第十四話 魔法が使えなくても
ドロテアと歩美、六は大きなガラスの窓が一面に張られている大きな美術館へと来た。
様々な絵画や古代の品々にそれらについての軽い説明。小さいテレビが設置されていて映像を交えての説明もある。
六は欠伸をしながら歩美の手を握って興味無さそうによたよた歩く。
「お前らわたしに好きな場所でいいって言いながら……全く」
「どうせなら六ちゃんの好きな所行こうよ」
新たに買い直した携帯をいじりながら、ドロテアに理不尽な文句をつける。
興味の無さが頂点に達したのか近くにある椅子に座って通話を初めてしまう。隣に超近距離で六の座って目を瞑って顔を歩美の肩に寄りかける。
呆れながらまじまじと近距離で風景画を見ていると、女性の悲鳴が聞こえてきた。
悲鳴のした方向へ走って行く。大きくキラキラ光る鱗を体に身をまとった、頭にクラゲのような薄手のレースがついた帽子をかぶり、足元も薄手のスカートと膝上から足首辺りまで鱗をまとっている。見た目女子高校生ぐらいの子だった。
「またよく分からない刺客が来たな。とりあえず今の私に力は無い、こっそり逃げるか」
逃げまとう野次馬に混ざってその場からの逃走を計る。
何人もの人間が無差別に鱗で切り裂かれ、さらに美術館内は激しいパニックに陥った。
やっと美術館から出て一息つくために野次馬から離れる。海を背後にしたベンチに座って携帯で連絡を取ろうとした時だった。
「それでいいのかい、ドロテア君」
「うわ! ……六のお父さんか」
今日はワインを片手に持つ。
素材はグレープで作られていて甘い香りを放っている。
「聞いた通り能力は腐り果ててしまったのかもしれない。だが、君は何のために警察になった? そんな意識で市民を守れるのかい?」
「でも、勇気じゃなくて無謀なんじゃ」
心にぐさりと来て俯く。本当は守りたい。けど光の魔法無しに勝てるのかという不安が襲う。
ふと遠くから聞こえる市民達の悲鳴、そして置いてきてしまった歩美と六の事考える。
立ち上がって両手に拳を作る。
「自分は守りたい。色んな人達を。だから時間稼ぎにしかならないけど、行ってくる!」
再び美術館に入る為に全速力で駆け出した。