表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/167

97.カイ君の意外な一面

 ぼふーん、とベッドにダイブしたカイ君が、枕に頬ずりしながらにやにやしている。


「美味しかったよなー。楽しかったなー。俺シアワセー」


「うん。楽しかったね」


 カイ君がつっぷしているベッドの隣……もともとヒビキが寝起きしていたベッドに寝転んで、結婚式の余韻に浸っているヒビキ。


「ふかふかのベッドも……シアワセー」


 タローさんの結婚式で、お料理を運んだり、汚れたお皿をさげたりと、こまごまと動き回ってくれていた。


 ちょっと馬鹿だけど役に立つ、の自己申告に違わず、本当に細やかな気遣いをしつつ、裏方作業をこなしてくれたので、驚いたぐらいだ。


「カイってば、ほんと良く見てるっていうか、気が付く所があって吃驚したわ」

「だから役に立つっていったろ? 旅の雑用は俺にまかせろ~」


「そうだね。上から見てたけど、転びそうになったお婆さん支えたり、子供が落としたスプーンをキャッチしたりしてて、ビックリしたよ」

「お! ヒビキ見てたンかー! 俺、料理出来るし、掃除もできるンだぜ」


「すごいね」

「だろ? あ! あと、子守もわりと得意!!」



 カイ君が領主様にお願いして与えてもらった、ルフェさんの小間使いは、昨日で無事終了したらしく。

 タローさんの結婚式が済めば、町を出るつもりだったのだが、ヒビキの指輪と、娘っ子達の防具が出来るまで、滞在期間を延ばす事になった。


 奥様がまだ目覚めないのも気がかりだしね。


 カイ君も、早く『賭博の街』へ行って取り戻したいだろうに、「それでいいよ」と云ってくれった。

 ついでに、タローさんの結婚式で、小間使いとして一日働かせてくれと、女将さんに自ら売り込んでいってたのには感心した。


 『賭博の街』で、ニセの勇者に巻き上げられた物を取り返す為の軍資金を、少しでも稼ぎたいらしい。


 結婚式が終わって解散となった時に、町の城壁近くで野宿する、と言い張るカイ君を引きずって、ヒビキの部屋に連行して来てからも。


「ベッド要らない! 床で寝る!」

 

 と遠慮するカイ君をなだめて、ベッドを一つ追加して部屋に入れて貰った。


 稼いだお給金を、できるだけ温存しようとする心意気は、かなり好感度があがった。

 ただのおバカ男子だと思っててごめんよ。


 そういえば、妖精の王様の3本目の角を切り落とした実行犯なのに、ピーちゃんが全く怒っていないのも、珍しいよね……。人徳? なのかしらと思ってしまう。


 魔法の花火を打ち上げまくっていたヒビキと、こまごまと走り回っていたカイ君は、かなりのお疲れモードだったらしく。


 既にうとうとと、まどろみ始めているようだ。


「ちょっとぉ。ヒビキってば、今夜の勉強どーすんのよぉ」


 結婚式の間、私の頭の上で寝ころんで、猫耳娘二人が運んできてくれたお料理を食べていただけのピーちゃんは、まだまだ元気な様子だが。


(今日は私も疲れたし、早めに寝ようか)


 ここの所、朝は教会・昼はアベルさんの戦闘訓練・夜はピーちゃん先生による読み書きの勉強と、かなりのハードスケジュールだったのだ。


 この世界で生きていく為には、早急に身に着けた方が良い事ばかりだったので、無理しすぎではないかと思っても、止めはしなかったけれど。

 せめて、寝落ちした日ぐらいは、ゆっくりさせてあげたい。


「えー。私眠くない~」

(ミアちゃんとソラちゃんの部屋に遊びにいく?)


「それいいね!」


 部屋のドアノブに飛びついて、レバー式のノブを下すと、ドアが少し開く。

 そのままドアを外に押して出ようとしたら、アベルさんの部屋を出て来た大将さんとかちあった。


「こんばんわ。大将さん。今日は良いお式だったね!」

「ありがとうございます。父親としては複雑なのですけれどね……」


 結婚式でずっと泣いていた大将さんは、まだ目が赤い……というか、泣きすぎで目が半分開いていない状態だ。

 タローさんの家に移り住んだ愛娘を想うと、いつでも泣けてきているのだろう。

 

 嫁いだとはいえ、ハナコさんはこの宿屋の看板娘なわけで。

 明日も朝から働きに来てくれるので、実質会えないのは夜だけなのだけれど。


 いつまでも、手元に置いて一緒に居られる訳ではないのが子供とはいえ……。

 巣立ちって、いろいろ複雑だよね……。


「アベルの部屋で何してたのー?」

「ミアさんとソラさんが屋根の上へ運んで下さっていましたが、そんなにお食べになっていないようでしたので、お夜食は如何ですかとお伺いしてたのですよ。ヒビキさん達にも、これからお伺いする所だったんです」


「あー。それなら、ヒビキとカイは寝ちゃったから、いらないと思うわ」

「そうですか……」


「ミアとソラは食べるって云ったたの?」

「いえ、それが、お二人ともすでに寝てしまっているらしくてね」


「えー……遊びに行こうと思ってたのにぃ……。アベルは?」

「アベルさんも、もう寝ると仰ってましたよ」


 ぷくーっと頬を膨らませるピーちゃんに見つからないように、そっと部屋に戻る。

 絡まれる前に寝るに限ると、ヒビキのベッドに飛び乗って、丸まった所で。


「あー!! オカンの裏切り者ぉ~!」


 と叫ぶピーちゃんの声が、廊下から聞こえてきたけれど、知らなーい。聞こえなーい。

 母ちゃんも、もう寝てますよー。

 

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ