クラス召喚に巻き込まれた教師・ラジオドラマ記念SS:異世界での暇つぶし
「うーん……」
「セージさん、さっきから唸ってどうしたんですー?」
クトネの家にて。
現在俺は、暇を持て余してしていた。
買い出しを終え、食事を終え、風呂にも入って、あとは寝るだけ……なんだが。そう、ぜんっぜん、眠くないのである。
だってさ、時間で言えばまだ夜の七時くらいだぜ? ぜんぜん眠くないし、普段はビール飲んでテレビ見てる時間だ。
当然、ここにはテレビなんてない。なので、やることがないのである。
俺は、クトネに言う。
「なぁクトネ。お前さ、いつもどのくらいに寝る?」
「どのくらい?」
「あー……いつ寝るか、ってこと」
時計、ないもんな。
クトネ曰く、学校の授業も砂時計をひっくり返して、砂が落ちきったら終わりみたいな感じだし。
クトネは「んー」と首を傾げる。
「ご飯食べて、お風呂入って、授業の予習復習して、読書して……うん、まだまだ寝ませんね。起きるのはシリカが起こしてくれますので問題ないですし」
「そ、そうか……」
読書。俺も少し考えたけど……ここの本、難解すぎて頭おかしくなりそうなんだよな。
文字は読めるけど、すっごく疲れる。百科事典みたいな魔法の本ばかりだし。
「な、クトネ。ゲームとかないか?」
「そうですねー……あ、魔法攻防戦技ならありますよ。おじいちゃんとよくやったんですけど、一人じゃできないんですよねー」
「……魔法、なに?」
「魔法攻防戦技。言ったらなんか懐かしくなっちゃいました。教えますんでやりましょう!!」
そう言い、クトネは自分の部屋にダッシュ。
すると、浴室から全裸のブリュンヒルデがシリカを抱えて出てきた。
『センセイ、シリカの丸洗い完了です』
「わ、わかったから服!! 服!!」
『はい、センセイ』
ブリュンヒルデはシリカを抱えて浴室へ。十秒ほどでシャツと短パンに着替えて出てきた。
相変わらずシリカは抱っこされている。
ちなみに、なぜブリュンヒルデがシリカを洗っているのか? 簡単だ、クトネがやると大暴れするが、ブリュンヒルデがやろうとするとなぜか大人しかった。これにはクトネが落ち込んだな……まぁ安心しろ、俺がやろうとしたら暴れるどころか鼻で笑われたからな。
ブリュンヒルデに抱っこされたシリカは、よくわからないふてぶてしい表情で俺を見てる。
すると、クトネが戻ってきた。同時にシリカがブリュンヒルデの手から離れ、二階へと駆け上がる。
「ありましたっ!! セージさんセージさん、さっそくやりましょうっ!! あ、ブリュンヒルデさん、シリカの丸洗いご苦労様ですっ!! ブリュンヒルデさんも一緒に遊びましょうっ!!」
『結構です』
「即答!? そ、そんなぁ~」
「まぁまぁブリュンヒルデ。よくわからんけど、クトネが面白い遊びを教えてくれるみたいだし、やってみようぜ」
『はい、センセイ』
「即答!? ううう、セージさんわたし、ブリュンヒルデさんに嫌われてるぅ~……」
クトネがショボショボしながらテーブルに置いたのは、ボードゲームだ。
透き通った形状が違う駒がたくさんあり、マス目のあるボード……あ、これもしかして。
「これが『魔法攻防戦技』です。いろんな種類の駒をボードに並べて、順番に動かしていきます。それぞれの駒には動かし方があって……例えばこれ、『見習い』は前方一コマしか動けません。こっちの『魔法騎士』は好きなだけ前進できて、こっちの『大魔法士』は斜め移動だけ。最終的に『魔法大帝』を取ったら勝ちです」
これ、チェスだな。異世界版のチェス。
なーるほど。コマの動かし方もなんとなく同じだ。
ふふふ……実は俺、チェスや将棋、花札とかはけっこう得意なのだ。休日とかスマホのアプリで、よくCPU相手に無双してたからな。
『ルールを理解しました』
「ふふふ。ではやりましょう!! まずはセージさん、お手並み拝見しましょうか」
「いいだろう……デュエル!!」
「……は?」
「……なんでもない」
すみません、ちょっと恥ずかしかったです。
さて、先行は俺。
さっそく、ポーン……じゃなくて、メイジを動かそうとすると。
「あ、セージさん。コマは魔力で動かすんです。ボードに触れる部分あるでしょ? そこに触れて、魔力を送りながら動かしたいコマを動かすんです」
「なにそれ、面白そう」
ボードには、指を置く部分があった。
そこに人差し指を置き、魔力を送ると……おお、ポーンが歩行した!!
「じゃ、あたしですね」
クトネもポーンを動かす。
次は俺。斜め移動ができる『大魔法士』を一気に動かし、クトネのメイジを取ってやろうと動かした。
次の瞬間、アークメイジが持っていた杖から雷が発生し、ポーンが粉々に破壊された。
「うぉぉぉ!? こ、駒が壊れたぞ!?」
「そりゃ戦闘ですからね。あ、駒は試合終わったらちゃんと治りますよ」
「そ、そうか……」
びっくりした……いや、いきなりで驚いたけど、これ臨場感あってマジ面白いかも。
試合は白熱し、互いの駒が破壊されまくり……。
「王手!! じゃなくてチェック!!」
「むむむむっ……やりますね、セージさん。でも甘いっ!! 行きなさい『魔女』!! セージさんの『魔法騎士』を破壊!!」
「ぐぁぁぁぁ!?」
俺の魔法騎士が、魔女の氷魔法で粉々に砕け散った。
そして、さらにクトネの『魔法騎士』が、俺の『魔法大帝』に迫る。
「ふふふ、王の守りはありません!! わたしの勝利ですっ!!」
魔法騎士が、俺の魔法大帝を一閃……粉々に砕け散った。
すると、俺の残った駒が一斉に爆発。クトネの陣地に魔力の花火が上がった。
「やったー!! くぅぅ、白熱しました……セージさん、ほんとに初心者ですか?」
「ぐぅぅ……も、もう一回!! もう一回だ!!」
「ぐふふ、構いませんよー? と言いたいですが、次はブリュンヒルデさんです。くひひ、そのクールビューティなお顔を恐怖と悲しみで彩ってあげましょう!!」
「あ、ブリュンヒルデは魔力使えないし、代わりに俺が駒動かすよ」
『お願いします』
十分後。圧倒的大差でブリュンヒルデに敗北したクトネの駒が爆発した。
いや、ブリュンヒルデ……クトネの攻撃パターンを解析して駒動かすのダメでしょ……俺も挑んだけど絶対に勝てないし。
その後、ブリュンヒルデに一泡吹かせようとするクトネに、朝まで付き合わされるのだった。