白、それは雲、そして町
あの白い雲の先には何処か遠くの町がある。それは見えないけれど確かにある。私たちの町では外交というものを行っていなかった。全てを自給自足でまかなっていた。それで足りたのだ。
小さな町だった。物心つくころまでには町民全員の顔と名前が一致したし、自分と同じような年頃のやつなんて数える程しかいなかった。
ただ綺麗だった。どこまでも続く草原の先に沈む太陽。草原は燃えた。そして、世界を煤で埋め尽くす。そのすすの所々に光る宝石。どこまでも強く儚い。
レンガの家を出る。周りには似たようなレンガの家が並んでいる。母さんがとうもろこしを数本持って先を歩く。隣の家にすいませんと声をかける。中から出てきたおばちゃんと他愛も無い話で盛り上がり、とうもろこしといもを交換する。このようなことを何軒も行い。食材の種類を増やす。
とうもろこしと肉を交換しようとしている時だったか。見たことのない人が町の通りを歩いていた。くたびれた服装だが、何処か品のある感じを受けた。光を吸収する深い青のシャツ。土のようなズボン。そして顔も見えないほどつばの大きい帽子。
通りの人は誰も彼に気が付いていないようだった。いや、気がつかないふりをしていただけなのか。
彼は歩いていた。そう見えた。
誰にも気がつかれることのないまま、彼は通りを進んでいき、見えなくなった。見えなくなった。どこに行った! この通りはすぐそこの街の端まで直線で、その先は延々と続く草原だった。まだ太陽は、高かった。