1-2/――仲間になるか?
「ラティナはん、何言ってん? 看板受付嬢はうちに決まってるやろがいな」
「はて~、誰でしょうか~?」
突然現れた関西弁の少女に度肝を抜いてしまう。え、この世界に関西弁なんて概念存在するの? 頭バグってんだけど。
「何をぬかしとんねん! うちはミエル・ジェシカーチェ。このジェルフェン支部では、あんたよりも頭一つ抜かしているとびっきり美人な看板受付嬢や! なあ、お兄さん?」
「う、ああ、うん。確かに凄く美人だが……」
「そやろ、そやろ! それに比べてラティナはんは、しみったれた面ぶら下げてどないしたん? 隻詛王の相手をするのは看板受付嬢なんやろ? ほな、うちがするから安心しとったらええんやない?」
「思い出しました~、オマエはミエル・ジェシカーチェ! そうだろう!」
なんか性格が変わってしまったし、さっきミエルは名乗っただろうが。
ラティナの抜けっぷりに毒気を抜かれていると、喧嘩する二人のそばに、人込みを連れた隻詛王とその一行がやってきた。
さすがの二人も、王と名前がつくだけの人の前で喧嘩をするほど馬鹿ではないらしい。
「どうされましたか、隻詛王」
「お前、ワタシの仲間になるか?」
「は、はひ!? うちがですか? うちはただの一介の受付嬢にすぎひんのですが、隻詛王がどうしてもっちゅうなら支部長と話を付けさせて」
「お前ではない。そこの青髪のお前だ」
青髪……ってことは俺か?
ラティナは明るい金髪、ミエルは薄い緑色。
となれば、ここの中で青髪なのは俺しかいない。
王と呼ばれるだけの人だ。粗相があってしまったら物理的に首が飛んでしまうかもしれない。
俺が一応は神の使いであることなんて忘れていた。
「俺の勧誘するって、どうしてですか? 俺は別にあなたと一緒に依頼を受けたわけではありませんし、有名でもないので武功が知られているなんてことはありません。どうして話もしていないような俺を仲間にしたいのですか?」
「ワタシは隻詛王だ。隻眼に詛を操る王。大陸の者どもはワタシに呪われることを畏れてこびへつらうか、一目散に逃げだす者かのどちらかだ。しかしお前はそのどちらでもなかった。先程、ワタシに視線を向けていただろう? そこには悪意も何も感じ取れなかった。だからだ」
これ以上に理由など必要か、と言われれば押し黙るしかなかった。
ぶっちゃけると、この隻詛王という人物がどんな人間なのかよくわからないし知らない。
二十一祖だってそうだ。
けれど、この人の片方にしかない目にはなんだか、見たことがあるような光が灯されているような気がして、目を離すことが出来なかった。
気付けば承諾の返事をしていた。
「支部の中に入れるなんて滅多にない経験だ……これもあなたが仲間にしていただいてくれたからだ」
「滅相もない」
支部の事務所に案内されて、隻詛王の一党に加入する旨の書類を提出することになった。
お互い名前も知らないような状況なのでラティナとミエルが取り計らってくれたようだ。
……あの二人、犬猿の仲というだけで仕事自体はよくできるんだろうな。
「えーっと、支部長が来るまで少し時間がかかるようなので、簡単な自己紹介を。俺の名前は、オスカー・ジンジャーウッドだ。年齢は二十一。恥ずかしい話だが、あなたが隻詛王と呼ばれていることぐらいしか知らない世間知らずだ。それでも大丈夫か?」
「ワタシに二言はない。隻詛王のヒランエル。それがワタシの名前だ。ワタシの言葉にはよく感情がない、と言われることがあるが、怒っているわけでも感情がないわけでもない。ワタシの言葉は、詛と呼ばれ感情を込めればそれが思い通りになってしまうのだ」
つまり、願望を言えばその通りになってしまうから言葉に感情を込めない、ということか。
ヒランエルは王と呼ばれているが、あくまでも詛を操れる種族の族長であり、二十一祖に数えられているからそう呼ばれているだけで、国を持っているわけではないと言う。
「それで、俺が気になっていたのは二十一祖って言葉なんだけどよ、これって何なんだよ」
「一言で説明するならば、大陸に済む二十一の種族のそれぞれの長の名前だ。人間、精霊、人馬、詛族……それ以外の種族がお互いに不利益を被らなうように、と太古の昔、創造神が取り決めを作ったのだ。それが今でも続いているだけのこと」
「はあ、でも、よくわからないですね。種族がどうとか、支配がどうとか。美味しい飯食えて、あったかい家があればそれで十分だろ」
虚を吐かれたのか、口をあんぐりと開けるところを見ると彫刻のように冷たい人間なのではなく、言葉通りの感情を込めないための演技なのだとすぐにわかる。
「全くその通りだな。お前の意見に――オスカーの意見に大いに賛同する。改めて言わせてほしい。ワタシの一党に加わることをワタシは嬉しく思う」
支部長を待っている間、隻詛王ヒランエルは色んな事を教えてくれた。
彼の種族が住んでいるのは沼の湿地ヴェギアという場所らしく、詛を扱うヒランエルたちはそれぞれの体や特性に合った毒沼を住処にしているらしい。
人間の俺からしてみれば、毒沼で……と絶句しかけたが、なにせ俺には苦痛無効化が施されている。ヒランエルの故郷訪問をしたとしても俺には影響は少なそうだ。
「隻詛王様、此度は当支部をご利用いただき、誠にありがとうございます。ジエニ平原における戦いの健闘ぶりには支部長会議でも話に上がるほどの」
「無駄な話は必要ない。ワタシはお前に話があるのと、このオスカーを一党に加えたいと思って、話が通っているはずだ」
「これはこれは失礼いたしました」
横柄な態度というわけでもなく、厚かましいという態度でもない。
大都市であるジェルフェンの支部長ともあればそれほど顔が分厚くなければできないようで、適度にゴマを擦って一党加入のための儀式を行ってくれる。
異世界様様な魔法を見せつけられ、党員カードなるものが手渡され、俺は無事にヒランエルの一党に加入することができた。
「光輝のアジエスタ……どういう意味かは分からないが、かっけえな」
「そうか。いずれ分かるであろう。ワタシもかなり気に入っている名前だ。そう言ってくれると嬉しい。ここからは支部長と一対一で話したいと思っている。済まないが退室してもらっても構わないか?」
「それは別にいいんだけどよ、ホヤホヤの新人が挨拶しなくても他のメンバーたちは何も文句言わねえのかよ」
「ああ。彼らはこの街に到着するまでにいた魔物を間引いている真っ最中だ。ジェルフェン入りをしていないと言うのに、挨拶のしようもないだろう? また党員が全員揃った暁には連絡を寄越す。それまではこれまで通り生活してもらって構わない」
満面な笑みの支部長と相変わらずの鉄面皮のヒランエルに見送られて退室すると、一番最初にいたロビーに戻ってくる。
「しっかし、これまで通りの生活をしてもらっても構わないって言われたけどな……三日以内に呼び出しがあるだろうし、俺にこの依頼は不釣り合いだしな……」
視線の先にあるのは、ヒランエルに話しかけられたときに見ていた依頼書。
アプラケウンス討伐。
どうしたものかと思っていると、ラティナとミエルに話しかけられてしまった。
「それで隻詛王の一党に加入した気分はどうなんですか~?」
「なんていうか、本当にあったのかどうかわからねえな」
「夢後心地やなんてほんとうらやましいわあ。一党に加入したといえ、その一党は組合でも指折りの二十一祖を長に据える最恐の一角なんよ? そんなボケーとつったってないで、さっさと依頼の一つでも受けたらええんやない?」
夢見心地という感じではなく、全く知らなかった人間に仲間になってくれ、と誘われたのだ。
なんというか、こそばゆくて嬉しかった。
二人の助言通り、俺は下の等級の冒険者向けの依頼をいくつも熟していくと三日が過ぎ去ろうとしていた。




