第八話 私に吹く風の音色
曇り空の広がる爽やかな朝の、同じく店の立ち並ぶ細い飲食店の立ち並ぶ場所だ。
パーカーを着てフードを深くかぶって眠っている歩美の隣には、綺麗に全て食べ終えたシチューが入っていた皿が置かれていた。
頬にはまだシチューのカスがついている。
目を覚ます。半分開いた目でポケットをまさぐるが既に携帯を捨てた後なので、無い事に気づくのは少し経ったぐらい。
「珈琲、飲むかね」
突然の渋い声に驚いて肌を逆立てた。
丁度隣には六の父親がお地蔵さんのように座っていて、非常に落ち着いた様子である。
「何しにきた! 私を捕まえる為? それとも貶しに来たのか!」
「そんなわけないだろう。……ああ、ついでだからちょいとした昔話をしよう」
言動に理解が出来ない。油断させて捕まえる作戦の可能性も考えた。
「自分の友人がまだ幼かった頃だな。年代で言えば10年ほど前になるだろう、」
少女は歩美と同じように突然超能力を手に入れた。何でも謎を解ける魔法とも言えるような能力だ。
元々父親が嫌いな子で、立派な警察の職についている親とは違う方向に進みたく。犯罪者になりたいという変わった願望を持っていた。
ある日まだ、探偵として名を馳せてなかった六の父親はその子と出会う。
最初は嫌われていた。探偵は警察を彷彿とさせたのだろう、物理的に噛み付いてきたし引っ掻いてもきた。探偵は咎めたり離れたりする事は無かった。何故ならば少女に強い信念を感じたから。
探偵は少女を犯罪者として育て上げる事を決意した。それがこの国を変える切欠になると思ったからだ。
少女は高校生になった。怪盗としてあらゆる情報を盗み出し探偵の右手として活躍していた。
この国の治安は各国から批判されたが、盗み出した情報をメディアに売る事によって良い方向へと変えて行った。
「……というわけだ。君はどう思う?」
目の位置を片寄らせて困った表情をする。
「どうって凄いとしか言えないけど」
「そうだな、凄いな。自分の目にはソイツと同じように映ってるんだ。んで提案がある。その友人と話をしてみないだろうか」
どうしてだろう。現在世間で有名なお尋ね者なのに、どうしてそこまでしてくれるのか。似てるという理由だけでそこまで動けるのかというのは、今の歩美には分からなかった。
「会って、みたい」
「よし来た。早速風音君に連絡を入れてみよう」
空の雲に裂け目ができ、そこから光が差し込んできた。