表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

96/167

96.結婚式を盛り上げよう!

 高い所から見たキプロスの町は、赤い切妻屋根で統一された家が整然と並んでいて、なかなに壮観だ。


 晴れ渡る空には土星のような輪っかがかかった惑星が、淡いオレンジの光を放ちながら、悠然と浮かび。


 丸く囲まれている城壁の向こうには、頂上付近に雪が積もっているのか、白くお化粧された山脈が続いている。


 綺麗なんだよ?

 絶景なんだよ?


 でも、はーやーくーおーりーたーいー!!



 私は今教会の塔の円錐状に突起した屋根に、アベルさんの土魔法で縫いとめられた、籐のカゴのなかにいる。……しかも一人で!!


 ヒビキ達は、タローさんとハナコさんの結婚式に参列している。


 早くでて来ないかなー……。

 そして私をこのカゴから出してえぇえええ。

 一人ぼっちで高い所ってこんなに怖いと思わなかったよ。



 なぜ私がこんな所に放置されているのかと言うと。

 数日前の結婚式の打ち合わせ時に、ハナコさんが持ってきてくれたオレンジジュースを、シャーベットにして出して驚かれた事が原因。


「水魔法って、こんな事もできるの?!」


 と、ビックリしすぎたハナコさんが、椅子から立ち上がって声を上げた所から始まる。


「氷にしたり……雷にする事も可能ですよ」


 アベルさんの解説を聞いたハナコさんが、頬を染めて


「雪を降らせて欲しい」


 と云ったのだ。


 幼い頃に寝物語で雪の存在を知ったものの、比較的温暖なこの大陸では、めったに降る事がないらしく。

 大陸の周りをグルリと囲む山脈を登れば、見れなくもないが、一介の宿屋の娘が、標高高い山脈に登る機会がある筈も無い訳で。

 一度で良いから見てみたいと思っていたそうだ。



 翌日、かしまし娘達のお洋服を購入した後、いつもの修行場へ行って、水魔法で雪を出す実験をしたのだが。


 アベルさんでは、持っている魔力が強すぎて、どうしても氷になってしまう。

 私はといえば、全力で水を冷やしても、せいぜいが霜。


 せっかくの結婚式で、当たると痛い雹を降らす訳にもいかないよねぇと、かあちゃん頑張ったのだ。


 霜になった水をもう少しだけ固めるイメージを付けたら、粉雪を降らせる事に成功した……という訳で。


 みんなが教会から出てきたタイミングで、雪を降らせる手筈になっているので、一人こんなところで出待ちをしている、という訳なのだ。



「オカン、お待たせ。みんなもうじき出てくるわよ」


 伝達係のピーちゃんが、一足先に抜け出して知らせてくれたのを合図に、練習通り雪を降らせる。


 教会を中心として、半径50メートル程度の範囲しか降らせる事は出来ないが、結婚式の出し物なのだから、かえってちょうど良いかもしれない。

 ……町中に降らせちゃうと、ちょっとしたパニックが起きそうだしね。


 扉を開けて出てきた皆さんが、びっくりしつつも喜んでくれている歓声が聞こえてきた。


「オカーン!! ありがとー!!!」


 ドレス姿のハナコさんが、ブーケを持った腕をぶんぶんと振りながら、声を張り上げてくれている。


 ハナコさん……。新婦さんなんだから、今日ぐらいおしとやかにしようよ……と、少し思わなくもないけれど、喜んでくれているので、良しとしよう。


 ブーケトスが終わると、雪の出番も終わり。

 この後は教会脇にある小さな広場で、立食形式の食事会となる。


 アベルさんが迎えに来て、屋根に縫い付けていたカゴを取り外して空間収納に入れて、私を抱えて降ろしてくれた。


 はー……。怖かった。

 やっぱ地面好きだわー……。

 自力で飛べるようになったら、高い所も平気になるのかなぁ……。


「じゃあ、オカン。僕達はこの後花火を上げるので、少し離れますが大丈夫ですか?」

「にゃう!」


 私を地面に降ろしてくれたアベルさんに、ドンと胸を叩いて大丈夫と意思表示する。

 柔らかく微笑んだアベルさんは、私の頭をひと撫ですると、手筈通りヒビキと教会の屋根に飛び戻っていった。


 横一列に並べたテーブルの上に、ハナコさん一家力作のお料理が置かれている。

 参列者の方々からの、ご祝儀替わりのお祝いのお料理も並んでいるので、とても豪華だ。


 ヒビキがお祝いにと渡した”妖精のキノコ”は、一粒でお腹が膨れてしまうので、”引き出物”として渡す事になった。


 テーブルの向こう側に並んだ新郎新婦の挨拶が終わると……


 ドーーーーン!!


 ヒビキとアベルさんの花火の打ち上げが始まった。


「すごい! 花火ぃいいい!!」


 わっと、歓声があがる。


 王都ではわりとメジャーな魔法だが、田舎町では存在は知っていても、実際に見た者は少ないらしい。


 夜空じゃないのが少し残念だけど、魔法で打ち出す花火は色味がはっきりしているので、これはこれでなかなかオツなものだ。


 青空に花咲く色とりどりの花火を眺めていると、私を見つけたカイ君が駆け寄ってきてくれた。


「オカン、さっきの雪すごい面白かった! 口の中でしゅわ! ってなったよ!」


 カイ君ってば、雪が降ると空に向かって口をあけるタイプのお子様だったのね……。


 ヒビキとアベルさんの打ち上げる花火を見ながら、豪華な食事に舌鼓を打ちつつ、なごやかに談笑する穏やかな時間が流れていった。


 余興は大成功、って事で大丈夫そうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ありのー、ままのー♪(レリゴー(ォィ [一言] 花火!! 色付きですと!? 江戸時代超えたね!!(ォィ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ