第六話 私の化けの皮
日没する頃のいつも通う所ではない川の近く、橋の下の壁際に座り込みパックのジュースを吸っていた。
今日はつまらない日だったなと思いつつ、何も無い方が幸せなのかなと思った。
川の近くなだけあって冷える。が、とうの前に慣れてしまいそのままの姿勢でストローを咥えたまま深い眠りにつく。
すー、すー。と寝息を立てている歩美の前にドロテアが現れる。今回は黄色い光を放つ2本の線が入っているゴーグルをしていた。
「……やっぱり間違いない。忌々しい心は感じてたけど、忌々しい能力まで持ってたとは」
寒さと恐怖で身震いする。歩美に気づかれない内に携帯をいじりながら、そそくさと退散する。
目を覚ます。朝も肌寒い。
視界には六の父親とドロテアが同じような怪しいゴーグルをしていて、歩美の方を見つめる。
「起きたね……万が一を考えて我が子供達は呼んでいない」
すぐに体を直立させパックごと地べたに落とす。
「でしょ? 現代では証拠として提出できないけど、貴方には見てほしかった」
ああ。と余韻を残しつつ同意の意思を示す為に何度も頷く。
「ドロテア、さん? いつ私の正体を、能力を知ってたのですか!」
「何となくだよ。犯罪者は皆歩美ちゃんみたいな感じだからね」
金髪を風で揺らす。魔女の杖の先端を歩美の顔に向けて突き出す。
六の父親は横を向いたまま珈琲をすすっていた。
「何でわたしが警察で働けてると思う? それは逮捕不能な犯罪勢力に対抗するため……よって、自分の権限を使って貴方を滅します」
殺される、どう足掻いても殺される。そう思った歩美は一目散に逃げ出す。六の父親は追いかけようとせず、後ろをついてくるのはドロテアのみであった。
歩美の踏んだコンクリートはドロっと溶け植物は枯れる。土でさえ灰色に変色した。
どこまで逃げても執念深い魔女は追いかけてくる。路地裏にたどり着いた二人は息を切らしながらお互いの方を向く。
頭上には上部に線路のあるモノレールが走り、その音だけが響く。
「貴方もここまで。じゃあ、」
杖を構え辺りの光を吸収し始める。そこまで明るくないはずの空間がとても明るい。
「サヨナラ!」
もう終わりかと思った瞬間。
光は絶え、再び薄暗い空間へと戻る。
ドロテアが握っていた杖が腐り始め、握り締めていた位置から2本に折れた。
「どうして! わたしの杖は様々な能力に対抗してきたはず……はず」
げんなりしている内に咄嗟に横を通り過ぎて逃げる。追いかけてこようとはしなかった。そして、歩美の踏んだ後が腐り果てる事も無かった。