9.探し物は何ですか
「あ、そうだ。ヒビキ。持ってるもの出しなさいよ」
どこまでも俺様思考なピーちゃんがのたまう。
「ごめん。本当に何の事かわからない」
私もわからないなぁ……。
今のヒビキといえば、自宅リビングでだらけていた恰好のままだから、上下黒のトレーナーにパンツに靴下のみ。
……わぁ! 靴すらはいてないよこの子!
召喚される直前まで弄っていた携帯も、魔法陣が出現した時に放り投げて、両手でガッツポーズをしていたから、持ち込んでいるとは思えない。
パンツの左右についているポケットを引っ張り出して、何も入っていない事をアピールしているヒビキ。
「ほらね? 何ももってないだろ?」
「おっかしーわねぇ。確かにアンタから匂いがしてるのに。……まぁいいわ。とりあえず名前のお礼はしなきゃね」
腑に落ちない顔をしたままのピーちゃんが、面倒くさそうに右手を上げる。
そのまま空中に円を描くようにクルリと動かすと、描いた円と同じぐらいのサイズの空中が、揺らめいた。
その空中の揺らめきに、ずぼっと腕を突っ込んで、自分の顔より大きな銀貨を一枚取り出すと、ヒビキに手渡した。さっきと反対まわりに手を動かすと、揺らめきも消える。
渡された銀貨と、揺らめきがあった空中とを交互に見ていたヒビキが、興奮したようにピーちゃんにつめよった。
「何今の! 魔法?! もしかして空間魔法? アイテム収納の??」
「当たり前でしょー。この体で、あんな重い銀貨をどーやって持ち歩けってゆーのよ」
キラキラした瞳で、尊敬のまなざしを向けてくるヒビキに、明らかに機嫌がよくなったピーちゃんが、ニヤリと笑う。
「使いたい? 空間魔法」
ぶんぶんと高速で頭を縦に振るヒビキ。
……そのうちポロリと落ちそうだな。
「大サービスなんだからね!」
得意げなピーちゃんが、ヒビキと私の頭上を飛び回ると、キラキラと虹色に煌めく粉が降ってくる。
体に触れると、粉は消えた。
「もう使えるから。さっきのワタシみたいに、手のひらで円を描いてみて」
ヒビキが言われるがまま空中にくるりと円を描くと、揺らめきが出現した。
そのまま躊躇する事なく揺らめきに手を突っ込む。
何かを掴んだらしく、嬉しそうな顔をしながら引っこ抜いた手には、靴が握られていた。
「すごい!! 色々はいってる!」
揺らめきに手を突っ込んでは、中に入っているものを出してくるヒビキ。
出てきたのは……
『麻のシャツ』
『綿の丈夫なズボン』
『革のベルト』
『普通の短剣』
『丈夫な革の靴』
『旅人のマント』
……だった。
『普通の~』とか『旅人の~』とか、某青いネズミ型ロボットのように、ひとつひとつ名前を言いながら取り出していた。
どうやら、揺らめきに手を突っ込むと、収納されているアイテムの名前がわかるらしい。
いそいそと着替え始めているヒビキを横目に見ながら、そっと右手--(……ん? 右手? 右前脚? ……まぁ、いいか)--で円を描く。
でた! でたよ! 揺らめきが!!
ヒビキの空間収納に入っていた初期装備は、おそらく神様からの贈り物だろう。
私には何を贈られたんだろう?!
ほくほくしながら、右手--(ん? 右前脚? しつこい?)--を突っ込む。
頭の中に、入っているアイテムの名称が浮かんできた。
保有アイテム:灼熱のフライパン