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69.アベル「快適な空の旅をご提供致します」

「ピーちゃん、どういう事?」

「ほら、宿屋の天井裏にいたでしょ。お姉ちゃんが」


「居たね!」

「あのお姉ちゃん、空間魔法の粉持ってるから、たたき起こしてかけて貰えばいいのよ」


「えっ。妖精が近くに居るのですか?」

「いるのよ。アベルほどの魔法の使い手なら、妖精の結界を破るぐらい出来るでしょ?」


「やってみないと判りませんが……。おそらく可能だと思います」

「でも、無理やり起こして大丈夫なの?」


「あのお姉ちゃん、超絶面食いの筋肉フェチだから、むしろ大喜びすると思うわよ」


 なるほど。そのカテゴリーなら、アベルさんは間違いなくど真ん中を射抜けるね。



 ひとまず町へ戻る事にして、明日からもここで戦闘練習をしようという話になった時。


「じゃぁ、訓練後は毎回お風呂入れるね!」


 と手を叩いて云ったピーちゃんの鶴の一声で、簡易露天風呂に屋根を作る事になった。


 もし雨が降ったら、せっかくの露天風呂が水浸しになっちゃうもんね。


 示し合わせたように一斉にアベルさんを見つめる。

 嬉しそうに頷いて、あっという間に切妻屋根を作ってくれた。


 そんなアベルさんの後ろに付いて回り、魔法を駆使している様をずっと見ていたヒビキは「凄いなぁ」を連発していた。


 妖精の森でも土魔法は成功しかけていたし、早くヒビキも出来るようになるといいね。


 テントの片づけをし終わった頃には、もう間もなく完全に陽が沈みそうになっていた。


「陽が完全に落ちてしまうと、町の城門が閉められてしまいますので、急ぎましょう」


 片づけタイム中、みんなの周りを只々ちょろちょろしていた私を、もふっと抱き上げたアベルさんが云った。


「あっ。アベルさん、オカンは俺が運びます」


 ヒビキの申し出に、ニヤリと笑って、


「急いで飛ぶ時に、抱えてる仲間へ負担がかからない飛び方を、教えてあげましょう」


 と云ってくれたので、私の運び人はアベルさんの担当になった。


 ソラちゃんとミアちゃんが、『飛翔の靴』を片足ずつ装備し手を繋いだ後、元気よく声を掛けてきた。


「お兄ちゃん」

「いつでもオッケー!」


「では、行きましょう」


 アベルさんの合図で、全員が飛び上がる。


 あれ?! 上昇する時の、息が出来ない感じがない!

 え?! なんで?


 景色が流れていく速さを見ても、結構なスピードで町に向かっているはずなのに、毛皮に当たる風を感じないどころか、空気の冷たさも感じない。


 訳が分からないけど、快適な空の旅なのは確かだっ。

 ひゃほーい!


「アベルさん! オカンなんでそんなに快適そうなんですか?」


 真横で飛んでいたヒビキの不服そうな声に、アベルさんが、ふふ、と笑った。


 あ、なんか、ちょっと得意げ? 得意げになってるよね?

 クールな人だと思ってたけど、実はすごく表情豊かなのかもしれないな。


「風魔法でオカンの前だけ障壁を作っています。あと、火魔法と風魔法を組み合わせた温度管理も、オカンの周りだけ完璧にしているんすよ」

「すごい……!」


 やばい。至れり尽くせり感が嬉しすぎるー!


「ホントだー。ここだけほんのり温かいー」


 アベルさんの”快適空の旅ご提供”のカラクリを、ヒビキの胸元で聞いていたピーちゃんが、すかさず私の頭の上に止まって寛ぎだした。


「オカン! ピーちゃん! 俺も絶対覚えるからね!!」


 ヒビキの何かに火が付いた模様。

 負けず嫌いだもんなぁ。

 手が届きそうな範囲の努力には、ものすごい粘りを見せるヒビキさんだから、近いうちヒビキの快適空の旅も実現してくれそうな気がする。



 キプロスの南にある城門に着地した時には、丁度陽が完全に落ちる所だったけど。

 門番のオジサマが、「『動物使い』様だから特別ですよ」と云って、ほとんど閉まりかけていた城門の隙間から、こっそりと入れてくれた。


 ありがたや~。


 ピーちゃんの入れ知恵で、袖の下もどきの妖精キノコを、一粒渡してお礼を云いながら門を後にする。

 門番のオジサマは、受け取った妖精キノコを大急ぎで頬張ると、満面の笑みで手を振ってくれた。


 同じ宿屋の方が色々打ち合わせもしやすいし、何より清潔でお安い()()()、ハナコさんの宿屋にアベルさん一行も泊る事にした。


 ……そういえば、一泊のお値段まだ確認できてなかったんだよなぁ。

 女将さんは妖精キノコと相殺で良いと云ってくれてたけれど、そういう訳にいかないし。


 第二区画を突っ切るようにして、第一区画と第二区画の間の大通りを目指して歩く。

 陽が落ちているからか、町の人たちに呼び止められる事もなく、さくさくと進む。


 町には街灯がないので、数多の星と――土星のような惑星と月っぽい衛星――からもたらされる、自然の光に照らされて幻想的…………な、筈なのにっ!!


 そこここに生えている奥様の石像が、薄明りの効果を受けて、ものすごくおどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。


 猫耳娘たち、怖がってないかな? と心配した矢先。


「何回見ても、この石像ってなンとなく不気味だね……」


 と、ソラちゃん。


「そぅお? アタシは、この石像見ると落書きしたくなる~」


 と云ったミアちゃんの頭に、アベルさんの拳骨が飛んでいた。


 えっと。

 ミアちゃん、本気で呪われるからやめとこうね。

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