66.反射神経って先天性? 後天性?
……っくしょん!
濡れる度毎に乾かして貰っているとはいえ、短時間でびしょ濡れを繰り返したせいで。
すっかり体が冷え切ってしまった。
「今日はここまでにしましょうか」
アベルさんの天の声が舞い降りてきたので、ガッツポーズしたら。
ちょっとびっくりした顔になったアベルさんが、すぐに破顔して……ものっすごい勢いでナデナデしてきた。
ひーげーがー。
折ーれーるーかーらーやーめーろー。
倒れた後、割とすぐに起きてきて訓練を再開していたヒビキも、「疲れた~」と云いながら、その場にどさりと座り込む。
【本日の特訓の成果】
ヒビキ:手前の棒に当たる事は無くなったものの、まだまだ威力調整に難あり。
私 :一度も成功せず。
反射神経って、どこで買えますか……。
すでに陽は大分傾いていたが、私の体がかなり冷えている為に、「もう一度お風呂に入りましょうか」と云ったアベルさん。
隅っこの方でのんびりお昼寝していた3人娘達が、ガバッと飛び起きて脱ぎだした。
お昼寝いいな~と思いながら横目に見ていたのだけど、あの素早さ……
さては……タヌキ寝入りだったな……。
◆
ピーちゃんだけ、「一日に何度もお風呂入るなんて、ふやけちゃうわよっ」と男子湯の方へ。
ミアちゃんとソラちゃんは、岩風呂の近くにシャーベットオレンジジュースを配置して、時々喉を潤しながら半身浴を楽しんでいる。
男子湯から漏れ聞こえてきた「……オカンの……特訓が……」という不遜なワードに引き寄せられるように、女子湯との境目の板付近で聞き耳を立てる私。
「そうですか……。出し物を……」
アベルさんの声だ。 出し物ってあれかな?
領主様に云った苦しい言い訳の話だよね。
「お詫びにならないかもしれませんが、僕もお手伝いさせて下さいね。……ミアがご迷惑をおかけして、本当に申し訳なかったです。」
「本当ですか! 助かります! あと、誰も怪我もしていないんだし、もうその話はしない事にしませんか?」
ヒビキが猫攫いの件は今後話題にしないように提案してくれている。
うん。できればそうして欲しいと思ってたんだ。
かなり怖い思いをしたけれど、私の攻撃でミアちゃんを……あんな上空から落としちゃったから……。
実は、かなり申し訳なく思ってたんだよ……。
目が合うとニコニコしながら撫でてくれるので、ミアちゃんはあまり気にしてないのかもしれないけれど。
「こんなのは如何ですか?」
アベルさんの声と共に、ぽひゅ~~~ん、と何処か間の抜けた音が上へと向かって飛んで行く。
小さい、火の玉……のようなものがかなり上空まで到着した途端。
ドーーーン! パラパラッ!!
四方に円を描いて弾け飛び、綺麗な火の華を咲かせていた。
花火だー! すごい!!
「おおー! すごい!」
「綺麗~!」
「「たーまやー!」」
おお? 猫耳娘達、その呼び声はどこで知ったの?
「三番目の勇者様が編み出した技なんですよ」
「へえー!!」
「火の魔法が使える者なら、ある程度訓練すれば使えるようになります」
「……そうですか……」
あ、ヒビキの声のテンションがめっちゃ下がってる。
妖精の森で練習した時、出来なかったもんねぇ……。
「じゃあ、オカンもできるかしら!」
うわ。ピーちゃん、それはやばい。
アベルさんの特訓メニューに、花火追加されるのは嫌だぁ。
「オカンは、結界魔法を完璧なタイミングで発動できるようにするのが先ですね」
ナイスなアベルさんのフォローにホッとしつつ。
「明日から、魔法剣とオカンの結界発動の特訓の合間に、出し物の練習も加わえましょうね」と云う声が聞こえてきて、どんよりした気分になった。
◆
お風呂上り。
バチィ!
「ぐっ!」
男子湯から不穏な電磁音とアベルさんのうめき声が聞こえて来たので、慌てて駆けつける……と……。
ズボンを履こうと片足を上げた体勢で結界を発動しているヒビキと。
すぐ傍で、右の拳に左手を添えて、悶絶しているアベルさんの姿があった。
ピーちゃんの実況報告では、空間収納から着替えの下着を取り出すヒビキを見たアベルさんが、イキナリ腹パンチを繰り出した、と。
「反射能力が高いのは判っていましたが。強度・持続力・タイミング。すべて完璧です。血のにじむような鍛錬をしていなければ、これほどの結界は習得できません。すばらしいです!!」
絶賛するアベルさん……。
まさか、母親の『腹筋パンチ』の賜物ですとは云えないヒビキと……事情を知っているピーちゃんが苦笑いをしている。
「いえ……そんな事は……ないです」
「これほどの力を習得しておきながら、天狗にならない事も素晴らしい」
もう……やめてあげてー。




