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第2夜〈 VRMMO - 某ガンアクションゲーム - 〉



-◆-




 - 灯火(ともしび)を追う影ひとつ - (第一文)





-◇◇-



第2夜〈 VRMMO - 某ガンアクションゲーム - 〉



 そこは廃墟だった。


滅びて久しいと思える街には崩れた建物(ビル)が建ち並び、墓石(ぼせき)の群れのような様相を見せる。


重く厚い雲が垂れ込めており、僅かな隙間から赤黒い日が射し込むこともあるが、

街並みはほぼ薄暗いまま、気味の悪い雰囲気を醸しだしている。


 廃墟となった街のそこかしこから、時折オレンジ色の閃光と、何かが爆ぜるような音が聞こえていた。


 闘いが起こっている。


 銃撃(ガンファイト)のようだ。


何者かが撃ち、もう一方が撃たれている。

逢魔が時の戦闘(バトルシーン)だ。


けれども、撃たれる方が撃つ方を追っているようにも見える。

狩りの獲物(トロフィー)はどちらなのか……。




---




 大規模な戦闘部隊フルレイド・パーティーを、歯牙にもかけない敵のユニット(エネミー)だと!?


そんなものが居るという噂は聞いたことがない。

攻略サイトでも見かけていないぞ……。



  何だそれは??


崩れかけた建物(ビル)や廃棄された車両(ビークル)などを盾として、物陰から幾条も連なった射撃の光が見える。

今は、小口径でも貫通性の高い銃弾が敵へと降り注いでいるはず。

けれども、そうした無数の銃撃(ヒット)でも、大柄か、巨体ともいえるほどの姿シルエットをした紫紺の人型(エネミー)は全く倒れようとしなかった。



なぜか聞こえる声。



「効かぬよ。銃などで鬼は傷つかない」


(エネミー)が嗤う。



  そんなバカなっ!?



オーガなんて雑魚エネミーは、重量級(ラージサイズ)大口径拳銃(ハンドガン)なら簡単に殺せるんだ!!

ましてや、ライフル弾の貫通して骨を砕く銃撃(ヒット)であれば、排除キルされていなければおかしい。


それに、この世界(ゲーム)での敵性ユニット(エネミー)が話しかけてくるなんて話は聞いたこともない。



  なんだ?


  あれは??



「おぅがなどという、はりぼてとは、そもそもの中身の出来が違うわ」


鬼がくつくつと嗤い、仲間(メンバー)へとゆるりと動き迫る。




 砲撃担当(ベビーガンナー)の放つロケット弾、焔の尾を引く弾頭を(エネミー)は軽く避けて、瞬く間に彼女へと接近し、叫ぶ間もない彼女(それ)を腕のひと薙ぎで吹き飛ばす。


あらぬ方向へ四肢を曲げながら、地面を何度もバウンドする砲手(ガンナー)の背後で、回避された榴弾(グレネード)が爆発して盛大な火花と破片を撒き散らす。

薄暗い街並みを照らし出したその爆炎は、死体と化した彼女(オブジェクト)を作り上げた(エネミー)の、燃え上がる炎を背に立つ鬼の姿(シルエット)を浮き立たせた。



 炎に照らされた、避けない目標(ターゲット)などいい的だ。

少しでもこの戦場(ゲーム)に慣れたものなら、簡単に的となるものへと銃撃を命中させ(あて)られる。


部隊(スコードロン)仲間(メンバー)からの銃撃が、ここぞとばかりに、(エネミー)へと集中する。


弾は当たりはする。けれども被害効果ダメージエフェクトは一向に発生しない。



 (エネミー)が動き出す。

動いている鬼には弾が当たらなくなるのだ。


ゆっくりとした動きなのに、撃たれた弾は全て回避されてゆく。



「無駄だ無駄だ」

くつくつと嗤い、言の葉を次ぐ。


「鬼は()ぬ。見えるようで見えぬもの」


()ぬようで、そこに在るもの。そして(あや)め、喰らうものよ」



また再び相手(エネミー)からの声が聞こえる。


  回線割り込みか(ハッキング)!?



 銃撃や爆発音(サウンドエフェクト)が激しく響きわたる中で、

聞こえてくるはずのない(オーガ)の言葉が、しっかりと耳に響いてくる。


歯を剥き出し嗤いながら(エネミー)は、(すべ)るように、(ぬめ)るかのようにゆるゆると、全ての攻撃をかわしすり抜けてゆく。



 背筋がざわつき、流れもしないはずの汗が背を濡らすような、幻の感触を身に感じる。

もしかしたらこの感覚、世界(ゲーム)の外にあるはずの肉体は今も汗でぐっしょりと濡れているのかもしれない。


あり得ない戦況(バトルシーン)を観察しつつ頭の片隅でそんなことを思いつき、生理的に不快さを覚える考えを頭から振り払う。



 歯を剥き出し嗤いながら、あの鬼(エネミー)は戦場に立ち続けている。


未知の戦闘術(コンバットテクニック)……。

この中(ゲーム)でのスキル、接敵術(ストーキング)格闘術(マーシャルアーツ)ではありえないやり方で、部隊の仲間たち(レイドメンバー)を狩り立てているのだ。




  まただ……。


  なぜ倒せないんだ!!



 射撃が効かない……。

Ⅰ,Ⅱ類(ノーマルアームズ)対人の小口径火器(ライフルやハンドガン)は全く効果がないようだし、そもそもが当たらない。

連射(フルオート)では時おり命中するけれど効いていないし、単発射撃(シングルアクション)だと、近距離で掠りもしない。


Ⅲ類(ヘビーアームズ)大口径、重量級の(オーバーウェイト)対物火器(アンチマテリアルアームズ)ならば、対象の(エネミー)に効く、傷を与えられると思うのだが……、

そもそもが命中する(あたる)のか?


人の手で携帯する(アバターの持つ)大口径火器(ヘビーアームズ)での連続射撃(フルオート)など出来ない。

これらを操作(コントロール)して、移動戦闘を(コンバットムーブ)するには火器が大きすぎ重すぎる。

先ず狙いが定まらない。


 重量火器を命中(ヒット)させるためだけに、能力(ステータス)筋力(ストレングス)極振りのキャラメイクなど、普通の神経では選択(やり)はしない。

移動速度(ムーブ)が落ちれば、相手からの、ただの的になってしまうだけだからだ。


剣と魔法の(ファンタジー)世界の標準装備と違って、銃撃戦(ガンアクション)の世界の個人装備は、火力と防御力が拮抗(きっこう)していないのだ。

武器の射程も長く、遠距離から攻撃できるため、撃たれない、発見されないが基本的な戦術となる。


ファンタジー世界以上に、銃による世界(ガンファイト)は数による戦術が活きる。

個人や少人数が、多人数に勝つことなど、普通はありえない。

移動しながらの電撃戦や奇襲による戦術が当たり前となってくる。


だからこそ移動出来ない火力(セッティングアームズ)は個人装備としては好まれていない。現実的ではない。

これらは大規模部隊の作戦フルレイド・パーティーとなったときに初めて効果があるものだ。



 他の火器類(アームズ)ではどうだ……。

Ⅴ類(オプティカルアームズ)光学兵器(レーザー)連射(フルオート)……。本当に効くのか?

それとも、

Ⅳ類(セッティングアームズ)の非携帯火器、半固定、火力(パワー)に任せた広範囲(マスエリア)への被害を与えるもの。

あるいは初速の高い搭載兵装(ビッグガン)電磁加速砲(レールガン)なら……、もしかすれば。

それらを付けた戦闘車両(コンバットビークル)のようなもの、例えば戦車(タンク)

それならばあるいは殺せるかも……。



確実に倒せる方法を焦りつつ考えている最中にも、

部隊の仲間(レイドメンバー)は着実に狩られてゆき、だんだんとその人数を減らされてゆく。



  畜生め! もてあそんでやがる!



 あの(オーガ)投擲(とうてき)される爆発物(ボム)、発射させる榴弾(グレネード)の類いは必ず避けている。被害(ダメージ)を受けるからか、それともただ単に武器の弾速が遅いからか?


炸裂弾頭(エクスプルージョンブリッド)Ⅳ類火器(ビッグガン)、大口径で高速の貫通被害(ペネトレートダメージ)を持つ火器類(アームズ)などを試したいが……。

そんなもの、ここには今無い。普通はあり得ない。

けれども無くはない。

運営からの追放(BAN)覚悟の隠し玉(チート)ならば、或いは……。



 敷設担当(ボマー)(マイントラップ)を仕掛けて、(エネミー)を誘い込むための作戦案(プラン)を立ててはいたが、おそらく倒すのには間に合わないだろう。


追い込むため、圧力(プレッシャー)をかけるための武器(ウェポン)手段(プラン)がないし、(デコイ)での引き回す方法(カイティング)もたぶん通じない。

腹立たしいがあの(ユニット)は頭がいい。優れた思考回路(ルーチン)を搭載しているのだろう。



 (エネミー)円形(サークル)に広く囲みつつ、罠周辺(トラップエリア)へと導こうと苦労してはいるが、

(エネミー)は気まぐれに仲間(メンバー)へと接近し、素早く狩ったかと思えば、思いつくままに適当な(あさっての)方向へと向かって進み、別の仲間を(キル)している。


戦場の戦術フィールドコントロールが全く出来ていない。

中隊規模の仲間たち(フルレイドメンバー)、百人近くのうち半数ほどが殺られて(キルされて)しまった。それも、素手であるただ1体の(エネミー)に……。



 戦略図(フィールドマップ)通信(ボイスチャット)などで優位に進むはずの作戦(オペレーション)も、それらが実際の戦闘場面(バトルフィールド)で機能しなければ意味がない。

現在(いま)戦場の支配者(ウォーマスター)はあの(ユニット)だ。


気まぐれに狩り、気分で部隊の仲間(おれたち)を食い散らかしてゆく。



  くそっ。敵を地雷原(マイントラップ)にさえ押し込めれば!




 薄暗い瓦礫の街並みの中で、今も散発的に銃撃の光と音が響いている。

戦闘の音や光の間隔が次第に開いてくる。

時おり間を空けて訪れる空虚な静寂。


人が狩られて減りつつあることが離れていても判る。

百戦錬磨(エキスパート)であるはずの仲間(レイドメンバー)たちに、動揺と怯えの空気が見え始める。



この世界(ゲーム)には、弱い痛覚制御(ペインコントロール)基本装備(デフォルト)で設定されている。

文字通り、対戦相手(プレイヤー)を痛めつけることが出来ること。それがゲームの売りにもなっているのだ。


勝てるならともかく、誰だって勝てない対戦(ゲーム)で痛い思いなどしたくはない。



そろそろ、怯えて戦線離脱(ログアウト)する兵隊(メンバー)が出始める頃だろう……。



 離脱(ログアウト)出来ないぞ!

臆病風に吹かれて逃げ去ろうとした部隊(チームメイト)の一人が騒ぎ始めた(ボイスチャット)が聞こえた。



  なんだって!?



  ボーナスステージと違う。

  何かしらのトラップなのか??



 ふと、先日完膚なきまでに叩き潰した、宿敵(ライバル)部隊(スコードロン)が言い放っていた捨て台詞を思い出す。


悪いうわさを流して、うちの評判を落とそうとしたり、嫌がらせのようなことも平気でする、

弱いと見る相手にマウントを取りたがる、卑劣で、たちの悪いチームだった。


こちらを潰そうとして、何かを裏でしているという、信憑性の薄い情報を聞いたことがある。

根も葉もないうわさだと思って聞き流していたが……、

これがそうなのか?


バカなことを。

しっぽを捕まれて(バレて)通報されれば、後で一発追放(BAN)させられるだけだろうに……。




 (エネミー)はただ一体だけ。

こちらは大規模な一部隊(フルレイドパーティー)

それが倒せず傷つけられずに、一方的に潰されてゆく。


そうしたあり得ない戦闘(バトルシーン)も、望まぬ終盤(フィナーレ)を迎えようとしている。



 死ねば逃げられる(ログアウトできる)と考えて、卑怯(チート)な奴に一矢報いようと爆弾を抱え自爆特攻あいうちをかける仲間(メンバー)も出てきている。

けれども射出器(ランチャー)榴弾(グレネード)やロケット弾さえ避ける相手に、そんなものは効きはしない。


(エネミー)からの殴る蹴る(カウンター)で弾き飛ばされたあげくに、持っていった爆弾で爆死させられたり、引き裂かれた死体(オブジェクト)ごと爆発して破片となる仲間(メンバー)たちがほとんど。


頭から噛り喰われて(キル)された仲間もいる。

恐怖の表情のまま、身体が一部欠けた死体(オブジェクト)と化した姿は、目を背けたくなるほどおぞましく、酷い有り様だ。


(エネミー)の周りにはそうして殺された死体(オブジェクト)の山が瓦礫のように(うずたか)く積もってゆくだけ。

命を持たない兵隊(アバター)が爆発の轟音と共に散ってゆく一方だ……。




 この閉鎖空間(クローズドエリア)から死んで逃げ出せた(ログアウトした)仲間(メンバー)たちは、今頃運営へと通報(コール)していることだろう。これで一応の解決……。


ここからは死ぬしか逃げ道は(デッドエンドしか)ないのか……。



  くそっ!

  やはり、あいつらのイカサマ(チートトラップ)か!



悪態をつきつつ、それでも冷静に考え心を静めようと努める。

離脱不能の罠(デストラップ)への仕様改変。

きっと死亡代償(デスペナ)装備損失(アイテムロスト)も仕掛けられているだろう。


それにあの敵(エネミー)も、やはり違法行為(チートツール)か?

それならば……、目には目をか……。


運営はバカをやった対戦者(相手プレイヤー)追放(BAN)して、こちらの被害への救済措置(フォロー)をして問題(クレーム)解決とするだろう。

でも、それでいいのか? それだけで?

絶対に舐められたままではいられないはずだ。



 もう誰も残っていない……。

視線で呼び出された仲間の名前(フレンドリスト)のうち、

部隊(スコードロン)を組んでいた仲間(メンバー)の、白く輝いていた名前はすべて、黒く暗転してしまっている。




  もういい……。


  ナメられてたまるか!



頭に血が昇っているのを自覚し、けれども行動をその感情へと委ねた。

以前に冗談で作った違法装備を、格納庫(フォルダ)の奥深くから引き出して、厳重な封印を素早く解錠(アンロック)し、プログラムを解凍(メルティング)させる。


金と時間に飽かせて組み上げた、完成間近、違法ツールの召喚システム。

同一の世界環境(ワールドシステム)、別のVRMMO(システム)からの移送で呼び出す異星の大型機械(デバイス)攻撃機(アタッカー)。そういった設定の強大な武器、ここでは最強の力だ。



 格闘機(グラップルデバイス)とも呼ばれる戦闘機械(バトルマシン)が、魔法陣(マジックサークル)のような召喚門(インストールゲート)を通じて、異界から人型の素体(マテリアル)を呼び出され、続けて新たに召喚(インストール)された外付け外装を(まと)ってゆく。


Ⅳ類の火器(ミサイルやビッグガン)を、仮付けのように見苦しく外付けされている姿。

金属製(メタリック)人体模型(アバター)のような素体、それを覆う未来風の滑らかな外装には、現用の近代兵器(ミリタリーウェポン)と変わらぬ外観を持った、取って付けたような兵装(アームズ)が取り付けられており、見るものにはそれが、ちぐはぐな姿(シルエット)に映っていることだろう。



 ちろちろと燃え(けぶ)る廃墟には不似合いの、金属製の巨人(ギガント)

それが、もっと場違いなもの、金緑色(メタリックグリーン)光を放つ魔法陣(ヘキサグラム)の魔力光に足下から照らされて、そびえ立つ姿を見せている。


曇天の夕闇に、一条の金の光が流れている。

違和感を感じる風景。幻想的な光景、血なまぐさい現実、荒唐無稽な巨人とが混じり合った景色。


対峙するは鬼の姿を持つもの(異形のもの)


違法同士のぶつかり合い。

相手をこの世界(ゲーム)から滅するための決闘(デュエル)




 召喚(インストール)された戦闘機械(バトルマシン)

攻撃機という名称とは裏腹の、人を模した格闘する飛行機械(デバイス)

異世界の高度文明(オーバーテクノロジー)遺物である機械(オーパーツ)という設定の、なぜか人にも電脳(ネット)を通じた思考操作で動かせる機械(システム)


そんな設定(しくみ)を持っている、別の異世界(ゲーム)でのメイン兵器のひとつ。

基本的な構造(ゲームパッケージ)が同一システムで稼働しているこの世界(ゲーム)でも、基本動作の機能が間違いなく動くことコントロールできることは検証済みだ。


もっとも、このゲーム世界(VRMMO)には高高度エリア設定が無いため、ドローン程度の高度しか空域設定(フライトエリア)がない。

そのために、高速移動(ムーブ)は視界に捉えられる程度の低空飛行か、ホバー走行しか出来ない。

それともうひとつ、元々の世界(ゲーム)では使える、強力無比な電磁障壁(バリア)も、この世界では設定不備(エラー)となるため作動できない。


それでもこれは、この世界で(ゲームのなかで)殺戮するための(暴れ回るための)過剰な武力(ちから)

敵を殺す力だ。



 生身の肉体(ネットでのアバター)は、機体召喚(インストール)時に胴体部分(ボディ)に仮設した、頑丈な保護カプセル内へと送られている。

機体(デバイス)そのものは、いつもの肉体(ネットアバター)の操作と同様に、考えるだけで機体を操作出来る(あやつれる)


この機体(マシン)の身長は、(エネミー)の倍以上。建物(ビル)の二階くらいは優にある。

高ぶる心で格闘機(デバイス)の持つ視界(モニター)を通し、小さく見える鬼の姿を見下ろす。




  きっとこれなら……、殺れる!



「ほう。すこしは歯ごたえのありそうなものも、持っているのではないか」


(エネミー)はイラつかせる笑みを浮かべたままだ。



  潰してやる!



 内蔵された腕部の砲(メインアームズ)(エネミー)へと向ける。


ここでも動作する武器、腕部の機関砲(オートキャノン)が連続した砲火と爆音を吐き出し、

炸裂弾が命中した場所へ大穴を開けて、その箇所を抉るように削り取ってゆく。


断続的な光の帯が、鬼へと向かいながら処理異常(オーバーフロー)のノイズとラグを繰り返し発生させる。


発生したラグのために、鬼の姿と弾道は、コマ送り(ストップモーション)のような挙動を不定期に発生させて、その姿をカクカクと止めながらも、(エネミー)を狙い撃った射撃は続けられてゆく。

鬼はそうした回避の妨げとなる不具合(トラブル)の中でも嗤いながら、危なげもなくその必殺の弾頭たち(クリティカルヒット)をゆるりゆるりと躱してゆく。



機体(デバイス)浮上させ滑らせるよう(ホバリングで)素早く駆って、獲物(おに)を追いながら、致命傷となるはずの射撃で(トラップ)へと追い込んでゆく。


滑るように加速する格闘機(デバイス)は、スピーカーのハウリングのような不思議な咆哮(サウンドエフェクト)を上げて、現用飛行機(ジェットやプロペラ)とは違う、何か不可思議な動作原理(システム)で鬼を追い、疾風のように地を駆け抜けた。



 もう少し、もう少しだ。



(キル)された砲撃担当(ガンナー)敷設担当(ボマー)たちが仕掛けておいた地雷原(マイントラップ)のエリアへはもうすぐ。



この機体(マシン)の速さと、射撃で掛ける火力(DPS)圧力(プレッシャー)ならば、

仲間たちの部隊(スコードロン)では掛けられなかった地雷原(マイントラップ)への追い込みがやれる!



  まだ、


  まだ、


  あと、ちょっと……。



  入っ、たっ!



鬼の踏み込んだ(トラップ)のエリアの足下で、

紅蓮の炎と閃光とが爆ぜる。



 地雷(マイントラップ)を踏んだ!

(エネミー)は爆炎と破片のダメージを受けて、曇天の闇に染まる空へと高く弾き出され、

激しい勢いで、瓦礫の散らばった舗装された地面へと叩きつけられる。


倒れたままピクリとも動かない姿を見て、鬼が死体(オブジェクト)へと変わる瞬間を、今かと待ちわびる。



 ゆらりと鬼が立ち上がってきた。



  まさか!?

  あれでも倒せないのか??


けれども、立ち上がった鬼の姿を見て、

緊張した意識を弛緩させる。


地雷は確かにダメージを与えることに成功していた。

鬼の脚は一本となり、片方はどこかに吹き飛ばされていた。



  やれる!

  倒せるぞ!


  勝てる!

  こいつに!



 片足の鬼はバランスを取るように、

時おり揺れながら、俯いて肩を震わせている。


小さな声で何かを言っているようだ……。



機関砲(オートキャノン)の砲口を向けようとした機体の腕が何故だか、ふと止まる。



 微かだった鬼の呟きが次第に大きくなり、

高く大きな哄笑へと変わりゆくことに気づく。


一足で地を踏みしめた鬼が顔を上げ、

嬉しげにこちらを見て大きく嗤う。



「面白い! 面白いぞ! 人!

そうだ! 闘いはこうでなくてはな!!」


優位に立ったと思い、弛緩していた気持ちが縮み上がる。


鬼は嗤い続けている。



ゲームで言う、強敵(ボスエネミー)発狂状態(バーサーク)

或いは第二段階(セカンドモード)行動(プログラム)か?



  ……違う!


  これはそんなものではない……。




唐突に理解する。

これは倒せないもの。


何か判らないもの、とても怖いもの。


何かもっともっと違う、恐ろしいものだと……。




 無意識のうちに、外には出ないはずの悲鳴を、保護カプセルの中の身体(アバター)が細く漏らす。

格闘機(デバイス)に乗り移った意識は、大きく声を上げるように、機体の武装(ウェポン)全てを、鬼へと向けて放つ、放つ、放つ!



一足となった鬼は、その攻撃(アタック)よりも速く、両の手を地に着き、

嗤いながら驚異的な速度で電光のように這い、三肢で走り、疾駆しながら砲撃や弾頭を躱す。


両腕の機関砲の連射(フルオート)も、射出された誘導弾(ミサイル)も全く意味がない。



  当たらない!?


  当たらない、


  当たらない!!



連続する閃光と爆音の中で、(エネミー)へと新たなダメージを全く与えられないまま、

やがて、這う姿から立ち上がった鬼の脚は、一足ではなく二つの足で地を踏みしめている。



  怖い、


  怖いっ、


  怖いっ!!



弾薬(たま)が切れても構わない。

機関砲の射撃(オートキャノン)誘導弾の射出(ミサイル)を再度続けて行うが、

(エネミー)にはまったく命中せず、辺りに爆炎と射撃の爆発痕をばら撒くばかりだ。



 鬼はこちらの幾つもの攻撃を意に介さず、電光のように迫り来る。

恐怖の勢いで(エネミー)へと叩きつけられる右腕の衝撃角(ラムブレイド)


けれども、戦闘補助(システムアシスト)を受けた必殺の一撃(それ)を、鬼は無造作に掴んで、肘の先の腕ごと衝撃角(ブレイド)を捻り折った。


巨大な金属の塊(ユニット)である格闘機(グラップルデバイス)は、自らの半分にも満たない背の存在を怖れるかのように、

悲鳴を上げて仰け反るような仕草をしながら、折れ千切れた利き腕を左腕で庇うようにしながら後ずさってゆく。



 鬼は嗤いながら、滑走して逃げようとする機体(デバイス)へと素早く近づき、無造作に殴りかかっていった。

自らの背丈の、優に2倍以上はあるはずの機体を殴り、そして蹴り飛ばす。

まるでこちらのことを、蹴飛ばした空き缶程度にしか感じていないと思えるような気軽さで、重量級の機体(グラップルデバイス)を軽々と大地へと転がしてゆく。


カプセル内部へと警告音(アラート)が響き渡り、赤い閃光が激しく明滅しているが、機体と接続(リンク)している今は、意識が機体へと繋がれた搭乗者(パイロット)は全く気づいていない。

遅れて搭乗者の脳内へと、機体からの警報(アラート)危険!危険!という(ワーニング)電子音声(メッセージ)がけたたましく響いてくる。



 唐突に機体からの映像情報(モニタリング)が途切れ、

息苦しいほどに狭いカプセル内部への様子へと感覚が戻る。

すでに警告音(アラート)は途切れていて、カプセル内部には自らの激しい鼓動と、ぜいぜいと息苦しい呼吸音だけが響いている。



  機体との回線(リンク)が絶たれた!?


身動きもままならない操縦席内部に、赤い非常灯(ランプ)が点り、操縦席(カプセル)の内側の身体を赤く染める。

(ステータスウィンドウ)を視線で開き、召喚解除(アンサモン)しようと試みるが……、

出来ない!


そもそもが手動操作(マニュアル)できるように、システムが組み上げられていなかった。


離脱(イジェクト)はタイムアップ後に自動操作(オート)完了(コンプリート)するはずだが、

今は画面枠(ウィンドウ)の隅で刻まれていたはずのカウント、そのタイマーが何故か止まったままだ。


突然に操縦席(カプセル)の明かりが消える。



  脱出(イジェクト)!!

  できない!?



機械の巨人(デバイス)が激しく震える


  外部からの打撃音!?

  まさか!?


 簡単には壊れないはずの合金製の機体(メタルフレーム)

それなのに、外からの打撃により機体が歪み軋む。


空き缶が潰される様に、操縦席(カプセル)が潰される!?

そんなバカな!!!?



  ログアウト、

  できないっ!!


  ログアウト!!

  ログアウト!!


  うぁああっ!



 真っ暗な闇のなかで、

四肢が潰される痛み、鈍い痛覚信号(ペインシグナル)を受けながら、声にならない悲鳴をあげる。



 やがて肺が押し潰され呼吸ができなくなってゆく最中、

カプセルの歪みで、先に首を横に向けたまま固定されていた頭部が、嫌な鈍い破裂音と共に潰された。


考えることは、これで脱出(ログアウト)できるのかという安堵だった。



けれども、



最後に目にしたのは、


何故だかカプセルの壁をすり抜けて、


視界に広がる鬼の手だった。






「さて……、もういいかい?

これからおまえを喰うよ」


鬼の嗤いと、そう言った声が聞こえた。






-◆◆-




 - 追うものと追われるもの - (第二文)





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― 新着の感想 ―
ゲームと思っているものが、ゲームではなくなる。 まるで非現実的な状況が現実だと感じる悪夢のような感覚。 でも目は覚めない。起きられない。 その時の人が抱く恐怖の感情が伝わってきました。 また読み進めた…
[良い点] ログアウトできないがもう怖すぎて直視できませんでした……
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