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第6回 覆面お題小説  作者: 読メオフ会 小説班
7/26

朋来堂から届いた暗号

2022年6月のある日。


「マスター、今日は楽しみです!」

灯里(あかり)ちゃんは初参加だもんね。緊張しない?」

「全然してないです。いつもYouTubeで声を聞いている人たちに会えるのが嬉しくて」

「そっか。ようやく連れて行けるよ」

弾むような女の子の声と、それに答える男性の声が聞こえてくる。


ここは、路地裏に佇む小さなブックカフェ。マスターと呼ばれた店主が数年前に開店し、灯里はアルバイトとして働いている。

店内に客の姿はない。2人で開店準備を行っているところのようだ。

――朋来堂プレゼンツ、ともくるラジオ~!

――今日も朋が来る~!

店内のスピーカーから流れてきたのは、先日公開された第22回・2022年6月の「ともらじ」だ。静かに本を読んでもらいたいブックカフェなので営業中はBGMを流さないようにしているが、こうした開店準備の時は作業用に音を流すこともある。

しばらく開店準備をしながらともらじを流していると、マスターが口を開いた。

「ねえ、これを投稿したのって灯里ちゃんだよね?この店に置いてある本だし」

それは「こんな本知りませんか?」のコーナーに入ったところ。先月のともらじのウォンテッド本である「祭りや伝統行事が題材の小説」を紹介しているパートの冒頭だった。

「そうです。ずっと聴いていたので、せっかくならって思って初めて投稿してみたんです。ともくるネームが本名だったらバレちゃいますよね」

「まあね。この本、僕も好きだから、灯里ちゃんが紹介してくれて嬉しいな」

「私もこのお店で読んで大好きな作品になったので、ラジオで読んでもらえてよかったです」

彼女が紹介したのは、岩手県の遠野が舞台の歴史ファンタジー。心優しい武士と、絵を描くのが好きな女の子が死者を供養する絵を描くお話だ。このブックカフェは、マスターやその読友さんたちが選んだ、疲れた心を癒やし、気持ちをそっと前向きに押してくれるような本を揃えたお店なのだ。

「ここの本を読んでいると、なんか心が休まるんですよね」

灯里が店内の掃除をしながら言う。彼女がこのブックカフェを見つけたのは、進路に悩んでいた高校生の頃。それから足繁く通うようになり、大学生になった今ではアルバイトをしているというわけだ。

「そういう本で一息ついてもらいたい、と思って始めたブックカフェだからね」

「でも、最近はフードメニューも美味しいって評判になってますよ。おかげで今朝は……」

灯里がちょっと不満そうな口ぶりで言ったが、表情は笑顔だ。

「ははは、そうだったね。でも手伝ってくれて助かったよ」

「いえいえ、とんでもないです。これを朋来堂の皆さんに食べてもらえるなら、準備のしがいがあるってものです」

「お、言うねー。でも、2人で試行錯誤して作ったメニューだし、それをみんなに食べてもらえるなら張り切るよね」

「……でも」

「でも?」

「あの暗号が解けなかったら、どうするつもりだったんですか?」

「まあ、メッセージにも『可能ならば』って書いてあったし、他のものを持って行こうと思ったかな。テーマが『ミステリー』だし、これくらいは解けるだろうっていうことだろうね。実際、灯里ちゃんも解けたんだからよかったよ」


~~~~~


話は数日前にさかのぼる。

マスターと灯里の2人が参加しようとしているのは、文学サロン朋来堂で行われる「酒宴&読書会」だ。マスターは以前から朋来堂の会員だが、朋来堂のYouTube動画を見た灯里が自分もイベントに参加してみたいと言い出したので、今回は2人で参加することになったのだ。

今回のテーマは「ミステリー」。おすすめのミステリーの本紹介や、何やらミステリーにまつわる企画があるとは聞いていたが……

「マスター、今度の酒宴&読書会のイベント詳細、見ました?」

そう言いながらブックカフェに灯里がやってきた。今日もこれからアルバイトのようだ。

「ああ、見た見た。灯里ちゃん、いや、akaさんのところにも同じメッセージが届いてる?」

お互いのスマホを見せ合い、読書メーターのメッセージを確認する2人。スマホに映し出されたメッセージには、会場や参加費などイベントの詳細が書かれていたのだが、その続きには……


【差し入れについて】

┌―――――――――――――――――――――――――――――

| 1146181からの挑戦状

| akaさんと2人で、可能ならば以下の暗号に書かれたものを

| 差し入れとして持ってきてください。

| 「お○☆△ と ◎□ー」

| ヒント

| 341444=○△□

| 358657=☆○

| 670356=△◇

| 985823=▽◎

└―――――――――――――――――――――――――――――


「名前の部分以外は同じですね。差し入れで何を持っていけばいいんだろう……」

灯里は首をかしげている。

「……イベントまでに、この暗号を解けってことですよね」

「そうなるね。テーマがミステリーだからって、まさかいきなり暗号が送られてくるとは」

「びっくりしました。でも、こういうのって面白そう。まさにミステリーですね」

「だね。じゃあ灯里ちゃん、この暗号を解いてみたら?」

「……やってみます。でも、マスターも考えてくださいね」

「もちろん」

灯里は椅子に座ると、スマホに映し出されたメッセージを食い入るように見つめた。

「……暗号とヒントには同じ記号があるし、記号が何かしらの文字と対応してるってことだよね……。『341444』、さしいししし……。何か笑ってるみたいなだけで、特に語呂合わせでもなさそうだし。……というか、語呂合わせだとしたら、数字に対して記号の個数が少なすぎるんだよね……」

灯里はブツブツ言いながら、暗号を解こうと悪戦苦闘している。が、数分が経ったところで「わからーん!」と早くも音を上げてスマホの画面を切った。

「すぐには解けそうもないです……。開店準備をしながら考えます」

「うん、そうしな。ちゃんと仕事しないとバイト代はあげられないからね」

「……はい、仕事します」

そう言うと、灯里は布巾を持ってテーブルを拭き始めた。

「体を動かした方がひらめくかもよ」

「ですね。……で、そういうマスターは暗号が解けたんですか?」

「……いや、僕もまだ分からないなあ。灯里ちゃん、頑張って考えてよ」


カフェの営業が終わり、片付けと翌日の仕込みが一段落した頃。灯里は再びスマホの画面とにらめっこを始めた。

「最初が数字なのもヒントなのかな……。読書メーターの朋来堂アカウントからのメッセージだし、この『1146181』っていう数字は朋来堂とか会長のJOJOさんにまつわる数字ってことかな……?」

またも独り言を呟きながら、暗号に挑戦している灯里。マスターも自分のスマホを眺めている。

「あ、もしかして!」

何かがひらめいたのか、灯里は急にスマホで何かを調べ始めた。だがすぐに、がっくり肩を落としてため息をついた。

「……残念、違ったかぁ……。惜しかったのに」

「どうしたんだい?」

「最初の数字が、朋来堂のある場所の郵便番号だと思ったんですけどね……。あの辺りの郵便番号って、114あたりから始まるっていう記憶がうっすらあって」

マスターも自分のスマホで検索してみると、朋来堂のある東京都北区昭和町の郵便番号は「114-0011」と出てきた。「114-6181」という郵便番号の場所は存在しないようだ。

「落ち着いて考えてみたら、明らかに違いますよね。他の数字は6桁しかないし」

「そうだね」

マスターはそう返事をして、お店の時計を見た。

「もう今日は遅いし、早く帰って家で考えな。僕も考えておくから、解けたら明日聞かせて」

「……そうします」

そう言って、灯里は手早く荷物をまとめて立ち上がった。

「今日もお疲れさまでしたー。おやすみなさい」

「お疲れさま。おやすみー」

灯里を送り出してから、マスターは店のシャッターを閉める。夏というにはまだ早いこの時期の夜風は、涼しく心地よい。

「……果たして灯里ちゃんは、明日までにあの暗号が解けるのかな?」

ひとり呟くマスターの表情は、何だか楽しそうにも見えた。


その翌日。

「こんにちはー」

ブックカフェに現れた灯里の表情は明るかった。

「いらっしゃい。今日もよろしくね」

「お願いします。それよりマスター、あの暗号解けましたよ!」

「お。じゃあ、今日お店が終わったら聞くね」

「はい。その口ぶりだと、マスターも分かったんですね」

「うん、あの後考えたら分かったよ」


この日も無事閉店を迎えた。

マスターは2人分の紅茶を用意する。2人ともコーヒーよりは紅茶派なのだ。

「どうぞ。一息ついたら聞かせてもらおうかな」

マスターはカップを1つ灯里の前へと置いてから、椅子に座った。

「ありがとうございます」

灯里は紅茶を一口飲んでから席を立ち、口を開いた。


「さて――」


「昨日も私、ここでブツブツ言いながらこの暗号を解こうとしていましたよね。暗号が解けた今から思うと、実はあの時結構いい線まで行っていたんです」

「……というと?」

「あの『1146181』っていう数字は、やっぱり朋来堂のことを表していたんです」

「そうなんだ。でも、昨日は郵便番号じゃないって言ってたよね。それなら、何なんだい?」

マスターがそう言うと、灯里は手持ちのスマホを操作して、マスターの方に画面を向けた。

「これです」

灯里が見せたのは、「文学サロン 朋来堂」の読書メーターアカウントのページだ。

「……そして、注目すべきなのはここです」

そう言った灯里がタップしたのは、画面の上にあるURLが表示された部分。朋来堂の読書メーターアカウントのURLは……


https://bookmeter.com/users/1146181


「そう、この数字は()()()()()()()()()I()D()を示していたんです」

「なるほど。じゃあ、他の数字は?」

「他の数字も同じです。341444はつみれさん、358657はまつさん、670356はみやさん、985823はゆかさんのIDでした。皆さん、お馴染みの朋来堂のメンバーです。そうすると、暗号の記号にもぴったり当てはまります」

持ってきたホワイトボードに、灯里がヒントの部分と名前を書いていく。


341444=○△□

    つみれ


358657=☆○

    まつ


670356=△◇

    みや


985823=▽◎

    ゆか


「そして、この記号にひらがなを当てはめると……」


お○☆△ と ◎□ー

 つまみ   かれ


「というわけで、差し入れとして持ってきてもらいたいものは『おつまみ』と『カレー』ってことになります。カレーはこのカフェの人気メニューですしね」


~~~~~


時は戻って、読書会当日。


「マスター、準備終わりました」

「ありがとう。開店までまだちょっと時間があるから、ちょっと休憩していいよ」

マスターと灯里は、2人用のテーブルに向かい合って座った。

「朝からカレーの仕込みで疲れたー」

そう言いながら、灯里はスマホを取り出す。

「まあ、今日は昼間だけの営業だし。終わったら朋来堂に行けるんだから、頑張りな」

「はい。……あれっ?」

スマホを見ていた灯里が突然、驚いたような声を出した。

「どうした?」

「マスター、朋来堂からもう1つ暗号が届いていました」

「えっ?」

「朋来堂からまた読メのメッセージが届いていたんです。マスターの方には届いていないんですか?」

「えーっと、どうだろう。ちょっと見てみるね」

マスターも読書メーターのページを確認してみると、同じようなメッセージが届いていた。


┌―――――――――――――――――――――――――――――

| 【暗号その2】

| 先日の差し入れの暗号、この暗号、

| そしてこの作品の作者は誰か?

| 答えは

| 「2022年6月 2021年10月 2022年6月」

└―――――――――――――――――――――――――――――


「今月、去年の10月、今月……。どういうことでしょう?」

「うーん。どういうことだろうね」

「今月が2回出てくるのもよく分からないし……。あー、せっかくこの前は暗号が解けて気持ちよかったのにー。また悩まないといけないじゃん……」

またしてもブツブツ言いながら、頭を抱える灯里。そんな彼女を横目に、スマホで何かを確認していたマスターはこう言ったのだ。

「僕は分かったよ」

灯里がガバッと身を起こした。

「えっ!?早くないですか?教えてください!!」

食い気味で迫ってくる灯里を、マスターは手で制する。

「まあまあ、ちょっとは灯里ちゃんも考えてみな。今日の営業が終わって、朋来堂に向かうタイミングでも分からなかったら教えるから」

「……はい」

「じゃあ、灯里ちゃんに1つだけヒント。暗号を解くカギは、今までに全部出ているよ」

「それだけじゃあ分からないですよー。もっとヒントはないんですか?」

「……ほらほら、開店時間だ。入口の札を『営業中』にしてきて」

明らかに話題をそらされたマスターに急かされ、灯里はしぶしぶ店の外へ向かった。


昼の営業も終わり、朋来堂へと向かうマスターと灯里。朝お店で仕込んだカレーと、途中で購入したおつまみを持っている。

営業の合間や朋来堂への道中でも暗号を解こうとしていた灯里だったが、ついに音を上げたようだ。

「マスター、ギブアップです。あの暗号を作ったのは誰なのか教えてください」

「ギブアップなんだね?」

「……はい」

「じゃあ、説明しよう」


マスターの謎解きも、最初はこのひとことから始まる。


「さて――」



《作者発表イベント終了後、「マスターの謎解き編」を公開予定》



注1:フォントや閲覧ブラウザによっては、暗号や謎解き部分の体裁が崩れてしまうかもしれません。ご了承ください。

注2:ちなみに、読書メーターのアプリ版だとユーザーアカウントのページからURLは見られないようです。灯里はブラウザ版で閲覧していたということで。

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