97.カイ君の意外な一面
ぼふーん、とベッドにダイブしたカイ君が、枕に頬ずりしながらにやにやしている。
「美味しかったよなー。楽しかったなー。俺シアワセー」
「うん。楽しかったね」
カイ君がつっぷしているベッドの隣……もともとヒビキが寝起きしていたベッドに寝転んで、結婚式の余韻に浸っているヒビキ。
「ふかふかのベッドも……シアワセー」
タローさんの結婚式で、お料理を運んだり、汚れたお皿をさげたりと、こまごまと動き回ってくれていた。
ちょっと馬鹿だけど役に立つ、の自己申告に違わず、本当に細やかな気遣いをしつつ、裏方作業をこなしてくれたので、驚いたぐらいだ。
「カイってば、ほんと良く見てるっていうか、気が付く所があって吃驚したわ」
「だから役に立つっていったろ? 旅の雑用は俺にまかせろ~」
「そうだね。上から見てたけど、転びそうになったお婆さん支えたり、子供が落としたスプーンをキャッチしたりしてて、ビックリしたよ」
「お! ヒビキ見てたンかー! 俺、料理出来るし、掃除もできるンだぜ」
「すごいね」
「だろ? あ! あと、子守もわりと得意!!」
カイ君が領主様にお願いして与えてもらった、ルフェさんの小間使いは、昨日で無事終了したらしく。
タローさんの結婚式が済めば、町を出るつもりだったのだが、ヒビキの指輪と、娘っ子達の防具が出来るまで、滞在期間を延ばす事になった。
奥様がまだ目覚めないのも気がかりだしね。
カイ君も、早く『賭博の街』へ行って取り戻したいだろうに、「それでいいよ」と云ってくれった。
ついでに、タローさんの結婚式で、小間使いとして一日働かせてくれと、女将さんに自ら売り込んでいってたのには感心した。
『賭博の街』で、ニセの勇者に巻き上げられた物を取り返す為の軍資金を、少しでも稼ぎたいらしい。
結婚式が終わって解散となった時に、町の城壁近くで野宿する、と言い張るカイ君を引きずって、ヒビキの部屋に連行して来てからも。
「ベッド要らない! 床で寝る!」
と遠慮するカイ君をなだめて、ベッドを一つ追加して部屋に入れて貰った。
稼いだお給金を、できるだけ温存しようとする心意気は、かなり好感度があがった。
ただのおバカ男子だと思っててごめんよ。
そういえば、妖精の王様の3本目の角を切り落とした実行犯なのに、ピーちゃんが全く怒っていないのも、珍しいよね……。人徳? なのかしらと思ってしまう。
魔法の花火を打ち上げまくっていたヒビキと、こまごまと走り回っていたカイ君は、かなりのお疲れモードだったらしく。
既にうとうとと、まどろみ始めているようだ。
「ちょっとぉ。ヒビキってば、今夜の勉強どーすんのよぉ」
結婚式の間、私の頭の上で寝ころんで、猫耳娘二人が運んできてくれたお料理を食べていただけのピーちゃんは、まだまだ元気な様子だが。
(今日は私も疲れたし、早めに寝ようか)
ここの所、朝は教会・昼はアベルさんの戦闘訓練・夜はピーちゃん先生による読み書きの勉強と、かなりのハードスケジュールだったのだ。
この世界で生きていく為には、早急に身に着けた方が良い事ばかりだったので、無理しすぎではないかと思っても、止めはしなかったけれど。
せめて、寝落ちした日ぐらいは、ゆっくりさせてあげたい。
「えー。私眠くない~」
(ミアちゃんとソラちゃんの部屋に遊びにいく?)
「それいいね!」
部屋のドアノブに飛びついて、レバー式のノブを下すと、ドアが少し開く。
そのままドアを外に押して出ようとしたら、アベルさんの部屋を出て来た大将さんとかちあった。
「こんばんわ。大将さん。今日は良いお式だったね!」
「ありがとうございます。父親としては複雑なのですけれどね……」
結婚式でずっと泣いていた大将さんは、まだ目が赤い……というか、泣きすぎで目が半分開いていない状態だ。
タローさんの家に移り住んだ愛娘を想うと、いつでも泣けてきているのだろう。
嫁いだとはいえ、ハナコさんはこの宿屋の看板娘なわけで。
明日も朝から働きに来てくれるので、実質会えないのは夜だけなのだけれど。
いつまでも、手元に置いて一緒に居られる訳ではないのが子供とはいえ……。
巣立ちって、いろいろ複雑だよね……。
「アベルの部屋で何してたのー?」
「ミアさんとソラさんが屋根の上へ運んで下さっていましたが、そんなにお食べになっていないようでしたので、お夜食は如何ですかとお伺いしてたのですよ。ヒビキさん達にも、これからお伺いする所だったんです」
「あー。それなら、ヒビキとカイは寝ちゃったから、いらないと思うわ」
「そうですか……」
「ミアとソラは食べるって云ったたの?」
「いえ、それが、お二人ともすでに寝てしまっているらしくてね」
「えー……遊びに行こうと思ってたのにぃ……。アベルは?」
「アベルさんも、もう寝ると仰ってましたよ」
ぷくーっと頬を膨らませるピーちゃんに見つからないように、そっと部屋に戻る。
絡まれる前に寝るに限ると、ヒビキのベッドに飛び乗って、丸まった所で。
「あー!! オカンの裏切り者ぉ~!」
と叫ぶピーちゃんの声が、廊下から聞こえてきたけれど、知らなーい。聞こえなーい。
母ちゃんも、もう寝てますよー。




