第2夜〈 VRMMO - 某ガンアクションゲーム - 〉
-◆-
- 灯火を追う影ひとつ - (第一文)
-◇◇-
第2夜〈 VRMMO - 某ガンアクションゲーム - 〉
そこは廃墟だった。
滅びて久しいと思える街には崩れた建物が建ち並び、墓石の群れのような様相を見せる。
重く厚い雲が垂れ込めており、僅かな隙間から赤黒い日が射し込むこともあるが、
街並みはほぼ薄暗いまま、気味の悪い雰囲気を醸しだしている。
廃墟となった街のそこかしこから、時折オレンジ色の閃光と、何かが爆ぜるような音が聞こえていた。
闘いが起こっている。
銃撃のようだ。
何者かが撃ち、もう一方が撃たれている。
逢魔が時の戦闘だ。
けれども、撃たれる方が撃つ方を追っているようにも見える。
狩りの獲物はどちらなのか……。
---
大規模な戦闘部隊を、歯牙にもかけない敵のユニットだと!?
そんなものが居るという噂は聞いたことがない。
攻略サイトでも見かけていないぞ……。
何だそれは??
崩れかけた建物や廃棄された車両などを盾として、物陰から幾条も連なった射撃の光が見える。
今は、小口径でも貫通性の高い銃弾が敵へと降り注いでいるはず。
けれども、そうした無数の銃撃でも、大柄か、巨体ともいえるほどの姿をした紫紺の人型は全く倒れようとしなかった。
なぜか聞こえる声。
「効かぬよ。銃などで鬼は傷つかない」
鬼が嗤う。
そんなバカなっ!?
オーガなんて雑魚エネミーは、重量級の大口径拳銃なら簡単に殺せるんだ!!
ましてや、ライフル弾の貫通して骨を砕く銃撃であれば、排除されていなければおかしい。
それに、この世界での敵性ユニットが話しかけてくるなんて話は聞いたこともない。
なんだ?
あれは??
「おぅがなどという、はりぼてとは、そもそもの中身の出来が違うわ」
鬼がくつくつと嗤い、仲間へとゆるりと動き迫る。
砲撃担当の放つロケット弾、焔の尾を引く弾頭を鬼は軽く避けて、瞬く間に彼女へと接近し、叫ぶ間もない彼女を腕のひと薙ぎで吹き飛ばす。
あらぬ方向へ四肢を曲げながら、地面を何度もバウンドする砲手の背後で、回避された榴弾が爆発して盛大な火花と破片を撒き散らす。
薄暗い街並みを照らし出したその爆炎は、死体と化した彼女を作り上げた敵の、燃え上がる炎を背に立つ鬼の姿を浮き立たせた。
炎に照らされた、避けない目標などいい的だ。
少しでもこの戦場に慣れたものなら、簡単に的となるものへと銃撃を命中させられる。
部隊の仲間からの銃撃が、ここぞとばかりに、敵へと集中する。
弾は当たりはする。けれども被害効果は一向に発生しない。
鬼が動き出す。
動いている鬼には弾が当たらなくなるのだ。
ゆっくりとした動きなのに、撃たれた弾は全て回避されてゆく。
「無駄だ無駄だ」
くつくつと嗤い、言の葉を次ぐ。
「鬼は隠ぬ。見えるようで見えぬもの」
「隠ぬようで、そこに在るもの。そして殺め、喰らうものよ」
また再び相手からの声が聞こえる。
回線割り込みか!?
銃撃や爆発音が激しく響きわたる中で、
聞こえてくるはずのない敵の言葉が、しっかりと耳に響いてくる。
歯を剥き出し嗤いながら鬼は、滑るように、滑るかのようにゆるゆると、全ての攻撃をかわしすり抜けてゆく。
背筋がざわつき、流れもしないはずの汗が背を濡らすような、幻の感触を身に感じる。
もしかしたらこの感覚、世界の外にあるはずの肉体は今も汗でぐっしょりと濡れているのかもしれない。
あり得ない戦況を観察しつつ頭の片隅でそんなことを思いつき、生理的に不快さを覚える考えを頭から振り払う。
歯を剥き出し嗤いながら、あの鬼は戦場に立ち続けている。
未知の戦闘術……。
この中でのスキル、接敵術や格闘術ではありえないやり方で、部隊の仲間たちを狩り立てているのだ。
まただ……。
なぜ倒せないんだ!!
射撃が効かない……。
Ⅰ,Ⅱ類の対人の小口径火器は全く効果がないようだし、そもそもが当たらない。
連射では時おり命中するけれど効いていないし、単発射撃だと、近距離で掠りもしない。
Ⅲ類の大口径、重量級の対物火器ならば、対象の鬼に効く、傷を与えられると思うのだが……、
そもそもが命中するのか?
人の手で携帯する大口径火器での連続射撃など出来ない。
これらを操作して、移動戦闘をするには火器が大きすぎ重すぎる。
先ず狙いが定まらない。
重量火器を命中させるためだけに、能力の筋力極振りのキャラメイクなど、普通の神経では選択はしない。
移動速度が落ちれば、相手からの、ただの的になってしまうだけだからだ。
剣と魔法の世界の標準装備と違って、銃撃戦の世界の個人装備は、火力と防御力が拮抗していないのだ。
武器の射程も長く、遠距離から攻撃できるため、撃たれない、発見されないが基本的な戦術となる。
ファンタジー世界以上に、銃による世界は数による戦術が活きる。
個人や少人数が、多人数に勝つことなど、普通はありえない。
移動しながらの電撃戦や奇襲による戦術が当たり前となってくる。
だからこそ移動出来ない火力は個人装備としては好まれていない。現実的ではない。
これらは大規模部隊の作戦となったときに初めて効果があるものだ。
他の火器類ではどうだ……。
Ⅴ類の光学兵器の連射……。本当に効くのか?
それとも、
Ⅳ類の非携帯火器、半固定、火力に任せた広範囲への被害を与えるもの。
あるいは初速の高い搭載兵装、電磁加速砲なら……、もしかすれば。
それらを付けた戦闘車両のようなもの、例えば戦車。
それならばあるいは殺せるかも……。
確実に倒せる方法を焦りつつ考えている最中にも、
部隊の仲間は着実に狩られてゆき、だんだんとその人数を減らされてゆく。
畜生め! もてあそんでやがる!
あの敵は投擲される爆発物、発射させる榴弾の類いは必ず避けている。被害を受けるからか、それともただ単に武器の弾速が遅いからか?
炸裂弾頭のⅣ類火器、大口径で高速の貫通被害を持つ火器類などを試したいが……。
そんなもの、ここには今無い。普通はあり得ない。
けれども無くはない。
運営からの追放覚悟の隠し玉ならば、或いは……。
敷設担当が罠を仕掛けて、敵を誘い込むための作戦案を立ててはいたが、おそらく倒すのには間に合わないだろう。
追い込むため、圧力をかけるための武器や手段がないし、囮での引き回す方法もたぶん通じない。
腹立たしいがあの鬼は頭がいい。優れた思考回路を搭載しているのだろう。
敵を円形に広く囲みつつ、罠周辺へと導こうと苦労してはいるが、
敵は気まぐれに仲間へと接近し、素早く狩ったかと思えば、思いつくままに適当な方向へと向かって進み、別の仲間を殺している。
戦場の戦術が全く出来ていない。
中隊規模の仲間たち、百人近くのうち半数ほどが殺られてしまった。それも、素手であるただ1体の敵に……。
戦略図や通信などで優位に進むはずの作戦も、それらが実際の戦闘場面で機能しなければ意味がない。
現在の戦場の支配者はあの鬼だ。
気まぐれに狩り、気分で部隊の仲間を食い散らかしてゆく。
くそっ。敵を地雷原にさえ押し込めれば!
薄暗い瓦礫の街並みの中で、今も散発的に銃撃の光と音が響いている。
戦闘の音や光の間隔が次第に開いてくる。
時おり間を空けて訪れる空虚な静寂。
人が狩られて減りつつあることが離れていても判る。
百戦錬磨であるはずの仲間たちに、動揺と怯えの空気が見え始める。
この世界には、弱い痛覚制御が基本装備で設定されている。
文字通り、対戦相手を痛めつけることが出来ること。それがゲームの売りにもなっているのだ。
勝てるならともかく、誰だって勝てない対戦で痛い思いなどしたくはない。
そろそろ、怯えて戦線離脱する兵隊が出始める頃だろう……。
離脱出来ないぞ!
臆病風に吹かれて逃げ去ろうとした部隊の一人が騒ぎ始めた声が聞こえた。
なんだって!?
ボーナスステージと違う。
何かしらのトラップなのか??
ふと、先日完膚なきまでに叩き潰した、宿敵の部隊が言い放っていた捨て台詞を思い出す。
悪いうわさを流して、うちの評判を落とそうとしたり、嫌がらせのようなことも平気でする、
弱いと見る相手にマウントを取りたがる、卑劣で、たちの悪いチームだった。
こちらを潰そうとして、何かを裏でしているという、信憑性の薄い情報を聞いたことがある。
根も葉もないうわさだと思って聞き流していたが……、
これがそうなのか?
バカなことを。
しっぽを捕まれて通報されれば、後で一発追放させられるだけだろうに……。
鬼はただ一体だけ。
こちらは大規模な一部隊。
それが倒せず傷つけられずに、一方的に潰されてゆく。
そうしたあり得ない戦闘も、望まぬ終盤を迎えようとしている。
死ねば逃げられると考えて、卑怯な奴に一矢報いようと爆弾を抱え自爆特攻をかける仲間も出てきている。
けれども射出器の榴弾やロケット弾さえ避ける相手に、そんなものは効きはしない。
鬼からの殴る蹴るで弾き飛ばされたあげくに、持っていった爆弾で爆死させられたり、引き裂かれた死体ごと爆発して破片となる仲間たちがほとんど。
頭から噛り喰われて殺された仲間もいる。
恐怖の表情のまま、身体が一部欠けた死体と化した姿は、目を背けたくなるほどおぞましく、酷い有り様だ。
鬼の周りにはそうして殺された死体の山が瓦礫のように堆く積もってゆくだけ。
命を持たない兵隊が爆発の轟音と共に散ってゆく一方だ……。
この閉鎖空間から死んで逃げ出せた仲間たちは、今頃運営へと通報していることだろう。これで一応の解決……。
ここからは死ぬしか逃げ道はないのか……。
くそっ!
やはり、あいつらのイカサマか!
悪態をつきつつ、それでも冷静に考え心を静めようと努める。
離脱不能の罠への仕様改変。
きっと死亡代償や装備損失も仕掛けられているだろう。
それにあの敵も、やはり違法行為か?
それならば……、目には目をか……。
運営はバカをやった対戦者を追放して、こちらの被害への救済措置をして問題解決とするだろう。
でも、それでいいのか? それだけで?
絶対に舐められたままではいられないはずだ。
もう誰も残っていない……。
視線で呼び出された仲間の名前のうち、
部隊を組んでいた仲間の、白く輝いていた名前はすべて、黒く暗転してしまっている。
もういい……。
ナメられてたまるか!
頭に血が昇っているのを自覚し、けれども行動をその感情へと委ねた。
以前に冗談で作った違法装備を、格納庫の奥深くから引き出して、厳重な封印を素早く解錠し、プログラムを解凍させる。
金と時間に飽かせて組み上げた、完成間近、違法ツールの召喚システム。
同一の世界環境、別のVRMMOからの移送で呼び出す異星の大型機械、攻撃機。そういった設定の強大な武器、ここでは最強の力だ。
格闘機とも呼ばれる戦闘機械が、魔法陣のような召喚門を通じて、異界から人型の素体を呼び出され、続けて新たに召喚された外付け外装を纏ってゆく。
Ⅳ類の火器を、仮付けのように見苦しく外付けされている姿。
金属製の人体模型のような素体、それを覆う未来風の滑らかな外装には、現用の近代兵器と変わらぬ外観を持った、取って付けたような兵装が取り付けられており、見るものにはそれが、ちぐはぐな姿に映っていることだろう。
ちろちろと燃え煙る廃墟には不似合いの、金属製の巨人。
それが、もっと場違いなもの、金緑色の光を放つ魔法陣の魔力光に足下から照らされて、そびえ立つ姿を見せている。
曇天の夕闇に、一条の金の光が流れている。
違和感を感じる風景。幻想的な光景、血なまぐさい現実、荒唐無稽な巨人とが混じり合った景色。
対峙するは鬼の姿を持つもの。
違法同士のぶつかり合い。
相手をこの世界から滅するための決闘。
召喚された戦闘機械。
攻撃機という名称とは裏腹の、人を模した格闘する飛行機械。
異世界の高度文明の遺物である機械という設定の、なぜか人にも電脳を通じた思考操作で動かせる機械。
そんな設定を持っている、別の異世界でのメイン兵器のひとつ。
基本的な構造が同一システムで稼働しているこの世界でも、基本動作の機能が間違いなく動くことは検証済みだ。
もっとも、このゲーム世界には高高度エリア設定が無いため、ドローン程度の高度しか空域設定がない。
そのために、高速移動は視界に捉えられる程度の低空飛行か、ホバー走行しか出来ない。
それともうひとつ、元々の世界では使える、強力無比な電磁障壁も、この世界では設定不備となるため作動できない。
それでもこれは、この世界で殺戮するための過剰な武力。
敵を殺す力だ。
生身の肉体は、機体召喚時に胴体部分に仮設した、頑丈な保護カプセル内へと送られている。
機体そのものは、いつもの肉体の操作と同様に、考えるだけで機体を操作出来る。
この機体の身長は、敵の倍以上。建物の二階くらいは優にある。
高ぶる心で格闘機の持つ視界を通し、小さく見える鬼の姿を見下ろす。
きっとこれなら……、殺れる!
「ほう。すこしは歯ごたえのありそうなものも、持っているのではないか」
鬼はイラつかせる笑みを浮かべたままだ。
潰してやる!
内蔵された腕部の砲を鬼へと向ける。
ここでも動作する武器、腕部の機関砲が連続した砲火と爆音を吐き出し、
炸裂弾が命中した場所へ大穴を開けて、その箇所を抉るように削り取ってゆく。
断続的な光の帯が、鬼へと向かいながら処理異常のノイズとラグを繰り返し発生させる。
発生したラグのために、鬼の姿と弾道は、コマ送りのような挙動を不定期に発生させて、その姿をカクカクと止めながらも、敵を狙い撃った射撃は続けられてゆく。
鬼はそうした回避の妨げとなる不具合の中でも嗤いながら、危なげもなくその必殺の弾頭たちをゆるりゆるりと躱してゆく。
機体を浮上させ滑らせるよう素早く駆って、獲物を追いながら、致命傷となるはずの射撃で罠へと追い込んでゆく。
滑るように加速する格闘機は、スピーカーのハウリングのような不思議な咆哮を上げて、現用飛行機とは違う、何か不可思議な動作原理で鬼を追い、疾風のように地を駆け抜けた。
もう少し、もう少しだ。
殺された砲撃担当や敷設担当たちが仕掛けておいた地雷原のエリアへはもうすぐ。
この機体の速さと、射撃で掛ける火力の圧力ならば、
仲間たちの部隊では掛けられなかった地雷原への追い込みがやれる!
まだ、
まだ、
あと、ちょっと……。
入っ、たっ!
鬼の踏み込んだ罠のエリアの足下で、
紅蓮の炎と閃光とが爆ぜる。
地雷を踏んだ!
敵は爆炎と破片のダメージを受けて、曇天の闇に染まる空へと高く弾き出され、
激しい勢いで、瓦礫の散らばった舗装された地面へと叩きつけられる。
倒れたままピクリとも動かない姿を見て、鬼が死体へと変わる瞬間を、今かと待ちわびる。
ゆらりと鬼が立ち上がってきた。
まさか!?
あれでも倒せないのか??
けれども、立ち上がった鬼の姿を見て、
緊張した意識を弛緩させる。
地雷は確かにダメージを与えることに成功していた。
鬼の脚は一本となり、片方はどこかに吹き飛ばされていた。
やれる!
倒せるぞ!
勝てる!
こいつに!
片足の鬼はバランスを取るように、
時おり揺れながら、俯いて肩を震わせている。
小さな声で何かを言っているようだ……。
機関砲の砲口を向けようとした機体の腕が何故だか、ふと止まる。
微かだった鬼の呟きが次第に大きくなり、
高く大きな哄笑へと変わりゆくことに気づく。
一足で地を踏みしめた鬼が顔を上げ、
嬉しげにこちらを見て大きく嗤う。
「面白い! 面白いぞ! 人!
そうだ! 闘いはこうでなくてはな!!」
優位に立ったと思い、弛緩していた気持ちが縮み上がる。
鬼は嗤い続けている。
ゲームで言う、強敵の発狂状態?
或いは第二段階の行動か?
……違う!
これはそんなものではない……。
唐突に理解する。
これは倒せないもの。
何か判らないもの、とても怖いもの。
何かもっともっと違う、恐ろしいものだと……。
無意識のうちに、外には出ないはずの悲鳴を、保護カプセルの中の身体が細く漏らす。
格闘機に乗り移った意識は、大きく声を上げるように、機体の武装全てを、鬼へと向けて放つ、放つ、放つ!
一足となった鬼は、その攻撃よりも速く、両の手を地に着き、
嗤いながら驚異的な速度で電光のように這い、三肢で走り、疾駆しながら砲撃や弾頭を躱す。
両腕の機関砲の連射も、射出された誘導弾も全く意味がない。
当たらない!?
当たらない、
当たらない!!
連続する閃光と爆音の中で、鬼へと新たなダメージを全く与えられないまま、
やがて、這う姿から立ち上がった鬼の脚は、一足ではなく二つの足で地を踏みしめている。
怖い、
怖いっ、
怖いっ!!
弾薬が切れても構わない。
機関砲の射撃と誘導弾の射出を再度続けて行うが、
敵にはまったく命中せず、辺りに爆炎と射撃の爆発痕をばら撒くばかりだ。
鬼はこちらの幾つもの攻撃を意に介さず、電光のように迫り来る。
恐怖の勢いで敵へと叩きつけられる右腕の衝撃角。
けれども、戦闘補助を受けた必殺の一撃を、鬼は無造作に掴んで、肘の先の腕ごと衝撃角を捻り折った。
巨大な金属の塊である格闘機は、自らの半分にも満たない背の存在を怖れるかのように、
悲鳴を上げて仰け反るような仕草をしながら、折れ千切れた利き腕を左腕で庇うようにしながら後ずさってゆく。
鬼は嗤いながら、滑走して逃げようとする機体へと素早く近づき、無造作に殴りかかっていった。
自らの背丈の、優に2倍以上はあるはずの機体を殴り、そして蹴り飛ばす。
まるでこちらのことを、蹴飛ばした空き缶程度にしか感じていないと思えるような気軽さで、重量級の機体を軽々と大地へと転がしてゆく。
カプセル内部へと警告音が響き渡り、赤い閃光が激しく明滅しているが、機体と接続している今は、意識が機体へと繋がれた搭乗者は全く気づいていない。
遅れて搭乗者の脳内へと、機体からの警報、危険!危険!という電子音声がけたたましく響いてくる。
唐突に機体からの映像情報が途切れ、
息苦しいほどに狭いカプセル内部への様子へと感覚が戻る。
すでに警告音は途切れていて、カプセル内部には自らの激しい鼓動と、ぜいぜいと息苦しい呼吸音だけが響いている。
機体との回線が絶たれた!?
身動きもままならない操縦席内部に、赤い非常灯が点り、操縦席の内側の身体を赤く染める。
窓を視線で開き、召喚解除しようと試みるが……、
出来ない!
そもそもが手動操作できるように、システムが組み上げられていなかった。
離脱はタイムアップ後に自動操作で完了するはずだが、
今は画面枠の隅で刻まれていたはずのカウント、そのタイマーが何故か止まったままだ。
突然に操縦席の明かりが消える。
脱出!!
できない!?
機械の巨人が激しく震える
外部からの打撃音!?
まさか!?
簡単には壊れないはずの合金製の機体。
それなのに、外からの打撃により機体が歪み軋む。
空き缶が潰される様に、操縦席が潰される!?
そんなバカな!!!?
ログアウト、
できないっ!!
ログアウト!!
ログアウト!!
うぁああっ!
真っ暗な闇のなかで、
四肢が潰される痛み、鈍い痛覚信号を受けながら、声にならない悲鳴をあげる。
やがて肺が押し潰され呼吸ができなくなってゆく最中、
カプセルの歪みで、先に首を横に向けたまま固定されていた頭部が、嫌な鈍い破裂音と共に潰された。
考えることは、これで脱出できるのかという安堵だった。
けれども、
最後に目にしたのは、
何故だかカプセルの壁をすり抜けて、
視界に広がる鬼の手だった。
「さて……、もういいかい?
これからおまえを喰うよ」
鬼の嗤いと、そう言った声が聞こえた。
-◆◆-
- 追うものと追われるもの - (第二文)




