣をヘビィスタンプで叩き割るっ!
そこへ、
「ファイアボール!!!」
駆け込み距離を詰める馬上で魔力を練っていたソラユキが特大の火球を撃ち込んだ!!
氷を両腕に纏ってガードするが、巨大火球に歪な家の壁面まで吹っ飛ばされ、火球が炸裂して家ごと焼かれるカロアン! 血の犬達は腐った血に還って滅びてくっ。
「ああぁぁぁーーーーっっっ!!!!」
絶叫に、車椅子のムムシャが反応した。
「ニャアーーーゴォッッッ!!!!」
胸部が赤黒く発光するっ! 呪いのブラッドストーンだ!!
「そっちっ?!」
包帯を突き破り噴き出した鮮血の渦を纏う『猫のごとき巨獣』に変化する! 血の犬に手こずっていた衛兵達が慌てるっ。
「フニャッッ!!」
ギリ躱した坊っちゃん隊長と、後衛の火縄使い以外の3人を吹っ飛ばし、ソラユキに突進しだす巨獣化ムムシャ!
テオが鎖鎌を放ったけど、咬み砕かれた!
「マジ??」
私とガンモンも急いだけど、ソラユキは一瞬馬で逃げかけて、狙いが完全に自分と了解すると馬はそのまま走り逃れさせ、自分は翼をはためかせて真横に逃げだした。
それを追う巨獣ムムシャ!
「『ホーリーショット』!!」
神聖属性弾でムムシャの横っ腹を撃って押し留めるポポヒコ! しゃっ。
ソラユキは真上に羽ばたいて一旦逃れた。
私とガンモンは追い付き、打ち掛かるけど血の渦が邪魔過ぎる!
「ファイアショットっ!」
ここでソラユキが頭上から火炎弾を撃ち込み、血の渦を3割くらい払って、怯ませてくれたっ。
「ミリミリ!」
ガンモンの呼び掛けで了解して、私は溜めに入り、ガンモンは斬り掛かり、追い付いたテオが聖水を投げ付けた!
火縄で銀の弾丸が散発撃たれ、ポポヒコがガンモンにヒールを掛け、坊っちゃん隊長がサーベルをムムシャの肩に投げ付けて刺した。
助祭2人は瀕死らしい3人の衛兵にヒールしてる。
3っ、溜まった! でも距離あるのと、ソラユキも溜めを作ってたから、ギガントスローに切り替えるっ!
「どぉりゃぁ!!」
まだ神聖付与が有効なウォーハンマーで血の渦を突き抜け、巨獣ムムシャの胸部のブラッドストーンに直撃させるっ!
ヒビが入った呪いの石! 仰け反るムムシャ! ソラユキの溜めも済んだ!!
「『サンダーランス』っ!」
雷の槍がブラッドストーンを打ち砕き、ムムシャを貫通した。
「ギャゥンッッ!!!」
血の渦が解け、横倒しになり、傷口から燃えだし、炎上してゆくムムシャ。
「っ!」
そのすぐ側に、突然テレポートしてくる燃えているカロアン。
ガンモン達は飛び退いた。
火縄の2人が撃とうとしたが、それは坊っちゃん隊長が手を上げてやめさせる。
「ムムシャ。また一目、逢いたかった・・」
カロアンが巨獣のムムシャに身体を寄せると、ムムシャは喉を鳴らした。ミストコテージも焼け落ちだし、霧も晴れだしていた。
もう今しかない。私は進み出た。
「カロアンさん。伯爵というのは? あなたも元はギルドにいたはずです」
眠そうに私を見るカロアン。美人過ぎて怖い。ソラユキが近くに降りて、怯んだ私の肩に手を置いて支えてくれた。
「彼らにしてみれば、ほんの余興。あまりに永い夜が、退屈で・・」
は?
「なにそれ? ふざけないで下さいよっ?!」
「地獄はどんなとこかな? ねぇ・・」
カロアンとムムシャは目を閉じ、浄化の炎に焼かれていった。