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10話 血の棺 2

聖教会は上位個体の撃破による根本解決に力を入れてるらしかった。


あとは吸血鬼化するブラッドストーン+2の解析も教会の技術部が成功してた。石には2つの呪いが掛かってたんだ。


1つ、使用者が吸血鬼化し『生成素材の提供者』であるらしい上位吸血鬼の眷属とする。

2つ、適性に欠ける者は石に『遅効性で忌避感を抱かせる』性質を持つ。


1は確度の低いだいぶ大雑把な仕様。2は単純にタチが悪いけど、選別する効果はきっちり果たしてる。


遊戯的だけどルールの破綻は回避してる感じ。最悪っ!


どこの魔界の暇人様の仕事ですか? て話だね・・



──────



鷹と馬の中間みたいな飛行獣(ひこうじゅう)ヒポグリフを駆って、私達5人はモータン市の遥か北、私の暮らすゼマ領と北のセアーロン領の境界を跨ぐ『大樹(たいじゅ)の森』の上空に来ていた。


巨木が生える魔力の強い森。


「吸血鬼退治でここに来るなんてなぁ」


ゼマ領の冒険者的にここでのクエストはわりと憧れがある。それは、


『ここ僻地な上にD級以上しかクエスト受注できないフィールドだから!!』


モータンから遠いのもあってこれまで縁がなかったけど『吸血鬼クエスト』かぁ・・


数日前から『ゴブリン族のバンパイア』が多数を出没してる。さらに生き倒れ女らしい者の目撃情報も。


これまで『事が済んだら』さっさと立ち去っていたのに珍しいかも?


ただ眷属対象がゴブリンって、ちょっと趣向違うような??


「あそこの高台です」


片耳に当てる『魔力充填式中距離通信器』でポポヒコの声。『植物探知スキル』で地形がわかるみたい。巨木過ぎて囲まれた構造物はちょっとわかり難いんだよね。


私達はヒポグリフを高台へと降下を始めた。城壁に囲まれた、ちょっとした要塞みたいな大型野営地が見えてきた。


『大樹の森21番大ベース』


ここで冒険者ギルドが管理してる大型拠点の1つだった。


飛行獣の発着場に着地すると、ぽっちゃりした教会の僧侶らしい少年が迎えに出てきてくれた。教会の子がお迎えなんだ。


「お疲れ様です! モッチといいますっ。『オビィーテ市聖教会』所属です!」


オビィーテ市。結構遠いとこから派遣されてる。


「遠くから大変だね」


「いや私なんかは後方支援でっ、主にここで治療や浄化のお手伝いや雑用をしてるだけです」


「へぇ」


「感心なことです!」


同じ僧侶同士、ポポヒコの評価は高いみたい。


「いえいえ、『モータン市団』はあちらの奥の建屋です! ヒルベリー氏が来てらっしゃいますよ」


「あれ? 坊っちゃん担当なんだ」


「チッ」


ソラユキの舌打ちが入りつつ、私達はヒポグリフを獣舎に預け、他にも冒険者と衛兵と聖教会関係者でザワつく大ベース内の建屋の1つに向かった。


「おー来た来た! 皆、ミリミリ隊が来たぞっ?」


「「「おうおうぅ~っっ」」」


なにこのどよめき? 建屋には冒険者5割、衛兵2割、教会関係者1割、あとは出入り業者や森の住人て感じ。


おうおう言ったのはほぼ冒険者と衛兵達だね。


「なんか待たせ・・ました?」


一応、公の場かな?


「いやいや、転送門の経費が俺らの分しか通せなかったからね。だが、どっちしろ色々段取りや他の団との調整が必要だっから、程好い加減、だ!」


「ふ~ん」


「状況はどうなってる?」


珍しくテオが切り出した。規模のある集団戦だと鍵師は工作作業班になったりするから、かな?


「初期の唐突に降って涌いたゴブリン・バンパイアの群体騒動はそれなりの被害は出たが、現地民や出入り業者、普段活動していた地元冒険者、え~と・・北部・・」


「『北部大樹森(たいじゅもり)警護隊』だ! 辺境任務で知名度は無いがなっ」


冒険者職の野伏、や狩人っぽい格好の兵士がうろ覚えのヒルベリーに補足してきた。


「いや悪い悪い。ここの兵は指揮系統が違うからさ。はは」


「それなりに被害が出て?」


テオは稼業でやってるから仕事の真面目な打ち合わせの段はしっかりするタイプっ。


「そう! 今はそれぞれ防衛体制が整えられて連携できてる。で、急遽集まってもらったモータン市団の団長は僭越だが俺が担当させてもらうことになった」


「お先真っ暗ね」


「いや、エクレアブック氏っ。俺に当たり強くない??」


坊っちゃんヒルベリー団長が戸惑いつつ、そのまま作戦会議となった。


と言ってもお酒はさすがに出なかったけど、昼食を食べながらの緩めの会議だった。


寄せ集めな上に本来テリトリーじゃない北の僻地で個別の階級もあやふや、一定数いる現地活動者は当然ちょっとピリついてる。

団によっては厳しくしてるところもあったようだけど、トラブルも多いみたいで、ヒルベリーは友好的に進めることにしたみたい。


モータン市団の割り当ては森の東南部の『ゴブリン・バンパイア』とその眷属の掃討!


ヒルベリーは友好的な対応はしたけど、『ガチの兵団みたいな統率は無理』とも判断したみたい。


団を構成する個別のグループの解体再編成はせず、2~3のパーティーに現地かモータン市属の兵士を補強に入れ、僧侶系職の足りないとこにのみ数が足りてない教会の僧を入れて中隊を組み、その特性に合わせて配置して確固で撃破を狙うっ!


ただ上空に探知系能力の者と通信系能力のある者を飛ばせて、状況を逐次、取り合うことになった。



・・その日の夜は、森に『吸血される心配が無い』ゴーレムの兵をそういうのが得意な人達が放って、牽制したり変な位置に移動しないよう誘導したり、状態を見たりするとこなったんだけど、


どーんっ!


「キシャアーーーッッ!!!」


なんか大ベースの向こうの森で爆発音と奇声が凄いっっ。


「ヤバいな」


「もうゴーレムだけでやっつけてくんないかな?」


「遠隔だと単純な指示しかできないみたいですよ?」


私、ガンモン。それからモッチに手伝ってもらって、ちょっと団で必要な物資を別の棟に取りに行った帰りだった。


「ま、しょうがないかぁ。でも小腹空いたね~」


「ですよね!」


「お前ら切り替え早いな・・」


そのまま夜食にジンジャーオートミールでも作ってあげようか? みたいなことを話しながら市団の棟に向かっていると、


「っ!」


凄い強い人達の気配! 私達は近道で敷地の地面を真っ直ぐ歩いてたんだけど、近くの棟と棟を繋ぐ屋根付きの長い渡り廊下を3人組のパーティーが歩いて来てたっ。


黒い翼のバルタン族の男性の戦士系職。褐色肌のエルフの女性の魔法使い系職。司祭服のハーフノームの男性。


バルタンとエルフの2人、知ってる! ガンモンもそうだったみたい。


「バルタンは竜騎士職のユシュカ・サウスウィンド。エルフは召喚師職のダバサ・コヨーテセメンタリー。ハーフノームは、誰だっけな??」


「ゼマ領聖教会のアンデッド退治の専門家、祓い師(はらいし)の上級司祭ショウエモン・フガク様です!」


「「ほぉ~」」


衛兵もだけど、教会関連の階位はいまいちピンと来ない私とガンモン。


言ってる間にお三方の間近まで来ちゃった。


「アレや、噂の『怪力の子』やろ?」


覚えられ方っ。そして凄い西方訛り!


「ミリミリ・シルバーポットです! 初めまして、サウスウィンドさんっ」


「ガンモン・シジマです」


「モッチ・ヤッチです! 私はオビィーテ教会の僧ですっ」


「ふぅん。ワシ、はユシュカやで」


「モータン市団は有力だと伺ってます。私はダバサ。私達はハイバンパイアであると想定される『ブローカー退治』を担当しています」


「上手く見付かればいいんがね。ショウエモンだ。まぁ教団付きで動くより身軽でいい。ふふ」


なんか、頼もしい! 性悪ブローカーは上位の人達が当たってくれるみたい。


よ~し、私らは私らの仕事しないとねっ。



──────



朝が、来た。


巨木の高い位置のウロの中で目を明ける。ウロには胴の長いゼマ種の森イズナの親子が眠っている。


私はこの子達をベッド代わりにさせてもらっていた。


「キュイ?」


子供が一体起きて顔を上げたので撫でてやる。安心してすぐに眠った。


無駄な()を持たない、自然は美しい。


私は穏やかに眠る親子を巣を離れ、朝陽の注ぐウロの外に出る。少し肌が焼けた。


上位個体となった今でも、気を抜けば日差しは容赦なく、私の身体を焼き滅ぼす。


魔力を込め、浄化の火を消し、炭化部位を再生させる。


「ああ、今朝も憂鬱だ」


私は『行商の装束』の笠を深く被り、背に蝙蝠の翼を生やし高所のウロから飛び立った。

すぐに『透明化』と『気配の秘匿』の術を掛ける。


小鬼の騒ぎに人間達が森に集まっていた。忙しくなりそうだ。

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