94.結婚式まであと二日!!
「フローラが欲しがってたものって何なんだ?」
「なんか、赤いでっかい宝石って云ってたらしいよ。小さい時に見たんだって」
「あ~……。そりゃこれだな」
そういったルフェさんが、大理石で出来ている女神様の石像の額を指さした。
石像の額飾りには、真紅の宝石が埋められている。
「あいつ、小っちゃい頃からこの石像が好きでなぁ。町で嫌な事があると、ここに来てたんだよ」
「だからかぁ……」
「フローラさんとは、全然会ってないのですか?」
「まぁな。俺はエルフの森には入れねぇし」
「カイは森に入れるんだよな?」
「うン。弾かれないよ」
「フローラに、女神様の石像を届けてくれないか?」
「うええぇ?! 無理だよこンなでっかいの!」
大理石で作られた人間の女性サイズの女神像は、かなりの重量がありそうだ。
……とはいえ、ピーちゃんの空間収納に入れて貰えたら、森の入口までは運べそうだけど。
その先がカイ君一人だと大変だよねぇ……。
アベルさんに手伝って貰う訳にもいかないし。
「大丈夫だ。これは爺さんが作ったモンだから、動かせねぇよ。渡して欲しいのは、俺が真似て作った方でな。手に乗るサイズだ」
「びっくりしたぁ! それなら良いけど、俺、取られたモン取り返すまで森に行けないンだ」
「カイ、次は『賭博の街』に行こうか」
「もしかしてヒビキ、手伝ってくれるンか?」
「俺じゃ何の手助けにもならないかも知れないけどね」
「いンや! すっげえ嬉しい!!」
「……取り戻せた後で良いから、渡してくれないか?」
「いいよ!」
「手間賃替わりに、ここの手伝いの報酬、上乗せしてやるからな」
「ン~。ちゃンと渡せてからで良いよ。フローラにお願いして、受け取りましたって書いて貰ってくるからさ」
意外としっかりした所のあるカイ君の頭を、ルフェさんが嬉しそうにガシガシと撫でる。
ヤメロよぅと云いながらされるがままになっている、カイ君の尻尾が勢いよく揺れていた。
「ルフェさん、ここに連れて来て下さったのは、何か意味があるのですか?」
ひとしきりカイ君がもふられているのを眺めてから、ヒビキが口を開く。
「ん? あぁ、特に意味はねぇけどな。なんとなく……お前さん達には見せといた方が良いような気がしたんだよ」
(妾の美しさも堪能できたであろ?)
「そうですね」
(では、少し疲れた故、戻るな)
そうそう出現しないと云ってたのに、今日はすでに3回も出てきてたから、さすがに疲れたのかな?
猫耳娘達のピアスに、細い煙の糸になって戻っていく女神様は、どことなく元気がないように見えた。
「さて。上に戻るとするか」
ルフェさんが、んーっと伸びをしながら云ったお顔は……少し、スッキリしたように見える。
もしかすると、誰かに聞いて欲しかったのかもしれないなぁ……と思った。
辛い記憶って、たとえ解決しなくても、ただただ聞いて欲しい事ってあるもんね。
それに、妹さんのことはずっと気がかりだっただろうし……カイ君を通じて交流を持てるようになりそうな事も、少しでも救いになっていると良いな。
◆
1階の工房に戻った後、残りの木片を薪にしてから町へと戻った時には、すでに夕飯の匂いがあちこちの家から漂う時間帯になっていた。
ハナコさんの宿屋のドアを開けると、待ち構えていたらしきタローさんが出迎えてくれる。
「タローさん、どうしたの?」
「いや、俺結婚式の日にち、ちゃんと伝えて無かったなと思ってさ」
「ちょうど俺も聞きに行こうと思ってた所なんだ。いつ?」
「明後日!」
「何時からかな?」
「昼からだよ。大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。何か手伝う事ある?」
「ないよ! 来てくれるだけで充分だよ!」
「そっかぁ……。あ、タロー……ちょっと打ち合わせしときたい事があるから、俺の部屋に来てくれる?」
領主様へ苦しい誤魔化しをしたせいで、タローさんの結婚式で余興をする事になっている。
タローさんへは、余興をするという部分のみ伝わってはいるようだが、何をするかは話していない。
サプライズにしても面白そうだけど……と悩んでいたようだが、どうやら打ち合わせをする事にしたようだ。
お式の進行の邪魔になっても良くないだろうしね。
「ハナコさ~ん! ヒビキが打ち合わせしたい事があるって云ってくれてるから、俺ちょっと上行ってくるね」
「え!? なになに。私も聞きたい! あ! みなさん御夕飯食べてきました?」
「「まだ~!!」」
元気に返事する娘達と、軽く首をふるヒビキとアベルさん。
「では、上にお持ちしますから、私もお話聞かせて下さいね」
ふんわりとほほ笑んだハナコさんが、厨房に入っていくのを見送って、2階へと移動し始めた。
みんなで修行の合間に練習したサプライズ。
喜んで聞いて貰えるといいなぁ……。




