1話 ブラッドストーンの行方 1
『ベナン芋の店』のドアを開けて、揚げ焼き芋とあんまりちゃんとしてない冒険者達のニオイでむんむんな中に入ってゆく。
モータン市にはもっと綺麗な店はあるけど、高かったり美味しくなかったり客層がよくなかったり・・ホント上手くいかないもんだわ。
「マスター、ただいま」
「お! ミリミリちゃん。久し振りじゃないかぁっ、ガハハハッ」
いきなり爆笑。ツボ浅いんだよ、ここの大将の黒い肌のベナンさん。取り敢えずカウンターに着く。
「ンバ湿原の『レッサーボイズンジャイアント』討伐クエスト、最悪だったよ。数年おきに発注されるみたいだけど、2度とやんないっっ」
揚げ焼き芋とモータンエールを頼みつつ、愚直り始めたよっ。
足場の悪さ、臭い、毒、気持ち悪いレッサージャイアント、結構強い、数多い、臭い、コツコツ強化した装備大体壊された、肋骨折られた、現地で変な病気が流行って討伐隊の4割が感染、わたしも感染っ!!
からの衛兵と冒険者ギルドと聖教会に掘っ建て小屋みたいなとこに隔離されて、臭い、キツい、中々治らない・・
で、モータン市に帰ってくんのに1ヶ月くらい掛かったわ。
芋食べながらマスターに愚痴りまくるっ。
「ギャラはよかったけど、拘束期間と壊された装備代考えたらマイナス! まぁ、毒耐性と感染耐性ちょっと高くなったみたいだけど」
「領主とギルドと聖教会の覚えめでたいんじゃないか?『あの湿地でがんばったあの子かぁ、おーよしよし』てなっ、ガハハハ!!」
「・・・」
お代わりした揚げ芋をフォークで口に入れエールで流し込み、ため息をつく。
こうして冒険者は擦れっ枯らしになってくんだね・・
私はミリミリ・シルバーポット。今年で17歳になる。一応女子。種族は長身が多いロングフット族だけど160センチ無いね。中等学校を出た後で地元で羊牧場で働く予定が、叔父さんの借金返済の為に冒険者稼業をするハメになったんだ。
借金はまだ半分くらい残ってる! はぁ~、転職したいわぁ。
ちなみに冒険者職は戦士。サブクラスは魔法使い。
冒険者ギルドからC級認定を受けてる。一番下がF級だからそこそこだけど、Cまでは『普通にサボらず1年くらいがんばったら』大体みんなイケるから、わりと普通のペースかな? と、
「相変わらずしけた店ねぇ」
偉そーなのがベナン芋の店に入ってきた。
ソラユキ・エクレアブック。同い年。女子。有翼種のバルタン族。元はモータン市の歌劇団所属だったけど、イジメてきた金持ちの息女グループを逆にボコッて首になって、なんだかんだで冒険者やってる。
美人ではあるけど、ちょっとアレなヤツ。
クラスは魔法使い。サブクラスは踊り子。C級認定。
「あら~、ミリミリさんじゃないの。久し振りの再会の舞いっ!」
私の近くまできて翼と扇を広げて踊りまくりだした。翼が背中とかに当たりまくる。そして長々踊る! 急にテンション上げてきたっ。
「翼がうるっさいわっ、ソラユキ!」
「ホッホッ!!」
小競り合いしていると、続けて耳の尖ったハーフエルフと小柄なフェザーフット族が入ってきた。
「あ、ほんとにミリミリいたよ」
フェザーフットはテオ・アママ。わかり難いけど女子。歳は今年で18だっけ? 代々冒険者の家系で普通に家業として冒険者やってる。
クラスは鍵師。サブクラスは暗殺者。C+級認定の冒険者。
「ソラユキに絡まれてんな」
ハーフエルフはガンモン・シジマ。男子。長命のエルフとのハーフのロングフット族だからややこしいけど、今年で36歳。見た目は10代後半くらい? 商人ギルドで下働きしたり鍛冶屋で働いたりしてたみたいだけど今は冒険者やってる。
クラスは侍。サブクラスは鍛冶師。C+級認定の冒険者。テオの親と契約してて、テオの護衛をしてる。
馴染み4人ではあるね。
ガンモンとテオが荒ぶるソラユキをやんわり両サイドから掴まえて、カウンターに座らせ、2人も座った。
「揚げ焼き芋とモータンエールで」
「揚げ焼き芋とルートビアちょうだい」
「じゃ、揚げ焼き芋と滴るようなモータンワインで!」
「ウチはテーブルワインしかないぞ? ガハハ!」
4人で揚げ芋をつつきつつ、近況報告や愚痴やソラユキのよくわかんない自慢話を聞いたりした。
はぁ~、モータン市に帰ってきた気がしてきたわ。
「隔離小屋は大変だったね」
「討伐隊だろ? よく暴動にならなかったな」
「『勝手に出たら討伐対象になる』てギルドの人に真顔で言われたし・・」
「「「うわぁ」」」
ドン引きされた。
「そのエール奢ってやるよ」
「じゃあ、あたしは芋奢ってあげる」
「わたくしは頬っぺにキッスしてあげるわよ?」
「や~め~れっ」
等とやってると、1人客が入ってきて、ガンモンとテオに目を止めた。
「ガンモン・シジマとテオ・アママ! あ~、まぁ『他2人』もいいか。仕事なんだっ」
聞き捨てならないことを言いつつ、その客の男はカウンターまできた。
「ちょいちょいお客さん。『ウチのガンモン』と『ウチのテオ』は売れっ子なんで、依頼ならマネージャーのウチらを通してもらわないとねぇ?」
悪い顔で言ってやる。
「そうそう、他2人の『許諾』が必要よ? 厳格な審査でねっ」
悪い顔で続くソラユキ。
「ええ~?」
戸惑う男。
「2人共、変なシステム足すなよ?」
「この2人は酔っ払いなので気にしないで。依頼は? ギルドは通してる?」
「ああ、発注は3日前に出してるんだが、中々マッチングしなくて・・待ってられないからギルド契約店を見て回ってたんだっ」
よっぽどだね。
「面白そうじゃない? 話を聞こうかしら?」
「『あんた』が?」
「いいからとっとと話しなさいよぉっ!!」
め~~~っちゃ困惑されたけど、男、バズ・レンザは依頼内容を開示したよ。
──────
依頼は確かにマッチングし難そうだとは思った。
バズ・レンザはオータン市の商人ギルドに属する商人で専門は様々な効果を持つ霊石。
レンザは取引のある『ヤンター郷』の品物を卸したんだけど、間違えてめちゃ高価や『ブラッドストーン+2』を混入させて送り付けちゃう。
うん、こっから拗れるよ?
道具屋はブラッドストーン+2に見付けはしたけど、この素材は比較的よく見掛ける染料素材の『グレープレッドストーン』に見た目がそっくり。
しかも魔力の強いブラッドストーン+2は暴走対策で鎮静化の魔術が掛けてあったから探知し辛い。
さらに! この道具屋、普段からグレープレッドストーンを別業者から仕入れていたから『おっと、レンザからの商品に混ざっちまったか』と勘違いし、グレープレッドストーンの棚にしまってしまった。
さらにさらにっ! このグレープレッドストーンと間違えられたブラッドストーン+2は得意先の武器屋に『染料』として売られ、武器屋は『このグレープレッドストーン、なんかいい感じだな。染料にせずに飾りにしちまおう』
と特注品の取り回しのいい大剣『クレイモア+1』の鍔飾りに使われてしまったぁ~っ!!
かくしてブラッドストーン+2が取り付けられたクレイモア+1は武器屋に注文していた冒険者に売られ、冒険者はヤンター郷近くのダンジョンに潜っていった。
またこの冒険者隊が一回潜ると結構長いタイプで、連絡はついてない・・
纏めると、
依頼人のレンザ→道具屋→武器屋→冒険者の順にブラッドストーン+2が流れていってる。
う~~~ん。
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ヤンター郷行きの幌馬車に揺られながら、読み直してた資料をガンモンに渡した。
「めちゃ面倒臭いヤツじゃん! ギャラも微妙だしっ」
「それな~。だがあの流れで断るのもなぁ」
「あたしダンジョン潜るの久し振り」
「ふふん、ヤンター郷にこのソラユキの勇姿を見せ付けてあげましょうかね?」
「いや郷にはちょっと寄って武器屋から『許諾状』と『当座の代わりの武器』をもらうだけだよ?」
最初に卸された道具屋は面倒臭そうだからスルーを予定・・
「では武器屋にわたくしの舞踊をっ!」
「はいはい、踊りたきゃ踊りなよ」
「望むところね! ホホッ!」
若干、億劫な気もしながら、探索小隊を組んだ私達はヤンター郷を目指した。
待ち受ける深き闇のダンジョン! 成し遂げてみせるっ、誤認と誤認と誤認が生んだ! 不適切商品の回収仕事を!!