1-3/いのち
隻詛王――ヒランエルからの呼び出しがあって、冒険者御用達のご飯屋『熊の鉤爪亭』にやって来た。
清潔感がある方ではなく料理が上手そう、という雰囲気だ。
今日までの三日間は等級を上げるために、ちまちまと期日が近い依頼をどんどんと受けていった。あと十件程度依頼を受ければ、準二級の昇級試験を受けることができるようになる。
「へいらっしゃい。好きなところに座りな」
やる気のなさそうな亭主に迎え入れられ、ヒランエルの座っている奥の方へ行く。
同じテーブルにはヒランエルと同じ銀色の髪をした四人の男女が座っていた。
「やっと来たか。待ちそびれていた。紹介しようワタシたちこそが『光輝のアジエスタ』。二十一祖の一角、隻詛王の冒険者一党である。そちらが『骨折りヴァズ』」
「ヴァズ・エーガテイトだ。よろしく」
美形だけれど、ヒランエルと同様、感情を表に出すようなタイプではないらしい。
骨折りというのは異名のようなもので、ヒランエルに隻詛王という名前がついているようなものだと紹介してくれた。
銀髪碧眼の『骨折りヴァズ』、銀髪紅眼の『星裂きヴェネッタ』、銀髪黒眼の『影なしシャムザ』、銀髪緑眼の『継承のラタリア』となんともかっこいい異名がついていた。
それぞれの戦闘形態や異能に関して名前は付けられているようで、ヒランエルにも隻詛王以外に『異能視の魔眼持ち』という異名がついているらしい。
「異能視の魔眼持ち……ってことは、ヒランエルの目は異能を見分けることができるのか? 教会でできる異能神託みたいな!」
「教会のそれと比べると大雑把だが、ある程度の能力を見分けることができる。ワタシがオスカーを誘ったのも説明した通りだが、オスカーが尋常じゃないほどの生命力を持っているからだ。ああ、ワタシの独断で決めたことだからヴェネッタは認めていないのだ」
「別に認めていないわけじゃないの! 私が入団したいって言ったときにはまだ成人していないからだめって断って、成人した後にもう一度入団したいって言ったときにはまだ経験がないからだめって断ったじゃない! だから私にはそれなりに厳しい、厳しい入団試験が課せられたっていうのに、この子にはないって思ったらむしゃくしゃしてくるの!」
「憤ってもしょうがないんじゃないかな? そのおかげでヴェネッタは星を切り裂くことができたわけだし……ヒランエルが――というか、二十一祖やそれ以外にも多くの人間が生命力を求めているのは当然のことじゃない」
ラタリアの言葉に首を傾げる。
「――――どうしてですか?」
俺の『生命力』が必要だ。
そんなことを言われても、俺にとっては不死者になれなかった代わりにあのぽんこつから貰った異能なので、どうしても劣化品としてしか見れないのだ。
「この世界の創造が低迷しているって話は君も知っているかい?」
「はい。理由はよく知りませんけど」
骨折りヴァズは、賢い人のようだ。
眼鏡をかけているし、このチームでは先生的な役割を担っているのかもしれない。
「諸説あるんだけど、創造神の創造によって生まれた種族が多すぎて、二十一祖が決まるまでに百以上の種族が絶えてしまった『種族戦争』は知っているだろう? 絶滅した種族の不足分を補うための創造があまりにも過剰になってしまい、今度はそれを補うために創造が著しく減り、世界の容量に達してしまい、ほとんど全てが滅ぶまでは新しい創造はできないと言われているんだ」
あのぽんこつ神、本当に説明を端折りまくりやがったな。
全部ぽんこつ神の自業自得じゃないか。
この世界の人間にとっては困った神様だけれど、創造神だから何も言えないのかもしれないが、はっきり言わないとだめだぞ。神様はばかだって。
「滅びが約束されている世界で、いかにこれから先を生き延びていけるのかが関わってきて、そのために君の『生命力』が求められているっていう説明で理解できたかな?」
諭すような言い方が本当に先生みたいだが、よくわかったので頷いておく。
ヴァズは俺の様子に満足したようでうんうんと頬をほころばせている。
「実際に戦闘を共にしたわけじゃない。だからすぐに仲良くしてくれ、とは言えない。オスカーも異能の基礎能力を高めるためにこれから二、三か月は強化訓練になるから準備をしておけ」
「そ、そんなの聞いてないぞ! 党員との交流なしに戦場で連携が取れるわけじゃないから時間が必要ってのは理解できる。だけど、俺の生命力の基礎能力を高めるなんてどうするんだよ? 俺が管理できているだけじゃだめなのか?」
「恐らくだが、オスカーは上限も下限も。相手に譲渡できるのか、逆に相手から搾取することはできるのか、考えうる全ての方法を試してみたのか?」
「……いや、してねえけど」
それでも戦場に立てるじゃねえか。
この世界にやってきて、荒事には慣れていたとはいえ、慣れない異能や魔物を前に戦った俺が言うんだから間違いない。
「これからお前が相手取っていくのは魔物だけじゃない人もいるのだ」
「どういうことだよ。なんで俺なんかが人を相手取って戦わなきゃいけねえんだよ。犯罪者でもあるまいし――」
「さきほどラタリアが言っていた通り――」
「待って! まさか、ヒランエル、彼に説明していないの? それで私たちのもとに連れて来たって、あなたって人は本当に呆れるわ……」
ヒランエルが弁明しようとすると、それを遮るようにヴェネッタが口を開いて、やれやれと手を額につける。
「今から話す話は少し心臓に悪いかもしれないけれど、一言一句漏らさないように。あなたはすでに大陸中の力ある者たちに知られているわ。覇者である二十一祖の面々はもちろんのこと、特級の冒険者や組合の上層部に。なぜか」
「俺の異能が?」
「正解。教会は毎日、教会に登録された異能を発表しているの。毎日刻一刻と変化する情報は大陸中に伝達されている。幸いなことに異能を持つ人間の名前も、どこで活動しているのかも発表されていないから、あなただとは直ぐに分からない」
けれど、もし俺が生命力を持つ人間だとばれてしまったら。
大陸中が欲してやまない、この時代にとって最も必要な『生命力』という武器を手に入れるために俺は命を狙われるかもしれない、ということか。
「異能視の魔眼を持つヒランエルは、あなたを守るために私たちの一党に入れることを決めたのよ。いくら三級の冒険者であろうとも、私たちは二十一祖を長に名を馳せる一級冒険者の一党よ。三級の冒険者が入るなんて有り得ないわ」
「と言いつつも、イチバン君の安全性を守るための議論を広げてくれたのはヴェネッタだよ。君の二つ名は本来なら能力から『生命力のオスカー』にすべきなんだけど、君の異能を強化して、植物に使えるようにしたいと考えているんだ」
生命力の管理によって、植物に生命力を付与し、一瞬のうちに成長を促し、俺の異能力を『生命力』ではなく、『超成長』にカモフラージュさせようと言うのだ。
しかし、生命力を隠しつつ、別の異能に見えるように見せかけて、自身には能力を使い続けるということは一朝一夕でできるようなことではないので、時間をゆっくりとかけて訓練していこう、というのだった。
俺の二つ名は『芽吹きのオスカー』に決まった。
見ず知らずの――――仲間にもなっていない俺を、仲間にしてくれて、守ってくれようとするこの人たちの心意気に胸が熱くなった。
こうして俺の『光輝のアジエスタ』での活動の日々が始まることになった。




