第九話 歪んだ私
「君が探偵さんの言ってた歩美ちゃんだね! うちは」
うちは、で衝撃を受けた。触ったら崩れてしまいそうな人がここまで崩した口調を使える。六の父親から話は聞いてたがそれでも衝撃は大きい。
ちなみに年齢は20過ぎたくらい。
「うちは猩々緋風音。まあその、歩美ちゃんがどういう風にしたいかは聞いてないけど、先輩として話聞くよ!」
果たして腹を割って話して良いのか。信頼して良いのか分からず思わず黙り込んでしまう。
六の父親は探偵帽を手で抑えながらもう片方の手で珈琲をすする。
「……はやり、気難しい子だね。風音君は明確な目標があったから良かったが、恐らくこの子は何も指標が無い」
「じゃあ、作っちゃえばいいんだよ! ずばり君は将来何をしたい?」
また困る質問だ。何となく考えてくれてるのは分かる。いや、考えてるふりなだけかもしれない。
「相変わらず思った事を言うのが得意だな。じゃあ質問を変えよう。ごちゃごちゃ考えている事を取っ払って、目を瞑って無心になるんだ」
反発する理由も無いので目を瞑る。暗い空間が目の前に広がり出てきたのは二つの景色だった。
ネクロズ魔法を使って色んな悪さをする自分と、六を背中に置いて守る自分の姿が浮かんだ。
ふと両親によく言われていた事を思いだす。
『人の助けになるんだよ』
六は確かに助けたい。だけど悪い事もしたい。
スッキリと思考をまとめる内に、気怠そうだった目を見開いていた。
実際に立ち位置は変わっていないが、さっきより風音の位置が近い気がする。
風音が受け入れるような両手を前に出した姿勢にして、笑顔で宣言。
「ようこそうちらの世界へ! 君はその第一歩を踏み出した!」