68.ゆずりあい、男子
趣旨を忘れて派手な鬼ごっこをしてしまった男子二人組が、少し気恥ずかしそうに降りてきた。
着地したヒビキに、ソラちゃんとミアちゃんが駆け寄って、興奮気味にヒビキの健闘を称えている。
私のそばに着地したアベルさんが「お待たせしてすみません」と云いながら、鬼ごっこの発端になった『回復の腕輪』を私の頭に通してきた。
「みぎゃっ」
ちょっとアベルさん。いくら猫の頭だからって、人の腕サイズに作られた腕輪は入らな――
――あれ? 入った。
輪の大きさは自在に変わるようで、驚いた事に私の頭を難なく通過した。
「オカン、大丈夫?」
私の叫び声に、あわてて傍に来てくれたヒビキが、首輪になった『回復の腕輪』をみて吃驚している。
「アベルさん。この、真ん中の宝石さっきより輝いてませんか?」
「……そうですね。僕もこれほど適合すると思いませんでした」
ん? 適合?
首についている為、自分で見る事が出来ない。
意味が解らず二人を交互に見ていると。
「ダンジョンで入手できる装備の多くは、純粋な人族には反応しないか、効果が少ない事が多いのですよ」
と、もふもふしながらアベルさんが教えてくれた。
「へええぇ。俺も着けていいですか?」
「もちろんです」
ヒビキが私の首からそっと腕輪を外して、自分の手首に装着する。
表面をつるつるに磨かれた薄茶の木の素材で出来ている腕輪は。
中央に大きなエメラルドグリーンの宝石がはめ込まれていて、両サイドに小さな鉄黒色の飾り玉がひとつずつ付いている。
……あれ?
アベルさんが袋からだした時より、宝石の色がくすんでない?。
「ヒビキさんには反応していないようですね」
アベルさんがさっくりと評価を下すと、しょんぼりと頭を垂れて腕輪を外すヒビキ。
外した腕輪を受け取ったアベルさんが、ソラちゃんを手招きした。
「ソラ、こっちを着けて」
「はーい」
ソラちゃんが、もともとはめていた『回復の腕輪』を外して、ヒビキから受け取った腕輪を着けると……。
エメラルドグリーンの宝石の、外側から中心に向かって半分ぐらいの所まで、透明感のある翠玉の色になった。
「適合すると、こうやって……宝石の透明感というか…輝きが出るんですよ」
「面白いですね……」
「完全に適合すると、宝石全体に輝きがでます」
「じゃあ、オカンって完全に適合しちゃったって事ですか?」
「そうです。 しかも、この両サイドの鉄黒色の球も変化していたので、追加付与されている物理と魔法の防御力も上がります」
「でも、オカンは俺がずっと抱いてればいいんだし、ミアちゃんかソラちゃんに、着けててもらった方が良いんじゃないですか?」
「そこが不思議の最たる所なんですけれどね? ソラ、つけて」
「は~い」
ソラちゃんが、もともとつけていた『回復の腕輪』を追加で腕に通すと……。
「えっ」
二本の腕輪に付いていた宝石が、そろって輝きを無くした。
「ね? 不思議でしょう? どういうカラクリなのかは不明なのですが、複数装備できないんですよ。靴と腕輪は装備できているので、装備品同士に、相性があるのかもしれないのですが……」
「沢山着けれたら良いのに……」
「ダンジョンの宝箱から出る装具の多くは、古の時代にドラゴン族が作ったと言われています」
「ええっ!」
「ミアたちのような、魔力を持たない種族の為に作ったらしいのですが……。他の種族に奪われたり、一人が独占しないよう配慮した結果、こうなったらしいのですよ」
「なるほど……」
ソラちゃんから『回復の腕輪』を受け取ったアベルさんが、再び私の頭に通してきた。
「こちらの『回復の腕輪』は、ダンジョンの130階の宝箱から得たもので、ソラが装備しているモノよりはランクが上なのは確かです」
「職業『鑑定』の人に見て貰ったから本当です」
「『鑑定』のおじちゃん、びっくりしてたもン」
「「ねー」」
「では、ソラちゃんにこっちを着けててもらった方がいいのでは?」
「ワタシだと適合が半分だから、こっちの方が回復量が大きくなるンです」
「アタシなんか、どっちもちょっとしか合わなかったンですよ」
「オカンがこれほど適合しているのも、何かの縁でしょう。受け取って頂けませんか」
「でも……」
「ん~もぅ、面倒くさいわねぇ!」
決めあぐねているヒビキに、業を煮やしたピーちゃんが耳元で囁いている。
(これ、大金貨1枚の価値は余裕であるわよ。受け取って差額分ぐらい支払わないと、アベルさんたちここで野宿させる事になるわよ)
(そ、そんなに?! わかった。ありがとう)
ヒビキとピーちゃんの密談が決定するのを、じっと待っていたアベルさんに、ヒビキが「ありがとうございます。頂きます」と返事した。
「よかった! まだ、僕の命を救って頂いてたお礼も出来ていないままですが、そちらはまたダンジョンで良い物を入手できた時にお返しさせて下さいね」
「い、いいええ!! それもこの腕輪で充分です!」
「『世界樹のしずく』だけでなく、『妖精のキノコ』に『ユニコーンの角の粉末』まで頂いているのです。全く足りてないですよ!」
譲り合い男子二人のせいで、またループし始めそうだ……と、どんよりしていたら。
「だー! もぅ、二人ともうっとおしぃ! いつまでたっても終わらないじゃない!」
ピーちゃんが、我慢の限界を迎えたようだ。
「ヒビキ、『空間収納』出して」
出されたヒビキの空間収納に、勝手知ったる感じで腕を突っ込んだピーちゃんが、小金貨を3枚取り出した。
「はい、アベルさん」
「えっ、でも……」
「うるさい。重たいんだから、早く受け取って」
「受け取って下さい、アベルさん。俺が自分で稼いだ硬貨じゃないから申し訳ないのですけど……」
「……ありがとうございます」
「どーせ、鎧が回復したら、またダンジョン潜るんでしょ?」
「もちろんです」
「これは、それまでの間の、ヒビキとオカンの家庭教師代だと思ってね」
ピーちゃんの半分こじつけな理由付けに、アベルさんが微妙な笑顔で頷いてくれた。
「あとね。勇者なんだから、『空間収納』は使えた方がいいと思うのよ」
「「「えっ」」」
あ、そっか! ピーちゃんに妖精の粉を掛けて貰ったら良いのか!
「言っとくけど、私はもうヒビキに『従属』しちゃってるから、他の人には粉をあげられないからね。オカンは、ヒビキの従属になってたからあげられたけど」
ん? どういう事?




