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第六章

薄い雲の張り詰めた銀色の空の下

教会に面した通りに、一人の神父と喪服の年若い夫婦が立っていた。

 まだ春も遠い季節である。三人は黒のフロックコートに身を包み、

年若い夫婦は泣き疲れ、憔悴しきった顔をしていた。

男の方の手には長さ1メートルもない、長方形の小さな木箱が抱えられており、

中には両足のない、幼い少年が早咲きの草花に囲まれ幸せそうに眠っていた。


「このこは、本当は10歳になるはずなんですよ。

 全然そんな風には見えないでしょう?」

銀髪の神父に話しながら、

男の隣で、女は愛しそうに息子の顔を覗き込んだ。

女は先日長かった栗色の髪を切り落としたばかりだった。

短くなった彼女の襟足は、見るものに喪失の苦しみを感じさせた。

彼女は息子が死んだその日、自らの髪で息子のためのカツラを作った。

病気で愛らしい巻き毛が全て抜け落ちてしまった、哀れな少年のために。


そっと、母親の手で少年の頬を撫でる。

そこには薄い紅が捌けてあり、生前、病に苦しんだ姿がわからなくなるほど生き生きとして見えた。

加えて、母親からもらった栗色の巻き毛に、長い栗色の睫。

とても愛らしい姿だった。母親に良く似た姿だった。


 男は、うつむいたまま呟く。


「なんでも、してやりたかった。このコのためなら。

 このコは一度も、病気のことも、私たちのことも責めたりしなかった。

 天使のような子供だったんです。

 朝、早咲きの庭花を妻が息子に持ってきました。

 息子はそれを見てとても嬉しそうで、幸せそうに笑って。

 そのまま、眠ってしまったんです。

 痛かったろうに、苦しかったろうに。最期は笑って眠ってくれたんです。」


ポタポタと、少年を囲む花の上に雫が落ちた。

銀色の空は全ての景色を侘しいものにし、直に雨も降り出しそうだ。


 ポプラ並木の通りから、一陣、冷たい風が流れる。

その通りの向こうから、黒い馬車が一台走ってきていた。

馬車の屋根へ向かって、天から雨粒が一滴落ちてくる。


 其処に一つまた一つ、染みができていった。



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