87.猫耳娘たちが可愛すぎるんです
ゴボゴボゴボ!
背中を掴まれた体勢で、湯船に浸けられたものだから、頭のてっぺんまでお湯の中。
ルフェさんの岩のような手は、身じろぎした程度ではびくともしない。
こんな時の結界発動!
おりゃ!
……2秒しか持たない結界では、一瞬息継ぎが出来た程度しか効果は無く。
上からヒビキとアベルさんの声が聞こえてくるけど、水中に居る為くぐもってよく聞こえない。
何も知らずに女湯でリラックスしている娘っ子達を、巻き添えにしちゃうので大変申し訳ないんだけれど。
ちょっと本気で溺れそうなのだ。
あとで謝るから許しておくれ。
バリバリバリっ!!
水中で発生させた電撃は、私を中心に放射状に広がる。
背を掴む力が緩んだので、ガバゴボと大量のお湯を飲みながらも、必死にもがいて水面を目指す。
私をすくい上げてくれたヒビキの腕の中で、むせながらルフェさんを見ると。
湯面に、ぷかりと大の字になって浮かんでいた。
「ちょっと! 何今の!!」
飛んできたピーちゃんに、アベルさんが事情を話してくれた。
「酔っ払いって最低ね! オカン大丈夫?」
「私は大丈夫。猫娘達は大丈夫?」
「のぼせそうになってきたって、ちょうど上がった所だったから、二人とも大丈夫よ」
娘っ子達に被害が無くて良かった。
と、安堵した矢先。
「ビ……ビリビリするぅ~」
あ、ごめんカイ君。
君も、下半身お湯の中だったね……。
◆
電撃ビリビリショックから目覚めたルフェさんが。
腰布一枚巻いただけの状態で、小さく背中を丸めて正座している。
「すまない……。久しぶりの火酒だったんで、つい……」
つい……ぐびぐびといっちゃった訳ね。
臭いだけで酒酔い起こしかけるような強いお酒を、お風呂に浸かりながらロックで飲んだら、そりゃ悪酔いもするよ。
むしろ、もう酒気が抜けてる事の方がびっくりだわ。
この人、やっぱりドワーフなのかなぁ。
……ちょっと頼みたい事があったのだけど、面倒くさがりな人なので、どうやって話そうかと考えていた。
ちょうど良いから乗っからせてもらおう。
(ピーちゃん、娘っ子達用に、軽くて丈夫な装備作ってくれるなら、許すって伝えてくれる?)
「お。それ良いわね。了解っ」
通訳が必要だろうと、私のそばに居てくれるピーちゃんに小声でお願いする。
「そんな事で良いのなら、いくらでも!」
ピーちゃんの伝言を受けたルフェさんが、それまで下げていた頭をガバッと上げて返事してくれた。
おや。意外にも快諾してくれた。
お風呂などの日常生活のアレコレは面倒だが、武器防具作るのは苦にならない、って事かな?
ますますワーカホリック体質な、ドワーフっぽいなぁ。
「「やったぁ!!」」
後ろの方で娘達の喜ぶ声が聞こえてくる。
出会った時に、彼女たちが装備してた革の胸当てや籠手が、相当ボロボロだったので気になっていたのだ。
アベルさんの『勇者の鎧』と違って、この子達のには自動修復機能なんて付いてないだろうし……。
めぼしいものもないキプロスの町には冒険者はまず来ない。
需要がないので、当然武器防具の専門店も無いのだ。
町の外から来るのは行商人程度だと、タローさんが教えてくれたけど。
領主様のお館に居た騎士様達は、鎧や武器を装備していたので、仕入れ先はともかく修繕などはおそらくルフェさんだと思う。
領主様ともかなり懇意みたいだしね。
「オカン、良いのですか?」
「にゃう」
アベルさんの問いにゆっくりと頷くと、「「オカ~ン!! 大好き~!!」」と、大はしゃぎする娘っ子達に抱き上げられ、両サイドから頬っぺたをすりすりされる。
……ぐわ。可愛ええ……。
可愛ええけど、ちょっと苦しいよ。つーぶーれーるー!!
「二人とも、嬉しいのはわかるけど、オカンが潰れそうだよ」
ヒビキのおかげですりすりから解放され、今度はナデナデ攻撃が始まる。
実は母ちゃん娘も欲しかったのよねー。
はあああ。可愛ええ。
十数日みっちり一緒に生活していたせいか、すっかり情が移ってしまったわ……。
「ヒビキ」
着替え終わったルフェさんが、ヒビキに声を掛けてくる。
「はい?」
「あの、女神様の指輪な。娘達に石を渡すと穴があくだろう?」
「そうですね」
「その後、誰が持つんだ?」
「俺が持ちます」
「そうか……。それなら、リング部分も作り直してやろうか?」
「え! 良いんですか?!」
「ああ。そのまま違う石を入れても良いが……女物は、恥ずかしいんじゃないか?」
ニカッと笑ってくれるルフェさんに、「実は少し……」と相槌を打つヒビキ。
「金に派手な飾り彫りの女物の……赤くてでかい宝石が付いている指輪は、なにかと目立つだろうしな」
「そういえば、こういう指輪って、どの指に嵌めるのが良いんでしょう?」
「親指だな。隠したい時は指を握ればいい。他の指だとそうはいかん」
親指を巻き込むようにして、握ったり開いたりしながら「なるほどぉ」と感心しているヒビキ。
「娘達は何にするか決まったのか?」
「「ピアス!!」」
「判った。じゃあ、俺は一足先に戻って炉に火を入れてくるから、ヒビキ送ってってくれるか?」
「はい」
「装備も作るとなると、大量に薪がいるな。カイ。……カイ?」
そういえば、一番元気でじっとしてないカイ君が、ずっと喋ってなかったな……と思って男湯を覗きに行くと。
びりびりする~と云ってた体勢のまま、熟睡していた。
……ご、ごめんよ忘れてたわ。




