第一話 最低で輝く私の魔法
いっその事、自分を壊死させる。それで全部苦しむ事も無く解決するのではないか。
そう思って、頭の中でイメージしたり、無理矢理怒ったり悲しんだりして自分に能力をかけようとしたが、何も起きない。
なに、自身の命を落とす手段なんて幾らでもある。その発想に至り、まずは川に飛び込もうと思う。
生命を破壊する能力を持っていても、所詮は人間であった。生きたいという本能が働き、立ち止まる。
仕方なく歩き出し、橋を渡り、しばらく経って店の並ぶ大きなビルに入る。目的地は屋上だ。
強い風が吹き荒れる。パーカーのフードが倒れ歩美もよろめきながらも、何とか敷地の間際まで来る。
子供達が落ちないように柵は立ててあったが、彼女の年齢なら余裕で乗り越えれる高さであった。
柵の網目に指を通すも、これも本能が働き失敗した。適当に6階ぐらいの場所で好きなハンバーガーを食べ、ビルを出た。
再びあの川付近に来た。
壊死した魚達を見かけた人が警察に通報し、野次馬が続々と集まっていた。
特に魚達が可哀そうとも、また集まる人間が哀れとも思わない。どうせ自分も死ぬのだから、と。
何となく別の場所へ行こうと向きを変えると、女性の悲鳴が上がった。
再び向きを戻す。対向車線側で誰か女の人がバックをひったくられ「ドロボー!」と叫ぶ。少しムカついて、泥棒の方に意識を集中。泥棒はまるでドジをしたように倒れ、野次馬の男達に取り押さえられた。
この時誰も気づいていなかったが、泥棒の足は壊死していた。
「私の能力、正義の為に使えるんだ」
小さく呟く。
少しだけ、胸の中が暖かくなった。
自分と悟られない為にもこっそり橋を離れ、次の目的地へと向かう。
壊死させる。英語で言うと「necrose」で歩美は魔法が好きだったので、この能力の名前を『ネクロズ魔法』と名付けた。