第七話 消えない私のネクロズ魔法
携帯電話を海に投げ捨てた。理由はひっきり無しに親戚から連絡が来るからだ。
心配されてるのではなく公的に指名手配されてるとして、警察の協力を要請されそうなっていた。
超能力や魔法が認知されていない世の中で歩美が指名手配されているのも、ドロテアがどうにか手回ししたせい。
罪は全身壊死で発見された歩美の両親と、この間猫の捜索の件で同じくそうなった男性、そして川に浮かぶ大量の魚が死んでいた件であった。
歩美は全て自分のせいだと思っていて否定しようがないし、世の中の一般市民から警察が敵となって血眼になって自身を追いかけてくる感覚がした。
深夜の飲食店が立ち並ぶもう全ての店が閉まった深夜の時間帯。歩美は照明を消し忘れた中に灯りのある看板に四つんばいになって両手をあて、顔を地面に向けて動かなかった。
文字は居酒屋の「居」の一部分だけが見え、それ以外は歩美自身で隠されている。
「…………」
希望は暗く狭い空に吸い込まれ、代わりに絶望がやってくる。
「やっぱり、私は……あの時死ぬべきだったんだ」
一瞬だけ強い風が吹き、開いたままのバッグから写真がひらひらと歩みの顔の前にゆっくりと落ちた。
亡くなった両親と幼い頃の歩美が写っていて、でも不思議と悲しさなんて湧いてこない。
いつから私は屑になってしまったのだろう。
それだけで悲しくなったが、雫一つすら落ちなかった。
横にコツン、と何かを置く音がする。誰かの靴も見える。
「お姉ちゃん、シチュー持ってきたよー……」
一瞬で六の声と分かった。今最も求めている人物であり最も会いたくない人でもあった。
「六、歩美お姉ちゃんがいい人だって信じてる」
「こないで!」
姿勢は変えず腹の底から叫んだ。六には幸せになって欲しいという願いと、自分と関わったらロクな事にならないという考えから、その結論に至る。
そして震えた声で続ける。
「私と関わったら本当に身も心も腐っちゃう。二度と、こないで」
砂利を靴で擦る音。
「また、来るー!」
走ったような音でどこかへ存在の雰囲気を消した。
暗い夜はまだまだ続く。