プロローグ 腐敗していく私の日常
葬儀場に、一人の女子高校生ぐらいの、ショートヘアの髪がピンクの女の子、有栖川歩美が、怒りも悲しみも抑える為、ただ俯いて全身壊死という状態で発見された両親を見ていた。
誰がやったんだろう、犯人を絶対許さない。それだけが走馬灯のように頭の中でグルグル回り、憎しみを募らせる。
火葬が済んだ後、親戚の人達に慰めの言葉を貰う。が、それらを無視して自宅への帰路へ着く。
着いてから、リビングの机にある椅子に座った。
歩美が幼い頃、両親に向けて手紙を書いて、その返信された物を見返す。
『ありがとう、あゆみ。また書いてね。パパとママより』
思い出の物が、涙が一つ、二つと落ち、紙に滲む。
机を拳で叩く。花瓶が倒れ水が垂れ、花が一輪ふわりと落ちる。
目を腫らせて、唇を噛み締めて落ちた花に視線を向ける。みるみると黒くなり、朽ち果て、花だった物は形を無くしていった。
この時、誰が両親を壊死させた犯人か悟った。娘である自分自身、有栖川歩美である事だ。
ふと周りを見渡す。母の趣味だった植物が次々と朽ち、全てが黒く形を失う。
怖くなって、有り金全部持って自宅だった場所を飛び出す。
大きな川の近く、橋の下にフードを深くかぶって座り込む。水面に視線を向けると、目の光を失った魚や、他の生き物が何匹も浮かび上がっている。
このまま自分の突如目覚めた謎の能力を使って、世界を滅ぼしてしまおうか、とも考えた。いっそ世界を守る英雄になる為にも、逆に自害しようかとも考える。
歩美が絶望した事は、恐らく自分以外の人間と共存が難しいという事で、自分が生きるか自分以外が生きるかを迫られると思った。
頭の中がどうしようもなくムシャクシャして、頭を掻き毟る。灰色のパーカーに、綺麗な細いピンク色の髪の毛が幾つも乗る。
息を荒くし、自分を抱きしめるポーズを取った。
無情にも日差しだけが強くなり、歩美の顔を照らした。