85.町はずれの工房
「そうそう。ヒビキの紹介だと云っていた、コボルト族の少年……。カイ君だったかな」
「そうです」
「ルフェの所で働いて貰っているよ。よく頑張っているとの事だ」
「へええ! 久しぶりなので、会えるの楽しみです」
「人嫌いなルフェとも、うまくやってくれているようだよ」
「それは良かったです!」
『賭博の街』で、ニセ勇者に身ぐるみはがされてたカイ君かぁ……。
元気にしてるかな?
長話になりそうだと、いち早く察知したらしき女神様が口を挟む。
(もうよいか? はやく行くのだ)
「はい。お待たせしました」
(はやく行くのだぞ)と念押しした女神様は、いそいそと指輪の中へ戻っていった。
「では、領主様、執事さん、行ってきます」
「うむ。妻が目覚めたら知らせる。また寄ってくれるか?」
「もちろんです。では、アベルさん行きましょうか」
「ええ」
手を繋いで浮かび上がったミアちゃんとソラちゃんが、領主様に別れの挨拶と綺麗なお辞儀をした後、窓から飛び出した。
「あっ。コラ! お前たち、窓から!!」
アベルさんが慌てて窘めたけれど、にゃんこ娘達はすでに窓の外。
「戻る時に、私が窓から入りたいと云ったからだろうね」
くつくつと笑いながら、「ヒビキとアベルさんも、窓から出て良いですよ」と付け足した。
「で……では。失礼します」
苦笑いで窓から飛び立ったアベルさんが、娘達に追いつくと、デコピンしている。
笑いながら何かを言い返した娘っ子達に、アベルさんが拳骨に息を吹きかけてみせると、ぴゅーんと逃げ飛んで行った。
こうやって見てる分には、ほんと兄弟みたいだな。
アベルさんは隔てて考えてないみたいだし、娘っ子達も、はやく主従関係の精神的呪縛から解かれるといいな……。
◆
ルフェさんの工房は、キプロスの町からみて南東方向。
修行場にしている露天風呂がある山脈の麓へ向かって、4分の1ほど進んだ場所にある。
きゃあきゃあと追いかけっこをしている、娘っ子達とアベルさんを追いかけるようにして飛ぶ。
「仲いいなぁ」
「なによ、アンタお兄ちゃん欲しいの?」
「うん」
「ふーん」
一人っ子で育ったヒビキが、兄弟を欲しがっていたのは知ってる。
ホームドラマとか見てて、よく「いいなぁ」と小さく呟いていた事も。
家で一人でお留守番って、寂しかったよね。
兄弟でもいれば、少しは違ったかなって、考えた事もあったなぁ……。
きゅ、と胸が締め付けられていると……。
「ま、私がお姉ちゃんになってあげるからさ。どーんと甘えていいのよ?」
私の頭の上で仁王立ちになって威張るピーちゃんを、びっくりしたような目で見たヒビキが。
「あはははは!! ピーちゃんが! お姉ちゃん!!」
爆笑し始めた。
「ちょっと、ヒビキ。なんで笑うのよー!!」
「だって、あはは。うん、そうだね。色々物知りだし。助けてくれるし。お姉ちゃんだ」
「今、絶対違う事考えてたでしょ? 言いなさいよー!」
飛び出したピーちゃんが、ヒビキの頭に止まろうとする。
髪の毛を引っ張られると悟ったヒビキが、ひょいと躱してちょいと加速。
「そんなことないよー。ピー姉ちゃん。頼りにしてるよ」
「かーくーすーなー!」
追いかけるピーちゃん。
捕まりそうになる度に、ちょっとだけ加速して逃げるヒビキ。
こちらの疑似姉弟も、仲良しだ。
仲が良いのは良い事だけど、度重なる加速で気持ち悪くなってる母ちゃんが、ここにいますよー。
◆
ほどなくして見えてきた、石造りの無骨な一軒家のそばで、カイ君が手を振ってお出迎えしてくれている。
カイ君の肩に止まっているミニヨンも、上下に体をゆすりながら声を掛けてくれた。
「おーい! ヒビキー! ひさしぶりー!!」
「ココダヨー! オカエリー!」
「カイ! ひさしぶり! 元気だった?」
「うン! ヒビキこそ、色々やってるみたいだな」
「まぁね」
ニシシと笑って、ゴツンと拳を合わせる二人。
「カイ、紹介するね。こちらがアベルさん。右の銀髪の子がソラちゃん。オレンジ色の髪の子がミアちゃん」
よろしくと云う三人に向かって、顔だけぺこりと動かして挨拶をするカイ君。
尻尾がすっごく膨らんでる……。緊張してるのかな?
「ヒビキ、それってもしかして酒?」
「そうだよ。領主様が手土産にって持たせてくれたんだ」
「よっしゃラッキー! そろそろ無くなりそうだったから、買い出し行かされるトコだったンだよ。それ重いから助かったぜ!」
「それはちょうど良かったね」
「じゃあ、案内するな。こっちこっち」
ヒビキの肩に腕を回したカイ君が、歩こうとすると。
「俺、カエル」
オウムのミニヨンが暇乞いをしてきた。
「あ、うん。ミニヨン、ありがとう」
お礼を云われたミニヨンが、ぶわっと膨らんだ。
ヒビキが首の後ろをカリカリと掻いてあげると、気持ちよさそうに目を細めている。
しばらくうっとり掻かれていたミニヨンが、帰るつもりだった事を思い出したのか、くりっとした目を開くと、「俺、行ク。ジャーネー」と云いながら羽ばたいた。
小さくなっていくミニヨンをお見送りした後、石造りの家の入口に向かう。
「おっちゃーン。『動物使い』様とお連れさン来たぜー」
ドアをバーンと開けて、大きな声を出して屋内に入ったカイ君に、「やかましい!」との怒声とともに、木のコップが飛んでくる。
「おわ!」
「わっ」
肩に手を回していたヒビキをひっぱるように、しゃがんで回避するカイ君。
直後、パシっと小気味の良い音がしたので、背後に居たアベルさんが華麗にキャッチしたようだ。
振り向いたカイ君が、「すげえな、あンた」と云いながら、尻尾をぶんぶんと降っている。
……どうもカイ君の感情表現って、ワンコと似てるなぁ。
「静かにしろと何度いったら覚えるんだ?」
「だからって、もの投げてくるのは反則だって言ってンじゃン!」
「どうせ当たらんのだからいいだろう」
部屋の奥から出てきた中年と初老の間ぐらいの男性が、フンと鼻を鳴らしながら歩いてくる。
なにかの作業をしていたのか、汗びっしょりだ。
無精に伸びた髭に、煤まみれの全身。
ツナギのような衣服の上は、脱いで腰に巻かれている。
浅黒い肌に……丸太のように筋骨隆々とした腕。
頭に巻いているバンダナも、煤けているうえに、汗でぐっしょりと湿っているのが見て取れる。
てっきりドワーフ族だと思っていたけど、ヒビキより少し高い身長と、ストレートの髪に面食らう。
もじゃもじゃで、ずんぐりしてないドワーフも居るのかなぁ?
ってか、この人も……臭い……。
すぐそばまで来たルフェさんが、ヒビキをじっと見つめながら、素早い動きでカイ君に拳骨を落とした。
「ンぎゃ! ひでえ!」
大げさに頭を抱えて騒ぐカイ君をよそに、ルフェさんが話し始める。
「君がヒビキだね?」
「はい。はじめまして。それと、領主様からこれを預かってきました」
ヒビキが両手で抱えていた、どっしりとした一斗瓶を手渡す。
ひょいと……瓶口の一段細くなった部分を掴んで受け取ったルフェさんが、ニタリと笑う。
ってか、一斗瓶って確か18キロぐらいあるはずだよ?
片手で軽々もってるよこのおっちゃん。
お読み頂きありがとうございます。
すごくすごく嬉しかったので、ご報告させて下さい!!
なんと! 昨日っ!!
『私母ちゃん。転生したら白猫でした』が、ジャンル:異世界転生・サブカテゴリ:ヒューマンドラマ の、週刊ランキング部門で 94位 !! に載れましたー!!!
これもひとえに、いつもお読み頂いているみなさまのお蔭です。
これからも、少しでも楽しんで頂けるように頑張りますので、どうぞ宜しくお願い致します。
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