80.女神様は可愛いモフモフがお好きなようです
(す……すべすべのほっぺ! ツンと立った耳ッ!! なんという可愛らしさじゃ!!)
「「ひっ」」
女神様の勢いに驚いた娘っ子達が、アベルさんの背に隠れると。
(隠れなくてもよかろう? 取って喰うたりせぬぞ?)
聖母のように優しげに問う女神様の声。
アベルさんの背後から、そろ~っとよっつの猫耳が顔を出すと(可愛いッ!!)と、フルリと震えながら叫ぶ女神様。
……これ、もしかしたら女神様を娘っ子達に押し付けられるかもしれないなぁ。
なんて、邪な考えが頭をかすめてしまう。
「あのぅ……。女神様?」
(なんじゃ? ヒビキ)
「領主様の奥様の石像が、後何体残っているか教えて頂けませんか?」
(あと一体じゃよ)
「なんと!」
「本当ですか!!」
(妾が嘘をつくとでも……?)
領主様の言葉の端をとらえて睨みつける女神様。
「滅相もないです!!」
縮み上がる領主様に、目配せをしたヒビキが、機嫌を損ないかけている女神様に問いかける。
「最後の一体は、どこにあるのですか?」
(教えて欲しいかの?)
「お願いします」
(そうじゃなぁ……。最後の一体は、ちょっと判りにくい所に作ったからのう……)
「教えて頂けませんか?」
(妾のお願いを聞いてくれるなら、教えてやっても良いが?)
ヒビキ、そこは断るべきよ!
どうせ、町の中の何処かなんだろうから、領主様の力があれば命令一つで人海戦術もできるんだっ。
これ以上面倒そうな事からは、全力で断るのよー!!
テレパシー使えるようになったらいいのにな。こんな事ピーちゃん伝えで話せないのがモドカシイ。
「俺に出来る事なら、なんでも言って下さい」
ぬあああ! 云っちゃった、云っちゃった。
(なに、大した事は言わぬよ。そこの獣族の娘達とも旅がしたいだけじゃ)
「「「えっ」」」
突然、話の矛先を向けられた娘っ子達が声をあげる。
「ミアとソラとですか?」
保護者なアベルさんが尋ねた。
(そうじゃ。可愛い獣娘達との生活は……さぞ楽しかろうて)
「この二人と一緒に来ると、僕が引率ですよ?」
(ぬぅ……。まぁ、お主もさほど見目は悪くないから、かまわぬよ)
お。話が良い感じの方向に転びそうだ。
「俺と旅をする約束は無しで良いのですか?」
(その約束はなくなる訳がなかろう!)
「でも、この町を出たら、俺とアベルさん達は行き先が違いますよ」
(なんじゃ、そんな事か。それなら問題ない。心配するでない)
う~ん。女神様分裂でもするつもりなのかなぁ。
「女神様、もしかして真ん中の石以外にも宿れるの?」
時々鋭いピーちゃんが参戦する。
(そうじゃ。長年妾と近い場所に居た、この両脇の石にならそれぞれ宿る事は可能なのじゃ)
得意げに微笑む女神様。
「ヒビキさん、状況を詳しく教えて下さい」
そりゃそうだよね。
アベルさん達にとっては、女神様どころか領主様とも初対面な訳だし。
いきなりミアちゃんとソラちゃんに付いてくるとか言われても、断るにしても受けるにしても、事の経緯は伝えなきゃだよね。
「領主様、アベルさんに話をしても良いですか?」
「もちろんだよ」
「女神様、ちょっとだけアベルさん達と相談させて下さいね」
(よかろう)
この町に来てからの事、奥様の石像が日に日に増えていた事。
そしてその増えた石像の呪いを解除する方法を教えて貰う代わりに、ヒビキと旅をする事を約束した事。
町じゅうにある石像を解除し終えたら、領主様の奥様”本体”の石化を解除できる事……。
順を追って説明し終えたヒビキに、あきれたようにソラちゃん達が云う。
「ヒビキさんって……」
「結構巻き込まれ体質?」
「……そんな事ないよと云えないのが痛い……」
「出会った時から、いろいろ巻き込まれてるよね」
「僕に出来る事はお手伝いするとお約束しましたし。ミア、ソラ。いいよね?」
「「ううぅ……」」
およそ肯定には聞こえないうめき声をあげた娘っ子達が、そろってコクリと頷いている。
本当の兄妹のように仲の良い三人だから、全然気にしてなかったけど。
二人はそもそもアベルさんの使用人だったっけ……。
アベルさんにはそんな意図はさらさら無いんだろうけど、娘達にとっては”ご主人様”からの命令に聞こえてるかも知れないな。
押し付ける気満々だった私が言えた義理じゃないけれど、大丈夫かな……。
「ミアちゃん、ソラちゃん、本当にいいの?」
ヒビキが確認しているけれど、この空気の中断れないよねぇ。
(そないに念押しせずとも、心配なかろう。妾は滅多に具現せぬよ)
「えっ」
(この形になるのは結構骨が折れるからの)
「えっ。気軽にお呼び出ししてすみません!」
(くくく。そこですぐに詫びを入れるのがヒビキのういところじゃな。宝石の中から外の世界を垣間見る事はできるが……ずっと宝石箱の中じゃったからな)
じろりと領主様へ視線を送り(その後は……むさくるしい指に嵌り……さらにその後も、むさくるしい胸元に押し込まれておったからの!!)と、恨み節をぶつける女神様。
あ、なんかちょっとだけ女神様が可哀相に思えてきた。
(たんと、外の世界を見て回りたいだけなのじゃよ)




