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第4話 二人の彼女

「ねぇ、優也?」

「どっちを選ぶの?」


 二人の彼女『美咲』に囲まれ、優也は頭を抱えていた。


 美咲が増えたのは、ちょうど1週間前のことだった。 映画を見終えた後のことだ。トイレに行って戻ると、何の前触れもなく、美咲が二人になっていた。


「これドッキリとかじゃないよな?」


 最初はそう問い詰めたが、美咲たちも混乱していた。彼女たちは互いに顔を見合わせ、まるで鏡を見ているかのような動揺を見せていた。


「双子だったのを隠してたとか?」


 疑いをかけたが、そんなはずもなかった。当の美咲たち自身も理由が分からない様子だった。


 結局、美咲たちと相談した結果、こんな形に落ち着いた。


 美咲Aと美咲Bは、2日交替で優也の部屋で過ごすという事になった。訪れていない方の美咲は、その間、自分の部屋で過ごすという形だ。




 最初は混乱したが、何とかやっていけた。


 同じ美咲ではあるものの、うまく表現できないが微妙な違いがあったおかげで、新鮮さがあり、美咲Aと美咲Bともに関係は良好だった。


 いや、それどころか―――正直、前よりもむしろ良かった。


 夜の生活も微妙に違い、公認で浮気しているような優越感すらあった。


 しかし、そんな都合のいい話は小説や漫画の中だけであり、3カ月も経つと事情が変わる。


 美咲Aが、 「そろそろ答えを出してよ」 と言えば、美咲Bも 「私を選ぶべきじゃない?」 と迫ってくる。


 3人で会うことを避けてきたが、とうとう今夜、限界を迎えた。




「そんなの無理に決まってるだろ!お前が勝手に増えたんだからさァッ!!」


 優也が叫ぶと、美咲Aと美咲Bが一斉に言い返す。


「だったら、私がいなくなればいいの?」

「私が偽物だとでも思ってるの?」


 言い争いはエスカレートする一方だった。


「もうやめてくれ……俺には選べないよ!」


 優也の叫びにも、二人の美咲は耳を貸さなかった。感情のぶつかり合いがピークに達したその時、美咲Aがゆっくりと立ち上がった。


 彼女は無言で台所に向かい、包丁を取り出した。その鋭い刃が蛍光灯の光を反射して冷たくきらめく。


「おい、何をするつもりだ!」


 優也が慌てて立ち上がるが、美咲Aはその刃をしっかりと握り、美咲Bを睨みつける。


「優也が決められないなら、こうするしかないよね」


 その言葉に、美咲Bは一瞬息を飲んだが、すぐに台所へ向かい、もう一つの包丁を手にする。


「そうね、それが一番いいかも」


 二人の美咲が、優也に向き直る。


『どちらも選べないんでしょ?』

「……いや、そうじゃない!落ち着けって!」


 優也は必死に叫ぶが、美咲Aは聞く耳を持たない。

 それどころか、美咲Bも台所の包丁を手に取り、優也に向き直る。


『私たち、どっちも優也を愛してるの。だから―――優也が半分になればいいよね?』


「何を言ってるんだ!やめろ!」


 優也が叫び、二人を止めようとするが、逆に押し倒されてしまう。

 美咲Aと美咲Bが優也に覆いかぶさり、それぞれの手に包丁を握りしめ、優也の左右から、こうささやいた。




『ねえ、優也。どっちが、どっちの、優也になる?』



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