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第3話 殺人計画

 隼人は、駅近くの小さなパソコン教室でアルバイトをしていた。

 福井から大阪に出てきて数年、都会の喧騒にもようやく慣れてきたころだった。


 隼人はパソコン教室の生徒にはおおむね好評で、隼人も人に何かを教えることが好きで、長く続けられそうだった。


 だが、教室のオーナー高田の存在が、隼人の生活を暗くしていた。

 高田は特に隼人に当たりが強かった。隼人が何気なく言った「野球に興味ないんですよね」が気に障ったのか、それ以来、執拗に嫌味を言われるようになった。


「お前の仕事のできなさは異常だ。障がい者のほうがまだマシやわ!」


 先日、高田にカフェに無理やり連れていかれ、逃げ場のない公衆の面前でこう言われた日、隼人は心に深い傷を負った。


 高田の心無いその言葉が、隼人の頭からいつまでも離れなかった。





 駅前の商店街の明かりが薄暗いビルの窓を淡く照らしている。

 先ほど、高田はコンビニへ行ったのを確認した。今がチャンスだ。


 隼人は裏口の鍵をこじ開け、中へと入った。

 

「……殺してやる!」


 ナイフを握る手に力を込めながら、隼人は静かに階段を上った。


 教室内に入ると、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。薄暗い部屋の中、壁際に並んだパソコンが墓石のように並んでいる。


 教室の奥に、事務室の扉が見える。

 そこに潜み、戻ってきた高田をズブリ……そういう計画だった。


 事務室へ向かおうとしたその時だった。


「おい、何してるんだ。」


 振り返ると、そこにはもう一人の自分が立っていた。まるで鏡を見ているような感覚に、隼人の手が一瞬緩む。


「誰だお前……なんで俺と同じ顔してるんだ!」


 相手も同じようにナイフを握りしめ、険しい目で睨んできた。


「お前こそ誰だ。高田を殺すのは俺だ!」


 隼人は目の前の自分——隼人Bをじっと見つめた。声も仕草も全く同じ。だが、二人の隼人が同じ目的を抱えていることだけは明らかだった。


「ふざけんな!俺がやるって決めたんだ!」


 隼人Aが声を荒げる。


「なんで見ず知らず……の俺に!殺させなきゃいけないんだ!俺がやる!」


 隼人Bも負けじと返す。


 二人の言い争いが続く中、突然階段を上る足音が聞こえてきた。高田が戻ってきたのだ。


「くそ、今は無理だ。隠れるぞ」


 隼人Aと隼人Bは物音を立てないように机の下に潜り込む。やがて高田が事務室に入ってきた。スマホをいじりながら、机の上のコーヒーを手に取る。


「ったく、ホンマあいつ使えへんわ……」


 高田の独り言を聞きながら、隼人はナイフを握る手が震えるのを感じた。だが、隼人Bが低い声で囁いた。


「今はダメだ。冷静になれ」


 隼人Aはその言葉に頷き、じっと息を潜めた―――。



 高田がちょっとした仕事を終え、部屋を出ていくと、隼人Aと隼人Bは机の下から這い出た。


「おい、計画をやり直そう…」


 隼人Bが言う。


「せっかく俺たちが二人いるんだ。アリバイだって作れるだろ」


「アリバイ……確かに。一人が人目のあるところにいればいいもんな…」


 隼人Aの目に、わずかな光が宿る。


「そうだ。それに、今すぐやる必要もない。今日はこれでおしまいだ。飯でも食いに行こう」


「……まぁ、そうするか」





 駅前の居酒屋に入り、カウンターに並んで座る。二人の隼人はジョッキを掲げた。


「なあ、俺たち二人いる意味って何なんだろうな…」


 隼人Aが呟く。


「意味なんてどうでもいいだろ。せっかくなんだから、この状況を楽しもうぜ!」

 隼人Bが笑いながら答える。


 店内には賑やかな笑い声とテレビのニュースが流れている。隼人たちはそれを聞き流しながら、ジョッキを軽く合わせた。


「じゃあ、次は完璧にやるぞ!」


 隼人Aが言うと、隼人Bが頷いた。


「ああ、そうだ!俺たちの計画は、これからが本番だ!」


 ジョッキを掲げ、二人は笑い合った。




※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。


実話ではありませんっっ!!!

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