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85.町はずれの工房

「そうそう。ヒビキの紹介だと云っていた、コボルト族の少年……。カイ君だったかな」

「そうです」


「ルフェの所で働いて貰っているよ。よく頑張っているとの事だ」

「へええ! 久しぶりなので、会えるの楽しみです」


「人嫌いなルフェとも、うまくやってくれているようだよ」

「それは良かったです!」


 『賭博の街』で、ニセ勇者に身ぐるみはがされてたカイ君かぁ……。

 元気にしてるかな?


 長話になりそうだと、いち早く察知したらしき女神様が口を挟む。 


(もうよいか? はやく行くのだ)

「はい。お待たせしました」


(はやく行くのだぞ)と念押しした女神様は、いそいそと指輪の中へ戻っていった。


「では、領主様、執事さん、行ってきます」

「うむ。妻が目覚めたら知らせる。また寄ってくれるか?」


「もちろんです。では、アベルさん行きましょうか」

「ええ」


 手を繋いで浮かび上がったミアちゃんとソラちゃんが、領主様に別れの挨拶と綺麗なお辞儀をした後、窓から飛び出した。


「あっ。コラ! お前たち、窓から!!」


 アベルさんが慌てて窘めたけれど、にゃんこ娘達はすでに窓の外。


「戻る時に、私が窓から入りたいと云ったからだろうね」


 くつくつと笑いながら、「ヒビキとアベルさんも、窓から出て良いですよ」と付け足した。


「で……では。失礼します」


 苦笑いで窓から飛び立ったアベルさんが、娘達に追いつくと、デコピンしている。

 笑いながら何かを言い返した娘っ子達に、アベルさんが拳骨に息を吹きかけてみせると、ぴゅーんと逃げ飛んで行った。

 

 こうやって見てる分には、ほんと兄弟みたいだな。

 アベルさんは隔てて考えてないみたいだし、娘っ子達も、はやく主従関係の精神的呪縛から解かれるといいな……。



 ルフェさんの工房は、キプロスの町からみて南東方向。

 修行場にしている露天風呂がある山脈の麓へ向かって、4分の1ほど進んだ場所にある。


 きゃあきゃあと追いかけっこをしている、娘っ子達とアベルさんを追いかけるようにして飛ぶ。


「仲いいなぁ」

「なによ、アンタお兄ちゃん欲しいの?」


「うん」

「ふーん」


 一人っ子で育ったヒビキが、兄弟を欲しがっていたのは知ってる。

 ホームドラマとか見てて、よく「いいなぁ」と小さく呟いていた事も。


 家で一人でお留守番って、寂しかったよね。

 兄弟でもいれば、少しは違ったかなって、考えた事もあったなぁ……。

 きゅ、と胸が締め付けられていると……。


「ま、私がお姉ちゃんになってあげるからさ。どーんと甘えていいのよ?」


 私の頭の上で仁王立ちになって威張るピーちゃんを、びっくりしたような目で見たヒビキが。


「あはははは!! ピーちゃんが! お姉ちゃん!!」


 爆笑し始めた。


「ちょっと、ヒビキ。なんで笑うのよー!!」

「だって、あはは。うん、そうだね。色々物知りだし。助けてくれるし。お姉ちゃんだ」

 

「今、絶対違う事考えてたでしょ? 言いなさいよー!」


 飛び出したピーちゃんが、ヒビキの頭に止まろうとする。

 髪の毛を引っ張られると悟ったヒビキが、ひょいと躱してちょいと加速。


「そんなことないよー。ピー姉ちゃん。頼りにしてるよ」


「かーくーすーなー!」


 追いかけるピーちゃん。

 捕まりそうになる度に、ちょっとだけ加速して逃げるヒビキ。


 こちらの疑似姉弟も、仲良しだ。


 仲が良いのは良い事だけど、度重なる加速で気持ち悪くなってる母ちゃんが、ここにいますよー。


 


 ほどなくして見えてきた、石造りの無骨な一軒家のそばで、カイ君が手を振ってお出迎えしてくれている。

 カイ君の肩に止まっているミニヨンも、上下に体をゆすりながら声を掛けてくれた。


「おーい! ヒビキー! ひさしぶりー!!」

「ココダヨー! オカエリー!」


「カイ! ひさしぶり! 元気だった?」

「うン! ヒビキこそ、色々やってるみたいだな」


「まぁね」


 ニシシと笑って、ゴツンと拳を合わせる二人。


「カイ、紹介するね。こちらがアベルさん。右の銀髪の子がソラちゃん。オレンジ色の髪の子がミアちゃん」


 よろしくと云う三人に向かって、顔だけぺこりと動かして挨拶をするカイ君。


 尻尾がすっごく膨らんでる……。緊張してるのかな? 


「ヒビキ、それってもしかして酒?」

「そうだよ。領主様が手土産にって持たせてくれたんだ」


「よっしゃラッキー! そろそろ無くなりそうだったから、買い出し行かされるトコだったンだよ。それ重いから助かったぜ!」

「それはちょうど良かったね」


「じゃあ、案内するな。こっちこっち」


 ヒビキの肩に腕を回したカイ君が、歩こうとすると。


「俺、カエル」


 オウムのミニヨンが暇乞いをしてきた。


「あ、うん。ミニヨン、ありがとう」


 お礼を云われたミニヨンが、ぶわっと膨らんだ。

 ヒビキが首の後ろをカリカリと掻いてあげると、気持ちよさそうに目を細めている。


 しばらくうっとり掻かれていたミニヨンが、帰るつもりだった事を思い出したのか、くりっとした目を開くと、「俺、行ク。ジャーネー」と云いながら羽ばたいた。


 小さくなっていくミニヨンをお見送りした後、石造りの家の入口に向かう。


「おっちゃーン。『動物使い』様とお連れさン来たぜー」


 ドアをバーンと開けて、大きな声を出して屋内に入ったカイ君に、「やかましい!」との怒声とともに、木のコップが飛んでくる。


「おわ!」

「わっ」


 肩に手を回していたヒビキをひっぱるように、しゃがんで回避するカイ君。


 直後、パシっと小気味の良い音がしたので、背後に居たアベルさんが華麗にキャッチしたようだ。


 振り向いたカイ君が、「すげえな、あンた」と云いながら、尻尾をぶんぶんと降っている。


 ……どうもカイ君の感情表現って、ワンコと似てるなぁ。


「静かにしろと何度いったら覚えるんだ?」


「だからって、もの投げてくるのは反則だって言ってンじゃン!」

「どうせ当たらんのだからいいだろう」


 部屋の奥から出てきた中年と初老の間ぐらいの男性が、フンと鼻を鳴らしながら歩いてくる。


 なにかの作業をしていたのか、汗びっしょりだ。

 無精に伸びた髭に、煤まみれの全身。

 ツナギのような衣服の上は、脱いで腰に巻かれている。

 浅黒い肌に……丸太のように筋骨隆々とした腕。

 頭に巻いているバンダナも、煤けているうえに、汗でぐっしょりと湿っているのが見て取れる。


 てっきりドワーフ族だと思っていたけど、ヒビキより少し高い身長と、ストレートの髪に面食らう。

 もじゃもじゃで、ずんぐりしてないドワーフも居るのかなぁ?


 ってか、この人も……臭い……。

 

 すぐそばまで来たルフェさんが、ヒビキをじっと見つめながら、素早い動きでカイ君に拳骨を落とした。


「ンぎゃ! ひでえ!」


 大げさに頭を抱えて騒ぐカイ君をよそに、ルフェさんが話し始める。


「君がヒビキだね?」

「はい。はじめまして。それと、領主様からこれを預かってきました」


 ヒビキが両手で抱えていた、どっしりとした一斗瓶を手渡す。

 ひょいと……瓶口の一段細くなった部分を掴んで受け取ったルフェさんが、ニタリと笑う。


 ってか、一斗瓶って確か18キロぐらいあるはずだよ?

 片手で軽々もってるよこのおっちゃん。






お読み頂きありがとうございます。


すごくすごく嬉しかったので、ご報告させて下さい!!

なんと! 昨日っ!!

『私母ちゃん。転生したら白猫でした』が、ジャンル:異世界転生・サブカテゴリ:ヒューマンドラマ の、週刊ランキング部門で 94位 !! に載れましたー!!!


これもひとえに、いつもお読み頂いているみなさまのお蔭です。

これからも、少しでも楽しんで頂けるように頑張りますので、どうぞ宜しくお願い致します。


少しでも、応援してるよ! と思って頂けましたら、広告下の☆を押して頂けると、毎回飛び上がって喜んでおります! 宜しく願い致します★

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