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95.女心ってムツカシイ

 余興をするタイミングの話が終わると、お店の手伝いがあるからと早々に席を外したハナコさん。

 タローさんも、まだする事があるからと、一緒に部屋を出て行った。


 結婚式まであと二十日ぐらい、と聞いていたので、逆算しても後一週間はあるだろうと考えていたのだが。

 まさかの明後日という事で、いささか慌てるヒビキとアベルさん。


 タローさん、ホントに計算苦手なんだな……。

 っていうか、単におおざっぱなだけなのかな……?


「こっちの世界の常識って全く判らないんですけど、参列するときってやっぱり正装なのですか?」

「いえ、貴族ならともかく……。町の男性は汚れてたり皺が付いてない服なら、大丈夫ですよ」


「それなら、女将さんに貰った服があるから大丈夫です」


 あからさまにホッとするヒビキに対して……。


「「私達はおめかししたい~!!」」


 猫耳娘達が騒ぎ始めた。


 生まれた時から、ニセ勇者のお屋敷で奴隷としてこき使われていた二人。

 アベルさんの従者になってからは、衣食住の心配は無くなり、虐げられる事からも免れたとはいえ……。

 

  ニセの勇者と行動を別にするようになっても、ダンジョン巡りばかりしていたようだし、おしゃれとは縁遠かったにちがいない。


 普段は”お兄ちゃん”と呼び、親しげに振舞っているけれど、時折”あくまでも主”として線引きしている節も見受けられていたし。


 どこか浮世離れしている所があるアベルさんが、そんな娘っ子達の機微に気付く事もなさそうだしね……。


 年頃の女の子としては、フリルのついた洋服の一枚や二枚欲しいと思っていても、なんら不思議ではない。

 

 両腕を顔の近くで握りしめ、あざといぐらいの上目使いでおねだりしている――ヒビキに。


「こら! お前たち、なぜヒビキさんにお願いするんだ」


「「だって!」」


 握りしめた拳のまま、顔だけグリンとアベルさんに向けて抗議し始める。


「修行、いっぱい手伝ったから!!」

「お礼するねって云ってたもン!!」


「言ってたね。大丈夫、覚えてるよ」


 2本ならんだ木の棒の、手前の棒に干渉する事なく、奥の棒だけ倒す訓練を翌日には出来るようになってから。

 並べる棒の数を変えての命中率を上げる訓練をクリアした後、次は動く棒に当てましょうと段階があがった。


 アベルさんが魔法で棒を浮かせるのかと思いきや。

 回避の訓練にもなるからと、腰に付けた紐の先に棒を括り付けて、交代で娘っ子達に飛んで貰っていたのだ。


 かなり本気で飛び回って貰っていたから、二人ともかなりヘトヘトになっていた。


 地面に寝そべって「疲れたぁ~」と零す二人に、ヒビキがお詫びとお礼の話をしてた事を云っているのだろう。


「今日はもう遅いから、明日買いに行こうね」

「「やったぁ!!」」

 

「すみません。ヒビキさん。修行は二人のタメにもなっていたのに……」

「アベルはねぇ、もうちょっと乙女心を知った方がいいわよー!」


「え?」

「二人の男の子みたいな恰好みて、何にも感じた事ないの?」


「……。え……えぇ。スカートは戦闘の邪魔ですし……」

「ばっか! アンタほんと、バッカ! この二人は回避専門でしょ? 可愛い服着せておけば、汚すまいとして、もっと必死で避けるようになるわよ!」


「そういうものですか……?」


 ピーちゃん、それはちょっと斜め上なんじゃ……と思わなくもないけれど、アベルさんに視線を向けられた娘っ子達が、激しく頭を上下に振っているので、正解なのだろう……。


 中に短パン履いていれば、スカートでお空を飛んでも恥ずかしく無さそうだしね。


「どんな服が欲しいの?」

「「ピーちゃんみたいな、フリルが沢山付いた服!!」」


「売ってた所あったっけ……?」

「『妖精の専門店』で置いてたわよ。隅の方に」


 妖精のお姉ちゃんに献上した、天蓋付のロココなベッドや、ピーちゃんが日々愛用しているロココな家具類を買ったお店だ。

 妖精サイズの可愛らしい服と同じデザインで人間サイズの物も、壁際にひっそりと置いてあったなぁと思い出す。


「ねぇ~。ヒビキぃ~」


 ピーちゃんが猫なで声を出した。


「判ってるよ。ピーちゃんも、新しい服買おうね。町の人たちからお礼にって貰ったお金もあるし、好きなの買っていいよ」


「「「やったぁ!!」」」


 かしまし三人娘が、


「おそろいにする?」


 とか、


「あそこのおじちゃん、ヒビキにぎっくり腰治して貰ってから、すごく快調って云ってたから、頼めば特急・特注でも作ってくれそうよ!」

 

 とか、天井知らずで盛り上がっているのを横目に。


「全然……気付かなかった……」


 アベルさんがしょんぼりしていた。


 まぁ、アベルさんも『勇者』なんて職業与えられた上、職務を全うできる目途がたってないし、ずっとニセ勇者のカインさんに抑え付けられてた生活だったらしいから。

 仕方ない事なのかもしれないよ。


 そっとアベルさんに近付き、足にしっぽを絡めて慰めた。


 しょんぼりとした顔のまま、私を抱き上げたアベルさんが。


「あの子達のあんなに嬉しそうな顔、久しぶりに見た気がします」


 と、慈愛に満ちた微笑みをしていた。


 ……早く世界を救って、みんなで平和に暮らせるようになるといいね。

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