1-3 天才少女と実技試験
「よかった。あなたが相手なら本気を出せそうね」
「カイ・グリアムズvs天才少女ニア・リヴァイス」
ほう、天才少女?あの少女が……完全に負けたかもしれないな。
「開始!!」
とりあえず、様子を見るか。何で仕掛けてくる。魔法か?それとも体術。
場内の空気がかたまる。刻一刻と時間だけが過ぎていく。固唾を飲む音が響き渡り、一吹きの風が砂を巻きこみ通り過ぎていく。先に動いたのは天才少女だった。
「来ないなら、こっちから行くよ。炎」
火の玉がこちらへと向かってとんでくる。それを軽く避ける。
「遅いね。手加減しなくていいぞ。」
「そのようね。これならどう?火炎!」
「やはり、遅いな。俺に気を使わなくていい。本気を出さないと、手を抜いてるのがバレて、入学できないぞ?」
「そこまで言うならもう知らないから!!槍炎!これなら避けられないでしょ!!」
ニアの背後に星の数だけ魔法陣が現れる。炎の槍が放たれた。
客席から感嘆の声があがる。
「あの歳でこれだけの魔法を一瞬で放つとは、どれだけの魔力なんだ」
この数は凄いな観客たちがざわつくのも無理はないだろう。だが、
「確かにこれをすべて避けるのは無理に近い」
目に魔力を集め始めた。炎の槍を睨みつけると魔圧ですべての炎の槍が一瞬で何事も無かったかのように消えた。
再び観客がざわつく。
「今…なにが起こったんだ!?」
無数の炎の槍が消える光景を見た者は、自分の目を疑った。それはニアも例外では無かった。
「あなた、何をしたの!」
「何とは?俺は睨んだだけなのだが」
カイは、軽く説明したつもりだったが、ニアは馬鹿にされたように感じたようだ。
「くっ!?それじゃあ、私の使える最大魔法を放つわよ。死んでも恨まないでね。獄炎!」
火属性魔法は炎、火炎、獄炎の順で強くなる。他にも炎の形状を変えて独自に魔法をつくる者たちもいる。ニア・リヴァイアスもその一人だ。形状を変えるには、膨大な魔力とセンスが必要である。それが十歳で可能とするニアの技が天才と呼ばれる由縁である。
「魔法は便利だな。それでは、俺も魔法を初めて使う事にする。たしかこうだったか。炎」
炎と獄炎が、丁度二人の真ん中でぶつかり合い。大きな爆発とともにあたり一面に煙が巻き上がり、視界が薄暗くなる。
「ほんと規格外すぎるわよ。あなた…」
ニアは、眉を上げ首を横に振る。
「そうか?話しかける余裕があるのはいいんだが、そんな無防備でいいのか?俺の炎はまだ消えてないぞ」
その言葉がニアに伝わった時には、すでに遅かったようだ。
「えっ!?」
少女に向かって放たれた炎が直撃し、ニアは飛ばされるともう立ち上がらなかった。
「カイ・グリアムズが天才少女ニア・リヴァイアスにKO勝ちです!」
場内の観客は喝采ではなく、混乱していた。その通りだろう。誰もが天才少女が勝つと予想していたのだろう。
魔法は初めて使ったが加減できたか少々不安だ。ニアだったか。大きな怪我してないといいが。
「お疲れ様です。カイ・グリアムズ。あなたはすべての試験を見事合格しました。おめでとうございます」
役員が文字がびっしり書かれている紙を渡してくる。
「これが、入学案内書です。あなたの能力があれば、どの学園に行っても優等生ですよ。これからのあなたの活躍を期待してます」
俺は、彼に礼を言い、紙を受け取る。紙には『あなたが入学することのできる学園』という欄に学園の名前が載っていた。その下に試験結果も。
これは?全部Sだ。Sなら上のランクがあったかもしれないなぁ。とりあえず、家に帰ってガイルに結果を見せるか。
家に帰ろうとすると、後ろから物凄い勢いで近づいてくる足音が聞こえる。
あれはたしか、客席で俺の試合を見ていた人だな?なんだろう。もしや、入学取り消しとかか……凄く心配になってきたな。
「きみがカイ・グリアムズ君で合っているよね」
「そうだ。俺がカイ・グリアムズだ。そんなに急いで、どうしたんだ?化粧室の場所は俺にもわからんぞ」
軽い冗談を言ってみたがスルーされた。
「いや、先程。君の試合を見せてもらったんだが、君の能力があれば、魔王に必ずなれると断言してもいい。君は魔王城立魔王育成専門学園に進むべきだ」
なるほど、彼は俺の試合に感化され直接スカウトしにきたのか。
「お誘いは嬉しいが、俺は魔王になりたいわけではない。それから、これからもなるつもりはない」
どこか抜けた顔をしたが、瞬時に切り替え再び勧誘を続けてきた。
「なぜだね。君ほどの力があれば富も名声も思うがままだと思うのだが」
富、名声そのどちらも俺の心には響かなかった。
「俺は、富も名声も特に興味などなくてね。とにかく強くなりたいだけだ。強くならなくてはいけないんだ」
「それなら、尚更うちの学園に来るべきだ。この国で一番レベルが高いのがうちの学園だ。うちに来れば、他のところでは学べない事も学べるはずだ」
「この国で一番レベルが高いという事は魔族学園で一番レベルが高いという事か?」
「そう。うちの学園は魔族の世界で3本の指に入る程の実力を持っているんだ」
「ほう、そうだったのか?それでは、そこに入らせていただくとするか」
「ありがとう。申し遅れたが、私は魔王城立魔王育成専門学園の学長をしているバリモ・テラクリスというものだ」
ほう…魔王城立魔王育成専門学園の学長をしているバリモ・テラクリスか…ふーん…っ!?
俺は、頭の中で彼の自己紹介を再生した。
「なにっ!?学長だったのか!そうとは知らずに失礼な事を言った。すまない!!」
頭を下げて謝る俺に対し、テラクリス学長は全快の笑顔を向けてきた。
「あはは、全然かまわないよ。魔族で私の事を知らないという者がいたということに私も少なからず驚いているよ。後日君が私の学園に来る日が楽しみだ」
「ありがとう。俺も楽しみです。ああ!もうこんな時間だ。早く帰らないと。すまないが、失礼する」
俺は、お辞儀すると急いでその場を後にした。
やばい、ガイルに言われた時間に遅刻してしまう。今から全力で走れば間に合うかもしれない。
「彼、凄く速いな。もう見えなくなってしまったよ。」
その場に残されたテラクリス学長の声が少し聞こえてきた。