第十六話 会いたい人
ドロテアは業務に励みつつ、暇を見つけては周囲を散策していた。
が、1週間ほど歩美の姿を見ていない。六や彼女の父親も見ていないらしく、痺れを切らして宿敵であるはずの風音の元を訪ねた。
山奥の少々大きな家で、風音の家と呼ばれているとか。
部屋を訪ねると白いリゾートハットをかぶっていて、氷の入った紅茶をすすっている。
珍しく風音は自ら語ろうとしない。小皿にティーカップを置き、安楽椅子を小さく揺らす。
「珍しいな。お喋りなお前が物静かだなんて」
「そうかな? それはそうとうちには分かるよ。歩美ちゃん探してるんでしょ。それで能力を使って欲しいと」
嘘が通用しないのは分かっているので黙って頷く。最悪見返りすら用意する覚悟でいた。
小皿ごとティーカップを近くの小さな丸いテーブルに置く。
残り半分の紅茶が風音の顔を映し出す。
「事実をはっきり述べよう。ドロテアさんにあの子と関わる覚悟が足りないね」
「どうしてだよ! 今まで何度も戦ってきただろ!」
安楽椅子の揺れが止まる。つまりは立ち上がって真顔で顔を見てくる。
「……見てきたから分かると思うけど、あの子は六ちゃんが好きでね。いつ腐らせてしまうか分からないから自ら命を絶つつもりだよ」
心臓が悪く鼓動した。1週間会えなかったのも歩美にそういう意図があったからなのかと考える。そして「つもりだよ」という発言からまだ死んでいない事も察した。
「そんな。どうしてもいる場所を教えてくれないのか?」
「断る。あの子は覚悟を持ってるのに、どうして覚悟の無い人と突き合わせなければいけないのか」
斜め下に俯いて曇った表情を見せた。
「頼む!」
「じゃあ一つだけうちから質問」
再び安楽椅子に座ると、細く小さなフォークに手を当てショートケーキのいちごを見た。
ドロテアの事を甘いと思っているのかそれともすっぱいと思ってるのかは、ドロテアには分からない。
「会ってどうするの?」
風音は持っている能力で分かる。ドロテア自身は自分の事でありながら弱い自分と向き合いたくないが故に、心の中で自分の心に目を逸らしていた。
たどり着きもしない答えを探している内に数分の時が流れてしまう。
「時間切れ。帰って」
「……ああ、また来る」
ドロテアは自宅に帰って悔しさのあまり小さな部屋の中から、窓から空を見上げて泣いた。空が四角い気がした。