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91.ピアスにした理由

 長さ50センチ程で腕の太さぐらいにそろえた木片を、ルフェさんの工房脇にある薪置き場の入口に山のように積みあげて。

 一本ずつ乾燥させてゆき、カイ君が”乾き具合チェック”をして、大丈夫だと判断したものを、薪置き場へと運んでくれている。


 アベルさんからのゴムボールのような水球攻撃は、うまく避けられたカイ君の後ろ……ちゃんと乾いた木片にあたって乾燥のやり直しになってからは、この作業中は訓練無しとなった。


 猫耳娘二人も、カイ君と一緒に木片運びに参加してくれている。


 私とピーちゃんといえば……。

 ヒビキの肩の上で、うとうととまどろんでいた。


 なにかと不便に感じる事が多い猫な体だけど、皆がせわしなく働いてる時に、のんびりとだらけていても『猫だから』と、咎められる事がない点だけは、よきかな……。


「おーい。そこの娘っ子たちー」


 生木の木片を、ほどよく乾燥した薪にする作業が、あと数本で終わりそうになった頃。


 せっかくお風呂に入ったのに、早くも煤まみれの汗だくになったルフェさんが、外に出てきて声を掛けてきた。


「「はーい」」


「ピアスが出来たから、ちょっと着けてみてくれ」


 清潔なタオルの上に乗せられた、小さな赤い宝石の付いたピアスは。

 赤い宝石を中心に、桜のような形の銀色の花びらが5枚付いていた。


「「可愛い!!!」」


「傷口が腐りにくいように、銀で作ってやったぞ」


「すごい!」

「花びらも銀?!」


「そうだぞ」


「「豪華~!! ありがとう!」」


 タオルごとピアスを受け取った二人は、嬉しそうにアベルさんの元へ。


「「お兄ちゃん、付けて~!!」」

「良いですよ。ちょっとチクっとしますからね」


 アベルさんの力技で、耳の根元から少し上に付けられたピアスは。

 ソラちゃんは左耳。ミアちゃんは右耳に着けられた。


「「似合う~?」」

 

 嬉しそうにくるくると回りながら、ヒビキに聞いている。


「似合う。とても可愛いよ」


 若干頬を赤くして褒めるヒビキ。


 カイ君の次はピーちゃんへと、続けて「にあう?」と聞いて回った娘っ子達が、最後に私の前に来た。


「「おか~ん! 傷治して~!!」」


は~い(にゃ~ぅ)


 ピアスの穴と金属部分が、癒着しないように気を付けながら、傷口だけを塞いであげた。


「「オカン、大好き!!」」


 猫娘達に両側からほおずりされる。


 ……うーん。役得、やくとく。


「二人とも、なンでピアスにしたンだ?」


 頬ずりする二人に、カイ君が問うと。


「え」

「だって」

「「ここに付いてたら、女神様が外の世界良く見えるでしょ?」」


 うわ! そんな所まで考えて、ピアスにしたの?!

 ……なんて良い娘達なんだ!


 私が感動したのとほぼ同時に。


 娘達のピアスから、赤い煙がぶわっと広がり、女神様が現れた。


(そなた達!! なんと()いのじゃ!! 妾の為に考えてくれたのだな!)


「「うン!!」」


 感動して、ふるふると体中の煙な輪郭を震わせながら、女神様が身もだえしている。


 外の世界を見たいといってたから、娘達の頭の上から眺め放題になるのは、それは嬉しいだろう……。


「……指輪にして貰うつもりだったけど、俺もピアスの方が良いかな……」


 素直なヒビキが感化されている。


 いや、ヒビキが付ける予定の赤い宝石は、親指の第一関節ぐらいのサイズなのだ。

 そんな大きな宝石を、ずっとぶら下げてたら、伸びると思うの。耳たぶが。


 案の定、くつくつと笑い始めた女神様が。


(ヒビキは男の子(おのこ)じゃからな。指輪の方がよかろうて)


 とフォローしてくれた。


「そうですか……」


 若干安心したようなヒビキ。


 ……ん? ルフェさんが、女神様を診て固まっている。


 いち早く異変に気付いたアベルさんが、「ルフェさん? 大丈夫ですか?」と気遣った。


「ん? あ、あぁ。ちょっとビックリしただけだ。大丈夫」


「おっちゃン、何にビックリしたン?」

「ほら。お前も見ただろう。家にあった石像」


「あぁ、あった。あった。今朝まであったのに急に消えたやつな!」


 あ、そーだった。そーだった。

 女神様が教会に生やしなおしたんだったよ。


「あー! そうだった! 実は……」


 ヒビキが、かいつまんで奥様の石像の話を伝えた。


「なるほど! だからか!」


 ルフェさんが、合点が行ったと手を叩いている。


 なんでも、領主様からの急ぎの依頼というのは、女神様の指輪のかわりに奥様に贈るつもりの、宝飾類なのだそうな。

 指輪と同じデザインで、首飾りも頼まれていたらしい。


 奥様が目覚めた時に、石化させてしまったお詫びと――結婚式の時や式典の時に付ける――女神様の指輪の替わりになるものとして、渡したかったと。


「しかし、宝石に宿っていたのが美の女神様だとは想像外だった……」

「ルフェさん、見ただけで判るってすごいですね」


 そういえばそーよね。

 女神様っておひとりだけじゃないのだろうし。

 赤くて煙状の女神様を見て、”美の女神様”だと判別つくのってすごいよね。


「ん~。まぁ……。お前らならいいか。他言するなよ?」


 ルフェさんが、女神様を見つめながら、意味深な事を云う。

 

 女神様が、同意するように片目をつぶって見せたのを合図に、「ついてこい」と、コクリコクリと頷きまくる私達を、屋内へ促した。

 


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