89.俺を旅に連れてって
さて、伐採は終わったものの。
ここで薪サイズにしちゃうと運ぶのが大変なのでと。
せっかくアベルさんからのお墨付きをいただいた直後なのに、新たな訓練が始まった。
「ふん! んぎぎぎぎぎぎぎ!! うんぬぅ!」
訓練っていうか、単なる力技というか。
このでっかい木を、アベルさんとヒビキで持ち上げて、空輸しようということらしいが。
手を繋いだ人を運ぶ時のようにはいかないらしい。
ずっと、数センチ上がっては力尽きて落として、を繰り返している。
「これは……かなりキツイですね」
幾度目かのチャレンジ失敗の後、アベルさんが真っ赤になった掌をみながら、どうしたものかと思案している様子。
(ねぇ、ピーちゃん)
「ん? なぁに?」
(ピーちゃんなら、結界魔法すごく上手だから、あの木ぐらい入れれるんじゃないの?)
「まぁ……。私ぐらいの達人なら? たやすい事だけど?」
(入れてあげてくれないかな?)
「やぁよ。あれだけ大きいと結構神経使うんだもの」
(じゃあ、薪状態にしてから、ヒビキとアベルさんの空間魔法に入れればいいんじゃない? って伝えて来てくれる?)
「やだ! ホントだわ!! オカン、たまには賢い事いうのね!」
褒められたのか、けなされたのかは不明だが、さっそく伝えてくれた。
「その手があったか!」
「僕も気が付きませんでした……」
「二人とも案内ヌケてるのな~」
カイ君にだけは云われたくないと、云わない二人は偉いなぁ。
◆
枝を落とした後、カイ君が葉っぱを毟っていく。
ヒビキとアベルさんが手分けして、幹を1メートル程の長さに切り落としている。
天辺の少し細くなっている部位から着手しているヒビキに対して、アベルさんは太い根元部分を担当。
ヒビキの方が楽な筈なのに、作業スピードは同じだ。
こういうちょっとした作業ですらも、ソツなく使いこなしているアベルさんを見ていると、『勇者』の職業は伊達じゃないんだなと、感心する。
しばらく三人の作業を眺めつつ、ポカポカとした陽気にピーちゃんと二人でウトウトしていると。
「疲れたよぅ~。お腹すいたよぅ~」
一番楽な割当ての筈のカイ君が、案の定真っ先に根を上げた。
「一旦休憩しましょうか」
「そういえば、俺達まだお昼ご飯食べてませんでしたね」
朝一番に教会に行って、町の人達といつものやりとりをしている途中で、領主様が担ぎ込まれて……。
そのままルフェさんの工房に来ちゃったもんな。
太陽は、すでに南中を通り過ぎていた。
ヒビキが空間収納からゴザと組み立て式の簡易ちゃぶ台モドキを出して、昼食の準備に取り掛かってくれる。
「うお! なンかすごいな!」
突然準備されたお茶の間セットに、尻尾をぶんぶん振りながら、目を白黒させるカイ君。
町の人たちからのお供え……もとい、診療・家畜相談・家屋修繕のお礼にと渡された物のうちの一つなのだが、一日の半分は野外に居るので、なかなか重宝しているのだ。
◆
昼食は、お馴染みの妖精のキノコ。
一粒食べればお腹が膨れて、疲れが少し取れる上、食べたいモノの味がするという優れもの。
あっという間に食べ終わるのだが、小休憩と称してちゃぶ台の周りでダラリとする事になった。
ちゃぶ台の上で、肘をついてボーっとしているヒビキに。
自分の腕を枕にして、ごろりと仰向けになっているカイ君が話かけた。
「なぁ~……。ヒビキぃ」
「うん?」
「この町にはいつまで居れるンだ?」
「んー。あと残ってる用事は、タローさんの結婚式だけだから……あと数日かな」
「そっかー……」
「カイはこのままルフェさんの工房でお手伝いするの?」
「いや、なンか領主様から、急ぎで頼まれたもンがあったらしくて。それを作る間の小間使いとして、雇って貰えただけなンだ」
「それって、いつ頃出来上がる予定なの?」
「明日ぐらいって云ってた」
「そっか~……」
「なぁ……ヒビキぃ」
「ん~?」
ガバッと起き上がったカイ君が。
「やっぱり、ヒビキと一緒に旅がしたい」
真剣な眼差しでヒビキを見つめながら云ったカイ君に、悩む素振りや勿体付ける事もなく、「良いよ」と即答するヒビキ。
やったあ! とか、ひゃほう! とか叫びながら、ゴザを飛び出し、宙返りを繰り返すカイ君。
……身軽だなぁ……。
タローさんの食器屋さんで、2セットずつ購入してたから、連れて行く気なんだろうなぁと思っていたけれど。
きっと、『賭博の街』でカイ君が奪い取られた色々なものを、できうる限り取り戻してあげるつもりなんだろうな……。
次もにぎやかな旅になりそうだ。
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2章もあとわずかとなりましたー!!
今後ともよろしくお願いいたします。




