6話 夜に惑う 2
情熱的なダンス!
ソラユキは普段から『ダンシングローブ』ていう踊りに適した変わった法衣を着てるけど、今は煌びやかでセクシーなガチのステージ衣装を着て、他のエーサンの劇場の踊り子達を率いて踊っていた。
それを熱狂する客席のVIP席で見ている私達。
「吸血鬼退治より、こっちの方が儲かりそう」
私が冒険者じゃなくてどっかエーサンの市場とかで働いてて、普段のアレなソラユキを知らなかったら劇場通っちゃうよね。
「ミリミリ、毎回そんなこと言うよね」
「・・・」
テオの低いテンションのツッコミに取り敢えず黙る私に、ソラユキはまたウィンクしてきた。
なんで急に休暇みたいなことしてるか? というと、『聞き込みの流れ』だよ。
失踪した行商は普通の流しの行商で、特に背景もない男だったけど、足取りは不明。
取っ掛かりが無さ過ぎる行商の捜索はもう衛兵とギルドの調査部に任せて、私達は『被害者と推定される』この町の若い娘達について聞いて回ることにしていた。
失踪は歓楽街の女達に集中していた。
「少なくとも初期段階では被害が明るみに出難い、ということはあったかと思います。夜の街の女性達ですし・・多少失踪者が多いと思っても、この町のギルドの我々もここの衛兵も聖教会も、領内の吸血鬼騒動の話と繋げて思考するには至りませんでした」
というのが、エーサン支部のハーフエルフのギルド職員の談。
モータンでは『いくつか状況が固まってきた』ぐらいの認識だったけど、内一つの現地にきたらもう『手遅れ感』凄い・・
私達は失踪者を出してる店に聞き込みを始めたんだけど、なにしろ歓楽街! 舞台もあちこちあってソラユキの『踊りたい欲求』がどんどん高まりとうとう我慢できなくなっての現在の、
『ソラユキ・ワンマンショー』
となったワケ。いや、ちょっと開店前に踊らせてもらうかと思ったらこんなガッツリやるとはねっ!
「最後の振り、来ますよっ」
すっかり観覧モードのポポヒコ。ヒロシ達のこと忘れないでね!
と、翼を生かしたド派手なスピンからのバルタン族特有のジャンピング&滑空錐揉み宙返りからの翼を大きく広げるポージングで、曲がバチっと終わり紙吹雪が舞うと、客席は大歓声包まれた。
汗だくでやりきった、女神のような微笑みで客席を魅力するソラユキ。
今からでも遅くないからモータンとは別の街の歌劇団に戻った方がよくない? マジでっ!
ステージ後の熱気が凄い楽屋に行くと、ソラユキ以外の踊り子達も劇場スタッフも大興奮だった。
評論家や輩感ある興業主も来てちょっと収まりつかない。だけど、
「ソラユキ戻ってこい。時間は押してる」
「あんたは大きい集団で長く活動するのは無理」
容赦無いガンモンとテオっ。
「ふふ、わかってるわよ。でも久し振りに、気持ちよかったぁ~」
どうやらソラユキの踊りたい欲求は一段落ついたようだった。そこはよかったね。
湯浴みと着替えの済んだソラユキと合流し、一通りは聞き込みは終えていたから私達はギルドが手配してくれた宿に向かっていた。
すっかり夜。特に歓楽街は魔力灯が多く点いてる。
機嫌のいいソラユキが全員に甘い蜜バター炒り焼きトウモロコシ菓子を買ってくれたから、全員それをまくまく食べながら歩いてる。
一生食べてられそうな味と香りだわ。
「ここで『発生』したとして最初は見付かり難いから歓楽街で『狩り』をしていたんだろうが、ちょっと引っ張り過ぎじゃないか? 一番最近の失踪は昨日だ」
「ヒロシ某さんは見境無くなってる感じだったけど、あれは発生直後だろうしね」
糖分を取ったからか『考察モード』なガンモンとテオ。
「ヒロシ、皆・・」
思い出し泣きしちゃうけど、炒り焼きトウモロコシ菓子は止まらないポポヒコ。
「・・・」
会話の流れに関係無くニコニコしているソラユキ。満足したんだね。
「後になる程、美人を狙うようになってる。力の高まりと、大胆さ、拘りを感じるな。このまま歓楽街を張った方が・・いや」
「だね」
ガンモンとテオが立ち止まった。ええ?
と、私も遅れて探知した! 殺気と、闇の気配っ! 後ろだ。
並んだ魔力灯の向こう。
「評論家の、人。・・じゃなくなったんだ」
私はもったいないないからトウモロコシ菓子はしまい、替わりに収納ポーチから買い換えた『ラージシールド+1』と修理したウォーハンマーを引っこ抜き、他の仲間達も武器を構えた。
ロングフット族の評論家は嗤っていた。その口は耳まで裂けてゆき、牙は尖り、蝙蝠のような翼がジャケットを突き破って広げられた。
バンパイア! さっきは全然わからなかったっ。高めた力を『擬態』にかなり振ってるね。
「素晴らしいステージっ! その美しい身体のっ、美しい血を下さい!! あの方に捧げなくてはっ」
「あの方? また伯爵様?」
「伯爵ぅうう~~~っっ。私にはぁ、私には遠過ぎるっ! 私の・・私の主ではなぁああいっっっ!!!!」
自分の『影』から出っ張りのある大鉈『ククリ』を抜いて低空飛行突進っ!
「『エンチャントホーリー』!」
ポポヒコが私のウォーハンマーに神聖属性を付与してくれた。
強烈な初撃はラージシールドで受け切って、神聖付与のウォーハンマーでカウンターを図ったけど、軽々躱された。速っ。
でもガンモンが避けた先に詰め、翼を斬り付けた! 斬り口が燃えるっ!
「ギッ?」
ガンモンは元の打ち刀+1をベースに神聖属性の刀『汎用・鬼切り』に自分で打ち直していた。
「『バインドリング』!」
拘束の魔力の輪で評論家バンパイアの動きを封じるソラユキ。
「効くよね?」
いつの間にか近付いていて、瓶の『聖水』をぶっかけるテオ。
「ぎゃああーーっ!!」
聖水は青白い浄化の炎を上げてバンパイアを焼く! ガンモンがさらに詰めに掛かるが、評論家バンパイアは拘束の輪を砕いた魔力の欠片でガンモンを怯ませ、翼の損傷でやや不恰好に飛び上がった。
ここで既に私の力は溜まっていた! 鈍器系投擲技『ギガントスロー』を発動させる。
「どっりゃああーーっっ!!!」
防ごうとしたククリを砕き、胴体をぶち抜いて評論家バンパイアを地に落とした。
「が、ふぅ・・申し訳、ありません、我が主・・・」
神聖属性に焼かれ、塵と消えだす評論家バンパイア。
「主とは? 行商は?」
「遺体は? 眷属にしたのですかっ?」
近付いたガンモンとポポヒコが問うと、評論家バンパイアはまた嗤いだす。
「ハハハっ、血はっ、主に献上した!『肉』はっっ、私が頂いたぁっ。ずっと飽きたらなかったんだ。
評論、だけなんて・・金で、記事を買われ、審査を、買われ、いいように、使われてきた。く、喰ってやった! ざまぁ、みろっ。ハハハハ」
評論家バンパイアは穴の空いた半端に高そうな奇抜なデザインの衣服と靴だけ遺し、燃え尽きていった。
そこから数十の魂らしきモノが苦しみながら立ち上ぼりだした。女の人達だ。
「せめて魂の救済を」
ポポヒコが鎮魂効果の『ターンソウル』スキルを掛けだして、犠牲者達を天に送りだす。
「ブラッドストーンも持ってなかったし、ただの眷属だね」
淡々と言うテオ。
「このクエスト片付いたらまた踊る。今度は悼んで」
「うん」
すっかり沈痛になってしまったソラユキの顔に、私はなんだか本格的に頭にきていた。
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評論家の家が捜索された結果『戦利品』と見られる被害者達の遺品が見付かり、魔力式保冷箱の中からは遺体の一部が多数見付かった。
他に『増血剤』も大量に見付かり、肉だけでは癒えない吸血鬼の『渇き』はそれで補っていたらしい。
評論家は最近、昼間、全く姿を見せなくなっていた為、不審には思われていたらしいが、全て遅かった。
マスターの存在に繋がる物やブラッドストーンはなにも見付からなかった・・
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私達は大部屋の衝立を一旦取り払って部屋の真ん中にテーブルを置き、そこに資料と周辺地図を広げた。
「主、おそらく評論家を吸血鬼化させたブラッドストーンの使用者はそう遠くにはいないはずだ。エーサンの町は衛兵等がしらみ潰しにしている」
「周辺郷はギルドの調査部が担当」
ガンモンとテオが地図を睨んで言う。
「割ける人員は限られますが、聖教会も後援はしています」
人海戦術になってくると、存在感出せない地方の教会のフォローを入れるポポヒコ。
「町や周辺郷の女達向けに簡単な魔除けを配布するそうだから、それだけでも効果は大きいわ」
ちゃんとしたことばかり言うソラユキにちょっと困惑する私だけど、締めるとこは締めないと!
「私達は5人だけだけど、戦えるっ。いつでも動けるよう、備えとこうっ!」
「「「了解!!」」」
これだけガッツリ被害が出てくると、もう腹を括らないとね!