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77.てんてこ? きりきり?

 えー。第四区画にある教会からお届けします。


 てんてこと、きりきと、ぎりぎりと、ちんちろと、じりじりと……舞い踊る、ヒビキとアベルさんと私がおります。


『動物使い』様と、すごい男前の『土と風の魔法使い』様と。

 可愛らしい猫耳の少女と。

 同じく回復魔法を使う、羽の生えた変な猫が。


 教会に現れて、無償でいろんなものを治してくれる!! との噂が広まったせいで。


 ……いろんなモノが舞っておる次第です、ハイ。



 妖精のお姉ちゃんが眠りについた翌日、教会に集められていた『重症化した魔素病』で、寝たきりになっていた患者さんの治療は無事終える事ができた。


 治療と云っても、”妖精のキノコ・王様の粉スペシャル”を食べて貰うだけなので、大した労力でもなかったし。


 誤算だったのが、ぎっくり腰で動けない一人暮らしのご老人や、屋根の修理中に足を滑らせて骨折した男性などの、魔素病以外の患者さんも居た事。

 

 王様の粉はまだ大量にあるとはいえ、この先に出向く町でも必要になるのは容易に想像できる。


 回復魔法で治療できるものには王様の粉は使わず、できるだけ温存させた方が良いだろうという事になり。


 かといって、治す力があるのに知らんぷりできる訳もなく。


『回復の腕輪』持ちの私とソラちゃんが担当する事になったのだけれど……。


 魔力を使って、『回復の腕輪』を使える私と違い、魔力を持たないソラちゃんは”精神力”を使って腕輪の魔法を発動させている為に、立て続けに使うと倒れてしまう。


 と……いう事で。

 猫耳娘は、二人とも受付などの雑用係を担当し。

 

 ヒビキは、家畜やペットたちのお悩み相談係になり。

 アベルさんは、なぜか痛んでいる屋根や壁の修復に駆り出され……。


 骨折や怪我の治療は、もっぱら私の担当になっている。

 魔力枯渇寸前になればそっと差し出される、一口サイズに切られた、”妖精のキノコ・王様の粉スペシャル”。


 ……ねぇ、この編制なんか間違ってない?

 私猫だよね?

 一番忙しいの私じゃない?!


 ソラちゃん、ミアちゃん! おやつで休憩取ってるの、見えてるよ!

 私も、町の人の差し入れ食べながら、楽しくおしゃべりしたいよー!


 あ、さっきから通訳が居ないと思ったら、ピーちゃんまであっちに居た!

 ひどい!



 日の出とともに起きて、ハナコさんの食堂で朝食を食べて。

 オカン誘拐事件の日に、ヒビキが飛べる事がバレてしまった為、今更隠す必要もなかろう……という事で、全員で空を飛んで教会に行く日々が始まって、はやくも十日目。


 飛べない私は、ヒビキに運んでもらっている。

 お昼から露天風呂の近くで魔法の特訓をしているので、魔力操作はかなり上達したのに、なぜか風魔法だけは発動する気配すらないのだ。

 ちなみに、結界魔法も未だにタイミングを合わせられていない。

 なーぜーだー!!

 

 宿屋のある一区画と教会のある四区画の間の、大通り上に差し掛かると、教会から続く長蛇の列が見える。


「毎日毎日……どっからこんなに人が湧いてくるのよっ」

「突き指したって人まで並ぶようになっちゃったもンね……」

「家の中に蛇が出たって人も居たよね……」


 ピーちゃんがうんざりしたように吐き出すと、手を繋いで飛んでいる猫娘たちも、口をそろえて同意している。


  君たち、付き添いのご家族の方と、差し入れのおやつ食べて、談笑してるだけではなかろうか……?


 気の良い町の人達は、無償で治療や修繕やお悩みを解決して貰うのは、申し訳ないからと、少額の硬貨や手作りのおやつ、日用品などでお支払して下さっている。


 お断りするのも変な話なので、その方の無理のない範囲で受け取っているから、私達の空間収納は、今すぐ雑貨屋さんが開けそうなぐらい充実していた。


 ピーちゃんが、カツアゲ姉ちゃんに巻き上げられたベッドも、初日にぎっくり腰の治療をした”妖精の専門店”の店主のおじいちゃんから、さらに豪華な物を貢がれていたし。


 いいよなー。みんな。

 素敵なモノを贈られててさ。


 私なんか、ねずみだよ?! まるまると太ってるから美味しそうでしょ? って差し出された時は、口から魂抜けるかと思ったわよ!


 ねこじゃらしモドキも嬉しくないし!

 あ、でも、猫用ブラシは気に入ったけど。


 扉の前に降り立ち、並んでいる町の人たちに挨拶をしながら、教会の中へ入って行くと。

 入口すぐの所へ用意してくれている受付テーブルに、娘っ子達がシスターと一緒にスタンバイする。


 教会の中には、横に3脚、縦に10脚の木製の長椅子が並べられていて、そのまま待合椅子替わりになっていた。


 各椅子の列の前には、町の人から寄贈された、私とヒビキとアベルさん専用の、座り心地の良い診察椅子が設置されているのは純粋にありがたい。


 骨折から突き指、果てはとげが刺さったまで承っている私の列の前の椅子は、あっという間に満席になった。


「範囲で回復魔法を使えたらいいのに」と愚痴をこぼしたけれど、『回復の腕輪』では使えないらしく。

 一人ひとり対応していくので、時間がかかる。


 アベルさんの魔法による家屋の修復は、この町にいる職業『大工』さん達を通して、受ける事になったので、呼び出される事はあまりなく。

 ここ数日は、もっぱらおもちゃの修復希望な子供たちが、ちらほらとやって来るのみなので、待合椅子に人が並ぶ事は無くなった。

 

 小さい生き物や、子供が好きなアベルさんは、たまに来る子供たちに、とろけそうな笑顔で対応している。

 すでに、お子さんの付き添いで来たお母様方を含む、町の女性の大半が、アベルさんのファンクラブに入っているそうな。

 

 ヒビキは、家畜やペットが話す赤裸々な家庭の事情を、いかにオブラートに包んで飼い主に話すか、毎回大変苦労しているようだ。

 

「すみません! 道を開けてください!」

「『動物使い』様はこちらですか?!」


 にわかに教会の入口が騒がしくなった。

 何事かと見てみると。


 ロマンスグレーの執事さんを先頭に、鎧の騎士様二人に担がれた意識のない領主様が運び込まれてきた。


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