第3夜〈 VRMMO - 某恋愛乙女ゲーム - 〉
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- 追うものと追われるもの - (第二文)
-◇◇◇-
第3夜〈 VRMMO - 某恋愛乙女ゲーム - 〉
強くあるこころは望むさきへと突き進む
とうめいなおもいを秘めて少しでも先へと
けれども強さと弱さは紙一重
それはくるりとかえされる
こころが純粋なほど闇に魅入られやすい
こころが強いほど変わることをも恐れない
影のなかへ闇のおくへと
頑ななる強さとともに
怯え逃げる弱さとともに
進み続ける強さだけでなく
怖さや恐れで立ち止まり
迷いを持つからこそ人
それが人であるともいえる
人はそうして変わりゆくものだから
おもいを秘め
おもいを隠し
おもいに生きて
おもいに死す
それもまた人
堕ちたまま進むも人
たとえか細き暗きみちでも
途絶えたはずのみち
帰るものもなきみち
そこからかえるおもいもある
おもいつよすぎたゆえに
それはなに?
それはどんなもの?
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VRMMOの事件特集。
〈一度に百人規模の意識不明者が発生!!〉
- 個人対戦から大規模戦闘までできる犯罪助長にもなるのでは?と批判の起こっていたVRゲームで、ゲームから戻らない意識不明者が多数!!
原因は未だ調査中。
以前から同様のシステムを使っていた別のゲームでも、少人数ではあるけれども、同じように意識不明者が出る事件が複数発生していた!
致命的なシステム不具合か!? -
そうした記事のタイトルと事件の概略。
同じような内容で、声高に意見を飛ばしている記事を、いくつかの情報サイトなどで見かけた……。
ネットではたくさん話題に上っていて、
あちこちで憶測やら議論やら、炎上や陰謀説まで飛びだして、
いろいろな事件や国際的な騒ぎと共に世の中に花を添えている。
小さくはなくても、世の中のひとつの出来事にすぎないこと。
それでも私にとっては大きな出来事。生き方を揺るがすほどの大事件……。
報道特集でも、VRのゲーム、ファンタジーRPGやFPSで大事件になっていると話してた。
VRゲームで不具合が起きて、ゲームから戻れずに、たくさんの意識不明者が出ていると……。
事件の起きたゲームの捜査のためのログイン中断、中止はもちろんのこと、
他のVRゲームでも、規制のために、ゲームのログインが出来なくなってきているような世の中の流れ……。
何とかならないだろうか……。
何とかして欲しい。
私にはあのゲームが必要なのだから。
今を生きるために。
死なない気持ちでいるために。
死にたくならないようにするために……。
あの人に逢うために、停止してしまったあの世界にゆかなければならないのだから。
帰れなくなるのなら……、それは私の望むところ。
それこそが私の望みだから……。
あの人はもういない。この世にはいない。
この世界でのあの人はもう居なくなってしまった。
だから、たまたま観た番組のCMで見た、あの人の姿を取り込んだのでは?と思わせる人物。
似ていると言うにはあまりにも似すぎる姿。
それを見て、その姿を追いかけるように、この世界でも自らのものにならないあの人をまた追いかけている……。
あんなにそっくりな姿をしているなんて……。
人物創造AIのための収集データ。あの似姿はその収集データ規制緩和のせいなのか……。
あの取り込みは本当に違法ではなくて?
今の時点では、AIなどの研究開発へ意欲的な行動を是とすることが世界的な風潮なのかも……。
それでも個人の肖像権侵害として訴えることは出来るのかもしれない。あれだけ似ていれば。
でも、もう居ない本人は訴えることも出来ない。あの人の家族ではない私にも……。
家族になりたかった……。
声にならないつぶやきと共に、胸の見えない傷が透明な血を流す。
あの世界のことも、恋愛はもうしたくなくて、
けれども人の温もりは欲しくて……。
だから成人が対象の恋愛ゲーム、VRの官能体験を始めてみた。
最初は面白かったのだ……。
現実と見紛う生々しい世界は、掛かる料金が高くても水商売相手に入れ込むよりは害が少ないと思えたから。
人のする演技でも、機械のする演技でも、実際には変わらない……。
私は甘い言葉で傷ついた心を癒やすことが目的。
相手がだましていることも、相手からだまされていると、それが全部わかっていることもそう……。
それに……、
どちらにしたって、あの人でないことは同じなのだから……。
……我ながら未練たらしい。
だから嫌われるのだとわかってる……。
だからこその息抜き。
現実はいき苦しい……、
恨みと憎しみに満ちている。
悲しみと孤独にも……。
ネットで見ることになったあの人。
あの人の似姿と出逢えた幸せ……。
造られたあの人にはきっと、現実で出逢ったあの人からのものが息づいているのだ。
そう信じたい。だから離れられない……。
危うくても、命に関わることだとわかっていても、
周りがそうしたバカなわたしを責めても……。
心の奥で、現実の現し身であるあの人を、
悲しみや恨みや憎しみの感情にまみれた、
それでも愛していた思い出という感情に押し込めて、息を殺しつつ、
あの人をどうしようもなく求めていても……。
あの人がもう居ないとわかっていても……。
ここが真実ではない触れ合うことの無い、
虚ろな世界だとわかっていても……。
離れられない私の弱さ。
この事件や出来事は、そんな気持ちを風化させてゆくきっかけになるのかもしれない。
そうした不安定な気持ちの中で、
微かにそうしたことを思いつつ居たとき、
おかしなメッセージが届いた。
-今、あなたが想う人と逢える方法があるとしたら、あなたはどうしますか?-
-いかがでしょう、一度お問い合わせ頂けませんでしょうか?-
新手の詐欺?
私はお金持ちではないし、
私を使ってお金が得られるとも思えない。
そんなものがあれば、
あの人が生きている時にあの人と逃げていた。
あの人と共に、
新たな世界を求めて……。
どうしよう?
悩む……。
おかしなメッセージが来てから、
ずっと何日も悩んでいる。
答えは出ているのだ……。
その一歩を踏み出す勇気が無いだけ、
あの時のように……。
迷いと衝動に彩られる心。
昏く青い濁りの色と、
赤黒くおき火のように遺る色。
それがせめぎ合うように混じりあい、
心の場所を取り合い続け、
一つの色が心を占有しようとしている……。
もうひとつを奥底に押し込めようと、
進み、抗い、広がり、
相対する相手を押し込め返そうとする。
ゆっくりと、ゆっくりと、
衝動が広がりゆく。
燃えさかる炎のような激しい衝動ではなく、
昏くわずかな、おき火のような衝動の火が、
ゆっくりとゆっくりと、
大きかった迷いを小さくしてゆく。
衝動の火が広がりゆく。
迷いを押し込めて……。
私は応える。
メッセージへと答えを返す
◆◆◆◆◆
-こちらのコードを受信して読み込み、指定時間になるまで、しばらくお待ちくださいませ-
-お待ちいただけた後に、お望みの場所へと導く、特別ルートの扉があなたの前へと現れます-
私はそれを許諾し、そして待つ。
待っている。
今も待ち続けている。
扉の前で。
何も無い大きな扉だけの部屋で……。
まだかしら?
まだかしら?
指定されていた時間になることを、こうして待っている。
届いたメッセージ。
ヘビーユーザーへのお知らせ。
事件で中断したゲームが出来る場所を設けたので、
一部のユーザーの方のみに、回線を絞ったゲームの提供をすることが決定いたしました。
お送りしたコードを読み込んでいただいて、秘匿回線へと来ていただければ、
扉を開き、今まで続けられていた目くるめく世界の物語と、
新たな素晴らしい世界のへとみなさまをご案内いたします。
甘い言葉
甘いだけの言葉
嘘の世界の嘘の言葉。
嘘を信じたいから嘘に縋る。
私には真実の嘘だから。
音もなく扉が開く……。
高鳴る気持ち。
鼓動が早まることを意識する……。
ーおまたせしましたー
ーもういいですよー
そうして……。
私は扉を潜る
◇◆◇◆◇◆◇◆
逢瀬を重ねていた、睦言を繰り返していた相手の呼びかけに応えて、一夜を過ごして別れた後、独りため息をつく。
幻とはいえ、身体を重ねたあとの内の火照りを身に感じながら。
幻の快楽は本物と変わらない。
終えたあとの虚しさが内に刻まれていることも含めて……。
扉をくぐり、あの人のいるこの世界へと訪れた。
やはり詐欺なのかしら?
世界は変わらずにそこに在った。なにも変わっていない世界……。
停止されたはずの場所は未だそこに在り、
私はこの世界の幻の肉体を纏い、そこで幻とは思えない一夜の快楽を貪って、そして朝その夢の夜からは解放された。
今もその夢の世界の中にいて、こうしてため息を繰り返している。
私には詐欺ではないけれど
やはりあの人への道筋が出来たわけではなかった。
でもいい
ルートが無いと言うことは、
あの人が誰のものにもならないということだから。
誰のものにもならないあの人をずっと見つめていられるのなら。
それもいい
◆◆◇◆◆
このゲームで話題となっているのは、
ひとつは濡れ場での恋する相手の、人間と勘違いさせられるほどの心情や行動と、
もうひとつは夜の営みや睦言を交わせるときに恋人たちからの情動や心の緻密さ。
本当に、そこに自分が居るようにも錯覚させられる、リアルさ。
そんな偽りの充足感に、夢みるように溺れる……。
そうしたまやかしに溺れるように身体を合わせながら、あの人ではない相手との情を交わしたの後の気だるさに身を任せる。
夜明けのホテルから、一夜の愛の相手と出てくる。
ほんとうの愛する人のように腕を組んで……。
あの時の私はまだ、
ホテルに入る偽りの恋人とのことを見ている、あの人の視線には気づいていなかった。
ー 生きるのが下手な女性は、いつも後ろばかり見てるんだよ。君もだね ー
あの人にそう言われたことがあったね。
ほんとだったね……
結局あの人を忘れられなくて、
こんな恋愛ゲームで、そっくりな姿の人を選んで攻略したいと思ってる……
バカみたい……
先程まで睦言を交わせていた相手。
ゆったりとした気だるい時間に酔うように、
身体を重ねていた相手へと、この身を寄せる。
この人とも、もうさよならね……。
-仕方ない、今度は誰に行こうかしら……-
一番難易度の高い相手を落とせたことに、隠れほくそえんでみせて、そしてまた暗い顔に戻り、何も無い世界を見つめてみる。
ハーレムコンプでも目指そうかしら?
集めて、
そして全部壊して、
投げ捨てて、
大声で笑ってやろうかしら?
-愛しいひと-
-ハニー♪-
ふふっ♪
つい、笑いが漏れる。
その日幾人めかの、この相手の人は、
昼間の街で笑ってしまうような、
こんな歯の浮くような言葉を囁く。
笑ってしまう。
嬉しいのか哀しいのか、わからない気持ちで。
私に仕えるように、
こうした科白を言う彼のことを。
命令通りに、
こうした台詞を言わされている、
作り物の彼のことを。
それで喜んだふりをする、
おかしくて哀しい私のことを……。
昼のうちに私を楽しませ、笑わせてくれていた相手に別れを告げる。
そのあとの別の相手との逢瀬と、
変わらなく過ごす夜の出来事を堪能する。
楽しんでいる、そんな振りをする……。
快楽と気だるさの狭間で、
仮初めの身体と偽りの世界で、
何故だかほんとうに欲しかった夢を見る。
もうあり得ない、
たどり着けない、
そんな場所の、
素晴らしい夢。
あの人の夢……。
昔好きだった……、
もうどこにも居ないあの人に手をひかれて、
二人だけの旅に連れられてゆく、
そんな夢。
あの人に似たキャラクター、
絶対に出逢えないと思っていた夢に、ここでならば出会えるの……。
不夜城のまぶしいネオンの中、
またホテルから、私は恋人と腕を組んで出てくる。
人の近づく気配。
誰かが私へと近づいてくる。
なにか新しい出来事が起きるのかしら?
また睦言を繰り返すだけのことかしら……。
ホテルから出てきた私を、
あの人は待っていたのだ。
何故?
何が起きているの……。
これも夢なの……?
あの人は攻略できないはず??
どうして!?
何故っ?
こんな演出があったの?
新しくルート開拓されたの?
これが、これが特別の、
私のための世界なのかしら?
別れを未だ告げられずにいた、さっきまで私を官能の波に誘った恋人が、
私へと近づいてくる、あの人の道を遮ろうとする。
邪魔しないで!!
あの人を追い返そうと、何かを叫び、声を荒げている!
さっきまで愛を囁いたその声も、私にはもうただの雑音にしか聞こえない。
煩い!!
私はあの人を怒鳴る男を避けて、あの人のところへと向かう。
途中、私の手を掴もうとする男の手を振り払い、
「もういい! 行って!」
私はそう声を荒げた。
突然表情を無くした恋人の男は、私の声に応じて、何事もなかったように私の前から疾く去り、行ってしまった。
でも私にはもう、あの人の姿しか目に入っていない。
あの人が私を見ている。
はにかんで笑いながら。
あの人の笑顔
心臓が跳ねる。
激しく鼓動しているのが判る。
息も激しくなってゆく。
顔もきっと赤いのだろう。
あの人が見ている
私を……。
鼓動が止まらない。
目が潤み泪が溢れて、
視界が歪む。
あの人を見たいのに
もっと見たいのに!
泪を溢すまいとする私を、
あの人は見ている、
逢えたことをとても嬉しそうに。
私を呼んだ。
あの人の声で。
あの声で呼ばれたこと、
忘れない。きっと、ずっと!
あの人の手が私へと伸ばされる。
私に
私に
私はあの人の手を取り、
しっかりと握りしめる。
もう絶対に離さない。
握りしめる私の指へと唇を落とし、
私に頬を寄せ、耳元であの人が囁く。
「さあ、行こう。
君の行きたい場所へ」
私の望みが叶う。
ほんとうに!
感極まって涙がこぼれ落ちる。
「ええ。ええ!
連れて行って!」
「行こうっ」
新しい世界、夢見た世界へ。
あの人と一緒に。
不夜城の灯りの輝く中、
私たちは手を取り合って輝く夜を歩き始める。
突然、
光輝く風景が砕けて、崩れる破片となってゆく。
あの人と暗黒の中に取り残される。
頭がついてゆかない。
何!?
何がおきたの?
繋いでいる彼との手が持ち上げられてゆく。
手が握られたままなのに、手のひらの感触が変わってゆく。
柔らかく温かい手が、冷たく硬い何かに変わってゆく。
違和感に気づき、手を繋ぐ彼の方を見上げる。
手を繋ぐ彼は……、
見知らぬ、見上げるほどの何かに変わっていた。
「夢は見れたかよ、ひと」
からからと嗤う鬼の嬉しげな笑みをみて、
私の肌はうぶ毛まで総毛立ち、全身から冷たい汗が噴き出して止まらなくなる。
「さあ、もういいかい?
お前を食ろうても」
にいっと、牙を剥いて嗤う鬼の笑み。
やっぱりあの人はもう居ない……
覚えている最後の光景。
あのひとがいなくなって止まった時
私は涙をこぼす。
あふれ、とまらないなみだ……
一度だけ、彼とほんとの恋がしたかったと、
剥き出された牙を眺めながら、そう微かに感じた……。
鬼の貌に浮かぶ、刹那の泣き笑いのような表情。
またいつもの嗤いに立ち戻りつつも、言葉には凪のような穏やかさが滲む。
鬼が私の名を呼ぶ
「痛みは無い。一口で食ろうてやるよ」
ええ、連れてって
いまはもう居ない、あの人のところへ……
もう、ゆきたいの……
◇◆◇◆◇
暗闇となった世界の中、
金色の星が輝き流れる。
星は金の帯を引きながら、
こちらへと流れ落ちてくる。
とてもとても小さな星。
近づくとそれは星では無いことがわかってくる。
それは物語に出てくるような光る妖精。
妖精は光の尾を引いて、
暗闇の中に佇む影のような人に近づく。
それは闇色の人が差し出す手の指先に止まり、
その相手へと何かを告げる。
「…∴……∞!……★…ゞ@?
sign¢……†&≠……∑…≒、……♂⇔♀!」
「そう……、すこし遅かったね……。
また初めからやり直しだよ」
指先を離れた光は闇色の人から遠ざかり、
世界はまた暗闇の中に沈む……。
◆◇◆◇◆
最後に見えたのはいつもの部屋の天井
横たわるベッドのうえ
いつの間にか切断されていたネットワーク
現実のはずなのに幻が視える
大きな手……
人の手ではない、かぎ爪のある手が、
天井からこちらに伸びてくる様子が見える
怖くは無かった……
その手の懐かしいしぐさは……
あの人だった……
ああ……
あの人だ……
あの人の手だ……
-◆◇◆-
- それはさながら影鬼のよう - (第三文)
-蛇足 または あとがき-
鬼の再開まで丸一年ほど掛かりましたm(_ _)m
前回の夏のホラーを目安に始めて、その後にネトコン11には終わるように考えつつ。
プロットはその時、第7話の最終夜まで出来ており、
この回のお話も、7割~9割は既に出来上がっており、
書き上げていた部分は微調整以外はほぼいじらずにそのままです。
それでも、
物語の中ほどの女性の書き込みがどうにも上手くゆかず、出来ないまま、
私事の創作へと潜れなくなる出来事に遭い、期限まで間に合わず、諦めて、
書けない心情のまま悩みつつおりました。
今も書けたのか、正しく書けない部分が巧く綴れたのか、時間だけは掛かったのですが、未だ自覚に至らず、よく判っておりませんが、
書くきっかけを得て、とりあえずは第三夜を書き終えました。
第一夜、二夜とは趣きが異なりますが、もともとこうした流れであったことを念のため書き記しておきます。
書けなくなった理由は、おそらくは環境の変化。
こちらの創作を行える心理状態から遠ざかる出来事と、
それを含めて心理的、体力的な部分の低下が主な要因かと(笑)
やっとすこし、これに取り組める感覚が戻ってまいりましたが、まあ無理せず書き進めてゆきますのでよろしくお願いします(*^^*)
強い気持ちと身体が欲しいですね。鬼まではゆかずともです(笑)