3話 ブラッドストーンの行方 3
ガンモンは『打ち刀+1』を納刀したまま静かに構えた。
苦界迷宮地下3層のとあるフロアで、踊るように小剣を二刀流で構えた道化の姿の仮面の怪人系モンスター『サッドクラウン』4体がガンモンに四方から襲い掛かる!
「ふぅっっ!」
鋭い呼吸と共に、身体を旋回させながら抜刀するっ、剣圧が逆巻き、正確にサッドクラウン達を斬り裂き、仕止めた。
刀系スキル『居合い・イズナ巻き』だ。狙い定めるのが難しいスキルらしいけど、この精度!
ガンモンの固有アビリティーは『心眼』。近距離の全方位を視認できるんだ。
「ガンモン! そっちも片付いたね」
「ああ。・・テオ、問題無いな」
「うん」
声掛けした私を素通りしてテオの心配ですわ。
「口程にも無いわねっ、ホホホッ」
別に相手なにも言ってなかったけど・・
いや、人型のヤツが無言で襲ってくるのもキモコワかったけどっっ。
「それにしてもこの苦界迷宮。3層まで来ると、急に敵強いし、なんか悪い夢に出てきそうなのばっかになるよね」
「もう滅びてるが、やたら人のトラウマを抉ってくるようなヤツが造ったダンジョンだ。相応さ・・お? 宝箱閉じたな。再回収できそうだぞ?」
フロアの台座にあった空の宝箱の1つがパタンと閉じて魔力が一瞬高まった。
『ダンジョンは突破した試練と掴んだ運に応じた報酬を与える』
そういう法則がある。今のだと、仕止めたピエロ軍団の命を代償にしてランダム発動で空の宝箱の中身を『リセット』してる感じ。
「罠もだけどミミック(宝箱型モンスター)の可能性もあるからね、テオ」
「・・開けるの前提?」
「鍵師でしょっ?」
「そんな積極的に開けたくないんだ」
ボヤいて閉じた宝箱に向かい、ルーペや筆型の証明魔法道具や聴診器みたいな補助道具と『罠探知』スキルで素早く調べだすテオ。
ダンジョンの宝箱は中身がリセットされると罠もリセットされちゃうからね。
「『爆破の罠』がある。外すから」
工具系補助道具も足して『罠解除』スキルで素早く罠を、ガチャっ、と外すテオ。
「お見事ね! 解錠の舞いっ!」
「まだ開けてないから」
テオは慎重に宝箱を開けた。
中からは『ファイアボールのロール』と『古銭の小袋』が出てきた。
「レアでもないが、実用的なのきたな」
「普通に3層をウロウロして宝箱漁った方が儲かりそうじゃない?」
「あたしの負担とリスク、考慮して」
「ここでターン!」
まだ踊ってる。というか魔法使いなのに体力あるな~。サブクラスとメインクラス逆じゃないの?
ファイアボールのロールは火力は足りないテオが持つことになった。
今使ってるルート的に3層最後の魔除けの野営地まできた。
寂れてはいても、管理されたダンジョンだからわりと環境いい。衝立付きのスライム式トイレはちゃんと外れの位置に配置され、充填式の消音魔法道具『音女帝』も設置されてた。
炉の状態もいいし、充填式の魔力灯と水触媒の『ウォータージェム』を使った清潔な給水タンクもあった。
「え? 住めそう」
「まぁな。時間確認しよう」
ガンモンは鎖戦鎚みたいにゴツい冒険者ギルドの汎用魔力式懐中時計を取り出した。
私達もそれぞれ取り出す。ソラユキ、めっちゃ高いヤツ持ってる。
「6時過ぎかぁ、結構掛かったね」
「あたし達はさっき古銭を得てる。帰りは3層まで戻って一気に脱出の鏡を使おう」
私らの脱出の鏡は3層仕様。ギャラ的にギリギリの離脱アイテムだったけど、古銭ボーナスでこれを我慢しなくてもそこそこ利益が出そう。
「まず御飯にしない? わたくし、お腹が空いたわ。あと、眠いの」
あくびするソラユキ。そりゃここまでの探索+合間にやたら踊ってるもんねっ。
でも他の3人もそれなりに疲れてるし、確かにお腹は減った!
「じゃあ『渾身のダンジョングルメ』を食してから4時間くらい仮眠取る?」
「2時間だな。回復薬も飲む。すでにヒロシ隊と入れ違いになりかねなくはなってる。4層の拠点まで行ったらまたすぐ休めばいい」
「強行軍じゃんか!」
ガンモンと議論の結果、食後の仮眠時間は『2時間45分』になった。ふんっ。
それはそれとして、御飯だっ。
私の担当はメインディッシュ!
収納ポーチから取り出した食材は、
卵、ベーコン、玉葱、唐辛子、揚げニンニク、胡椒、塩、モータンマサラ(モータン市風のミックススパイス粉)、干し葡萄、オリーブ油。以上!
調理は鍋に油を敷き、カット唐辛子を干し葡萄を潜らせ、一旦回収。刻み玉葱をモータンマサラで軽く炒め、ベーコン投入っ、ジューっ! 肉汁が出たらひっくり返し、卵投入! 揚げニンニクも投入っ! 唐辛子と干し葡萄も上に投入!! 塩胡椒して、蓋をして蒸し焼きにすると・・・
「『シルバーポット家風、ちょっと豪華な朝御飯エッグ』の完成だよっ!!」
ヤッタァーーーっっっ!!!!
「今、晩御飯だよ?」
「絶対レーズン入れるよな」
「いいんじゃない?『庶民の精一杯』は好きよ」
「これが一番美味しいんだいっ!!」
うむ。みんなで取り分ける。
ちなみにソラユキは『煎り豆茶』を淹れ、ガンモンは冒険者ギルドで売ってる『保存ハーブパン』をカットして炙って瓶詰めの酢漬け瓜を添える、テオは『市販チョコチップクッキー』の袋を自分の収納ポーチから出した。
テオの仕事量っ!!
ま、いいわ。甘じょっぱい御飯エッグなんかを美味しく完食し、苦いポーションも飲み、私達はソラユキが起動させた『汎用見張りスモールゴーレム』を見張りに立てて、焚き火の前で仮眠を取った。
・・・暗闇の中、羊飼いの私は羊達の畜舎で世話をしてるんだけど、最初は普通に干し草を食べていた羊達が気付くと、『お金』をっ! 紙幣もコインもお構い無しにモシャモシャ食べ始めてるっ!!
「いや~~っっ?! やめてぇーっ! 私のお金!! 叔父さんの借金返せなくなっちゃうよぉーーーっっ?!!!」
いくら止めても羊達はお金を食べるのやめてくれないっ。
泣き叫ぶ私。暗闇の畜舎。踊るサッドクラウン達。踊りに混ざるソラユキ。さらに踊りに混ざるレッサーポイズンジャイアント達。チョコチップクッキーの袋をスッとポーチから出して自分だけ食べるテオ。「ネリネリ、絶対レーズン入れるからお前だけ仮眠2時間な」と無慈悲に宣告してくるガンモン。
やがて私は謎の病に感染し「外に出たら討伐対象だ」とギルド職員と聖教会の僧達と領衛兵に宣告され、畜舎の出入口を塞がれてしまう。
「ゴホッ、ゴホッ。しゃ、借金は返します! レーズン入れません! ここから出して下さいっ、チョコチップクッキーを私にも下さいっっ。うう~っっ、ゴホッ、ゴホッ」
私は金食う羊達の畜舎の床で力尽き、全ては闇に包まれた・・
・・
・・・っ?!
「ぶはぁっ!!」
私は鎧下以外の防具を取ってくるまっていた『防寒マント』の中で目を覚ました。
「ネリネリさん、レンタルした耐性アクセサリー、外れかかってるわ」
横で翼を畳んで防寒マントにくるまっていたソラユキが眠そうに指摘してきた。
「えっ?」
見れば、腕輪のサイズが合ってなかったアクセサリー『修道女の守り』が外れ掛けていた。慌てて付け直す。
「あっぶな~っ、このダンジョン! ヤバいよ?」
「安全なダンジョンは聞いたことなくてよ? でも、ここをこうすれば」
寝る時も身に付けていた収納ポーチからリボンを取り出し、器用に修道女の守りと私の腕を軽く固定してリボン結びにするソラユキ。
「このリボンは『ケムシーノシルク』でできてるから頑丈よ? おやすみ、ネリネリさん」
さっさと眠ってしまうソラユキ。
「あ、ああ。ありがと、ソラユキ」
懐中時計を見るとまだ1時間以上あった。テオはマントにくるまったままガンモンにくっついて眠り、見張りゴーレムは問題無く起動してる。
焚き火も『耐久燃焼材』を1個入れてるから消えてない。
私は腕輪の固定をもう一度確認してまた眠った。
今度は手にリボンをしたまま、子供の私が干し草の上で居眠りをする、夢の中で夢を見る夢を見た・・