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しろくまハイボール!  作者: 水菜月
1/9

1 ヒヤシンス


「ヒヤシンス」はじめました。


 そんな葉書が、僕の家に届きました。

 なので、地図に導かれるままに、ここに来たわけです。


 ヒヤシンスと言えば、球根栽培?ですかねー。

 近頃見かけなくなりましたが、昔は教室の後ろの方に並んでいたものです。


 透明できゅっとくびれた花瓶に、玉ねぎみたいな球根がはさまってるんです。

 球根の下からは、もやしの髭のような根っこが伸びて、いかの足みたいにひらひら泳いでる。

 割に豪華なお花が咲く代わりに、球根がキューっと養分取られて萎んでいくんです。


 こんなにいっぱいヒヤシンスのことを思い描いて、何色の花かしらとまで、考えたのにー。

 カラランとベルを鳴らしながらドアを開けたら、そこにいたのは……。

 しろくまさんっ!


「いや、『ヒヤシンス』はただの店名です。バーをオープンするって言ったら、そんな名前をつけてくれた友人がおりまして」

 北極だから、君を「ヒヤシンス?」 ダジャレ! なんてアンチョコナ! いや、安直な! 


「わたしは『しろくまはじめました。』でいいではないかと思ったんですけどね」

 いやいや、君は最初からしろくまですからっ。それはそれでどうかと。


「『しろくまバー』だと、棒の先についたしろくま型アイスを思い浮かべちゃうだろ、もっとひねらなきゃ、とその友人が言うものですから」

 そんなアイスは確かにかわいい。バニラアイスですね。でも、まちがえないよっ。


 とにかく、新しいお店のオープンおめでとうございます! さて、何があるのかな。



「メニューは今のところ、のみもの3種類。あとは釣った魚でも持ってきて下さったら、外の七輪で焼きます」

 ……。うーん、バーというより、居酒屋?


「私が狩りに行ってもいいんですけどね、ガオー!」

 そのあいだ、お店はどうなるのでしょうか。


「とにかく自慢なのは、これです。

 ① 珊瑚サンゴ色ハイボール!

 ② 瑠璃ルリ色ハイボール!

 ③ 琥珀コハク色ハイボール!(フツーじゃん!)


 しろくま的ハイボールを開発している時に、あざらしのあっくんが『バーの水割りにぴったりの氷ができたから使って!』って、きらきらの目で頼み込んできまして。

 両手(両ひれ?)でくるくる回しているうちに、泥団子ならぬ完璧なほどに光り輝く氷ができてしまったらしいんです」

 

 確かに目の前のウィスキーグラスに浮かぶまんまるの氷は、神々しいほどに球形で、ほれぼれしてしまいますな。


 トクトクトク。いい音を立てて、琥珀の液体が注がれ(③フツーのバーボン)、その色の先に、染まる夕暮れを眺め一日を終える。いいですねっ!


 本日、北極の片隅にオープンしましたすてきなバーのカウンターには、しろくまのマスターがいます。

 さむがりで、しましまのマフラーをした、のんびり喋るしろくまさんです。


「ノンアルもご用意しています。大人からこどもまで気楽に通えるバーをめざします。北極にお立ち寄りの際は、どうぞご贔屓に」


 以上、僕ことペンギンからのリポートでした!




挿絵(By みてみん)

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