第四話 私と始まらない何か
歩美に背を向けたまま、六の父親は考え込む。珈琲の入った水筒を片手に駅の建物を眺めていた。
合わせて六も父親の背中を見て、考えているのか考えていないのか、透き通った瞳を揺らしながらスナック菓子を食べる。
「まさか、事故で亡くなってたとは。君は辛い想いをさせてしまったね」
「いえ、私は大丈夫です。依頼人の子には嘘ついたんですけど、後にニュースで知ったみたいで……あの男性が全身壊死で発見された事件で」
それに対して六の父親が頷く。水筒を空にすると深くため息をついた。
同時にスナック菓子を食べ終えて、脂ぎった指先を舐めはじめる。父親がやめなさいと小声で言うが特に言う事を聞く姿勢は無い。
「それで本題だ。実はこの一件で懸念してる事がある。何、悪魔でも『疑い』というやつだ」
何となく察しがついた。今回の事件と自分の両親に降りかかった事件、両方に共通点がある。
だが世間には認知されていない能力、否定すればそのままで済むだろう。
「全身壊死の事件の方、だよ。君の両親もそうだったね?」
「少なくとも私は知りません。確かに自分の身の周りで起きてるのは事実ですが、誰かの陰謀という可能性もあります」
「……何だろう。会ったばかりの少女なのに、信頼と不信が交錯するのだ。いや、思った事を言ってすまない。忘れてくれ」
もしかしたら将来的に見抜かれるかもしれない、と考える。
やっとティッシュで指先を綺麗にした六は、能天気にも歩美に抱きつく。
「お姉ちゃん柔らかいー」
「ありがとう六ちゃん」
君は何も考えてないのかな。と言いそうになるが喉につっかえさせて、そのまま胃に落とした。
駅から多くの荷物を持っている、緑髪の高校生が出てくる。中性的な顔立ちと体系をしていて、男女の区別が難しい。
「おーい優。やっと帰ってきたか」
「うんお父さん、それと六。何してるの?」
「仕事が来ないから暇してるんだ。学校はちゃんと行ってるか?」
優は、父親と同じように頷く。そちらの女性は? と丁寧に聞く。
「紹介が遅れて悪い。この子は息子の緑川優だ。そして、こちらの女性は有栖川歩美さん」
「よろしくね、優君」
「はい。よろしくお願いします!」
歩美は六に抱かれたまま、優と握手をした。