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65.オカン、特訓に巻き込まれる

「オカン……」


 私を両手で捕まえて、目の高さまで持ち上げたアベルさんが、微笑んでいる。


 え、なんで悪の微笑みになってるの?

 

「まさか……。貴方まで空間収納を使えるとは……」


 うん。使えるよ。

 それが……なにか……?

 汗をかかない筈の猫の体なのに、背中に冷や汗が流れたような気がする……。


「んな~ぅ?」


 首を傾げてアベルさんを見つめ返す。

 

「空間収納が使える、という事は、結界が張れるという事です」


 うん。知ってる。ヒビキさん得意だもの。


 コクリと頷いて……。はっとする。


「結界を張れるようになれば、初撃の回避ができますね」

「にゃ、にゃ~?」

「仮に弱い結界だったとしても、受けるダメージを幾分減らせる訳です」

「にゃ、にゃ~……」


 嫌だぁああああ。 

 スパルタは嫌だぁあああ。

 自主練! 自主練習を所望する!


 私を抱えたまま、ヒビキの方へ歩き始めたアベルさんの肩越しに、3人娘に助けを求めたけど。


 小さく手を振る娘っこ達の姿があった。


 う、う、裏切りものぉー!!




 ヒビキが風魔法を放つ。

 放たれた風の魔法は、新体操のリボン帯のような()()()をつけて飛んで行く。

 十数回のチャレンジの後、手前の棒に当てる事なく早くも奥の棒にのみ当たるようになっていた。


 ただ、今度は威力の調節に苦戦しているらしく、奥の棒に当たった衝撃波で、手前の棒まで破壊している。


 がーんばーれーぇ。

 応援しながら、ぼんやり見ていた私の顔面に。

 パシャンと音を立てて、ゴルフボール程度のサイズの水の球が弾けた。


 ううぅ。

 また失敗……。


 ”アベル・ザ・ブートキャンプ”のスパルタコースは、幸い私には適用されなかったものの。

 優しさが地味に堪える鍛錬が選択された。


 ヒビキが巻き起こす爆風は、すぐそばで見守るアベルさんにも、当然飛んでくる。

 何食わぬ顔で風の障壁を作ってソレをいなし、爆風が収まれば新たに的となる木の棒を作成するアベルさん。


 私はと云えば、そんなアベルさんの腕の中で仰向けに抱きかかえられ、ヒビキの訓練を見守りつつ……。

 突然落とされる水の球を、結界を張って防ぐべし。という訓練内容……。


 痛くも無いし、きつくも無いんだけど、いかんせん反射神経が壊滅的なので、全く成功する気配がない。

 ううぅ。泣きたい……。



 アベルさんにドナドナされた後、「まずは結界を発動させましょう」と言われ。

 散々っぱらに、腹部をぐにぐにと人差し指でつつかれまくった末に、やっとこさ発動できた結界は。


 強度こそ「なかなかのものです」とお褒め頂いたものの、発動時間がたったの2秒。


 まさに、攻撃される寸前に発動させなきゃ意味がない状態。


 危険を察知! 発動! 2秒後に解除! 被弾!

 ってな魔のループ。


 被弾してから結界が発動することもしばしばで。


 顔面が水浸しになる度に、風魔法で撫でながら乾かして貰うのだけど……。

 ねぇ、アベルさん。

 もふもふできて、一石二鳥みたいな満足げな微笑みが悲しいです……。


 何十回目かの爆風を引き起こしたヒビキが「ちくしょう……」と云いながら、前のめりに倒れた。


「んにゃ!」


 慌ててアベルさんの腕から飛び降りてヒビキに駆け寄ると……。


 寝とる……。


「魔力切れを起こしていないのはさすがですね」


 あー……。吐くまでランニングさせるタイプの監督だー。


「心配ありませんよ。少し寝れば目を覚ますでしょう」


 訓練中に気を散らしたお仕置きですと言わんばかりに、私の真上に発生したバレーボールサイズの水球が。


 今にも落ちてきそうな感じで、ぷるぷると揺れている。

 よっしゃ、かかってこーいと構える私。


 水球はぷるぷると揺れている。


 え。落ちるの? 落ちないの?

 いつくるの?


 水球を凝視する私。

 ぷるぷる揺れる水球が、横にうにょーんと伸びた。


 なんぞ?


 新しいアプローチにビックリしていると、水球が再び丸まった。


 さらに凝視する私。

 水球が5つぐらいに分裂して、踊るように飛び回り始めた!


 すごーい!!


 水の球がキラキラ輝きながら飛び回るのは、ちょっとしたイリュージョンみたいでわくわくする。


 ふいに、飛び回っていた水球がひとつに固まって。


 あっ。


 と思った時には、頭からびしょ濡れになっていた。


 ……訓練中で……ゴザイマシタネ。


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