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泣かない女の独り言

作者: 庵樹

私には習慣癖のように、一日一回は名前を呟いてしまう男が居る。気付けば、もう10年も、顔を見てなければ、声さえ聞いてないのに。

なぜか私と、とてもよく似た男だった。集団の中での位置も、見た目も、発する言葉冴えも。人生のまだ早いうちに、私は、そんな男と出逢ってしまったのだ。

とても愛おしかった。けど、ずっと一緒には居られなかった。感じる喜びも一緒なら、感じる痛みも同じだったから・・・

出逢った瞬間に思った。とても惹かれる、この男とは、ずっと一緒には居られないって。

耐えられず、先に逃げたのは私のほう。この命さえも捧げても良いと思った唯一の男だったのに。

あれから10年、いつだって答えは後からやってくる。

あいつを失ってからの私は、まるで、余生をどう生きてったら良いかも判らなくなってしまったかのような日々を過ごしている。

自分と似ているからこそ、あいつが、自分の大切な人を、どんなふうに愛するのかを、誰よりも知っている。自分の愛する人をどれだけ大切にするのかを、誰よりもよく知っている。

その矛先が、今は、私のものじゃないんだって事が、哀しい。

今なら、もっと上手に愛してあげられる。あの頃よりも、もっともっと優しくしてあげられる。

If・・・の単語ばかりが並ぶ。普段は誰にも涙を見せたことのないような強気の女をやってるくせに、隣で寝息をたてる旦那を背中に、枕を濡らす事もある。

あの季節、叶わぬ願いもあるんだってことを知った。

今の旦那さんは、私とは正反対の、一本木で純粋な感情型。刺された虫さされが痒くて掻きすぎて、とても腫れてしまったから、もしかしたら切断しなきゃいけなくなるかもと、ただの虫さされごときで、さっき迄、本気で大騒ぎをしていた。あまりにも煩いので、私は笑いを堪え、しょうがなく、患部に包帯をグルグル巻いてあげた。僕は、とても満足したらしく、それから、あっという間に眠りについた。男女の間にも、色んな形がある。私達の仲は、『愛してる』っていう単語よりも、私はこの親子程、歳の放れたお腹ポチャポチャ男が、可愛く愛しくて仕方がないっていう方が適切な表現だ。

そんな私と気付きつつ、今の旦那は、何も聞かずに、日々、屈託のない笑顔をくれる。

今なら言える。みんなに伝えたい、ありがとう…がいっぱい・・・あって。みんな伝えたい、ごめんなさい…がいっぱい・・・ある。




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