第十五話 君となら輝けるだろう
人が殆どいない美術館にドロテアは再び舞い戻った。あらゆる場所に赤い液体が飛び散っている。
「どうしたのですか? 自分に殺されに来まして?」
軽蔑したような視線で口元を抑えている言い放つ。
言われた側は震えて指を差して、目の光をうしなったまま「わたしがお前を倒す!」と強がった。
化け物のような女性の背後には何も考えていないような歩美と、歩美にしがみついて泣いて怖がる六の姿が。
「歩美、六が泣いてるのに壊死魔法使わないのかよ!」
「だって能力使うのめんどくさい。うるさかったから丁度掃除してもらおうと思って」
まるで悪役そのものの台詞だった。実際良い思想を持っている人間とは言えない所ではある。
風音から連絡を受けた通り扱いが難しい子だとも思った。ただ間違いなく強い力を持っているのは、ドロテア自身がよく知っている。
彼女に怒りの刃を向けるのは恐ろしい事だと分かっていながら、感じるのは強い強い憤り。
腕の鱗ですぐさま化け物はドロテアに切りかかろうとする。避けて果敢にも腹に向かって拳を入れるがダメージは入らない。
距離を置こうとするも再び足がすくんで動けない。
躊躇も無く腕を上げ切りかかる。目を瞑って最期を悟った。
「……歩美? どうしてわたしをかばっている」
鱗を意図も簡単に受け止め、一枚を腐敗させた。
「私のおもちゃだから。壊さないで」
微かな喜びはあった。だけどもっと強く感じたのは「おもちゃじゃない!」という怒り。
ドロテアの目のハイライトが戻り、全身が輝きだす……!
背中を見せる歩美が様子見なのか少しだけ顔を向け、口元が笑っているように見えた。
「貴方にそんな魔力があったなんて! でも、その程度で自分に逆ららら!」
六を守るため再び元の位置に戻って抱き寄せる。
魔女に戻った彼女を中心に強い風が吹き荒れ、どんどん強く光を放つ。
光の刃の数々が化け物を襲い串刺しに。苦しんで悶えたのち倒れて動かなくなった。
「わたしに、また光の魔法が……」
手の平を見て確かな力を感じた。
六の頭を撫でる歩美に視線を向ける。
何を考えているのだろうと分からなくて怖くなったが、信頼も感じ取れた気がした。




